居酒屋で経営知識

(88):オートメーション(2)

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

『ジンへ
オートメーションについて、ドラッカーが述べていることが意外だったが、それは、オートメーションという手法が多くの分野に適応されるのは必然であると言っていることに気づいた。
現代の経営を読んでみたんだ。
その中で、この前、話には出なかった文章にこんなのを見つけた」

 オートメーションについての話の数日後、雄二からメールが届いた。その中で言っている現代の経営からの抜書きはこうだ。

オートメーションという新しい技術の時代においては、中央の計画によって経済を運営すべく、企業の自由なマネジメントをなくそうとする社会は滅びる。責任と意思決定をトップに集中させようとする企業も同じ運命をたどる。あたかも環境の変化に適応できない中央集権化した神経によって、身体をコントロールしようとした太古の恐竜のように滅びる」(同書 P30)

 この時、ドラッカーが考えたオートメーションは今ビジネスにどう関わっているだろう。

「へい、いらっしゃい。毎度」

 雄二はすでにカウンターで飲んでいた。

「よお。まだ、二杯目だ。気にするな」

「何を気にするんだ。亜海ちゃん・・・あ、ありがと」

「とりあえず、乾杯」

「早速だが、ジン。オートメーションってのは、簡単に言えば自動化だろ。自動化の目指すところは、やっぱり中央集権化なんじゃないだろうか。そうすると、ドラッカーは、その中央集権化してしまう自動化にNOと言っているのだろうか?」

「いや、そうじゃないだろう。自動化は不可避だと言っているのは確かだ。実際、今の我々の生活はいろんなところで自動化されている。工場だけじゃない。自動ドアや人が近づくと動き出すエスカレーター、もっと言えば、コンピューターというものは、基本、自動化のためにあるとも言える。インプットに対し、計算したり、状況に応じて、制御システムに指示を出し、アウトプットまで行う」

「コンピューターか。なるほど、時代はオートメーションによってコントロールされるのは必然で、着実に進んでいるということなんだな。それに警鐘を鳴らしている点は、中央集権化ではいけないということになるんだよな」

「そういうこと。オートメーションは、あくまで生産性向上のツールであって、そのアウトプットについては、責任を持ったマネジメントの意思決定でなければ、滅びるとまで言っている。つまり、オートメーションに頼り切ることへの危機感なんだろう」

「なるほど。もしかすると、最近のITシステムで構築されている企業の業務システムは、すべてトップが簡単に全体を把握できることも問題だというんだろうか」

「トップが全体を把握できることについては、現在のITによるオートメーションの恩恵だとは思う。それ自体が悪いわけではないな。要は、それによって、本来、責任を持って意思決定をするべき、地位と位置づけが曖昧になり、いつしか、トップが全てをコントロールしなければいけない状況に陥るような気がするんだ。これは、結果的に、スーパーマンをトップにしなければ、あらゆる変化に対応することは不可能になる。つまり、トップという一人の人間に頼ることになってしまう恐れがある」

「うーん。マネジメントの本来の目的ではなく、監視システムとか、検閲システムになってしまうというわけか」

「言葉が極端だが、場合によっては、そうかもしれない。情報がトップに直結すると言っても、すべて、前後関係や経緯も含めて、正しく伝わるシステムなどあり得ないだろ。それは、人間の限界だから、いくら高度なシステムであっても、それは越えられない。つまり、いきなりトップは、情報を事実として、自分の経験の中で判断し、中央集権化したコントロールをしてしまう恐れがある」

「なるほど。そこはわかる気がする。組織が優秀なのは、それぞれ重要なポストにそれぞれ強みを持つ人を配置し、責任と権限を与えることで、個々の人間の能力をはるかに超えた成果を挙げることができるということだ。俺でさえ、毎日、メールや経営数値情報が洪水のように送られてくるのに辟易しているんだ。それを一々確認して、指示を出すなんて無理だ。ところが、気になる重要プロジェクトだけでも、トップがそれぞれのプロセスに口を出すようになると、オートメーションシステムがいきなり、トップからの命令システムになってしまう恐れがあるな」

「たぶん、それが、ドラッカーの心配なんだと思う。本来、オートメーションによって、高度な生産性を持つわけだから、高度なマネジメントが可能になるはずだ。マネジメントが、さらに上を目指すものでなければ、地位と位置づけが曖昧になった経営管理者や知識労働者の強みや責任感を奪い、組織崩壊につながるという恐ろしい予言をしているんだ」

「うーん。難しい話だが、わかる気がするのが怖いな。あちこちでその兆候が見えるような気がするよ」

「確かに。もしかすると、現代の経営にとって一番の問題なのかもしれないな」

 珍しく、雄二も酒を頼むのを忘れて考え込んでいる。

「とはいえ、マネジメントをしっかり考える経営者が育っているから、そんな経営者がリーダーとして、他の模範となるだろう。そこは、成果が明確に示すはずだ」

「うん。そうだといいんだが。これは、すぐ答えが出るわけでもなし、ま、飲もう。大将!日本酒!」

 やっぱり、いつもの雄二か。でも、同感だ。ま、飲もう。

(次回へ続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
ンド社を読み直しながら、進めています。
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 オートメーションについて書かれている最後の方に、今回の抜き書きが書かれており、再度読み直した時、これが一番のポイントだと思いました。

 そのため、追記で、この点だけ取り上げてみました。

 皆さんの仕事で、このオートメーションが取り入れられている分野は、よく考えると多岐にわたっていると思います。それが、本来の生産性向上に寄与するためには、それを使う思想が統一されている必要があります。それがないと逆効果になるかもしれません。