居酒屋で経営知識

(87):オートメーション

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい、いらっしゃい。ジンさん、あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします」

「大将、亜海ちゃん。あけましておめでとうございます。こちらこそ、本年も宜しくお願いします。

「ジンさん、おめでとうございます」

 今年も常連席に大森さんと近藤さんが陣取っていた。

「おめでとうございます」

「さあさあ、ジンさん、いつもの席へどうぞ。樽酒でいいですよね」

「もちろんです」

 今年もみやびでは4斗の菰樽を店の中央に置いて、お客さんに無料で振舞っている。

「大将、亜海ちゃん、大森さん、近藤さん。改めまして、あけましておめでとうございます」

 今年も口開けはみやびだ。今年こそ、新たなチャレンジの年にすると誓って樽酒を飲み干す。

「おおー。今年もジンさんの飲みっぷりを見られたから、いい年になりそうだ」

 みやび流おせち膳で樽酒をお代わりし、年末年始の報告をしながら新年の1日が過ぎていく・・・

「お、やってるな。亜海。升酒大至急」

「はーい」

「雄二。お・め・で・と・う」

「おお。ジン、おめでとう。大将やみんなもおめでとう!」

「挨拶前に酒酒かよ。いい加減、大人になれよ、雄二」

「まあまあ。すまんな。ちょっと、お得意様周りで挨拶疲れしてたんだ」

「まあ、じゃあ、改めて、おめでとう、乾杯!」

「うまい。今週はずっと挨拶回りと賀詞交換会で目が回るよ。これこそ、オートメーションにして座ってれば一通り終わるようにしてもらいたいもんだ」

 ちょうど、乾杯に立った近藤さんが声を掛ける。

「鳶野さん。現代の経営を読んだんですか?オートメーションについても書かれてますよね」

「え?オートメーションなんて書いてありましたか?そんな、項目見た記憶はないですがねえ。ジン、そうだろ」

「雄二。読んでないのがバレバレだよ。目次にも出てるよ。最初はマネジメントの挑戦という章(第3章)にいきなり、オートメーションとは何かから始まっている。第9章の生産の原理でも説明しているよ」

「うっ。オートメーションをドラッカーが取り上げているとは予想していなかったよ。生産技術についても言ってるのか?」

「鳶野さん。オートメーションというのは生産技術について言っているんじゃないですよ。これもドラッカーの受け売りですが、『オートメーションとは仕事の組織化についてのコンセプト』なんです。だから、工場の生産ラインだけでなく事務処理についても適応できる原理だと言っています」

「うーん。ちょっと、わかりづらいなあ。近藤さん、オートメーションというのは、仕事を自動化して、人がいなくても生産できるシステムだと思ってましたが」

「大量生産のベルトコンベアを想像しているのかもしれませんが、もともと自動車工場などの大量生産のラインには多くの労働者が控えてましたよね。自動化したのは物の移動からですから、オートメーションと言うのは程遠いです。最近は、ロボットを配置していますので、それに近いですが」

「そう言われればそうかもしれませんが。うーん。でも、ロボットで、人がいなくても生産できるオートメーションができたということじゃないんですかね」

「そうですね。全く同じものを同じように作っていけばいいならそうとも言えますね。ところが、現在の市場においては、同じものを大量に作っても売れるとは限りません。そのためには、新たな設計や細かな修正についても臨機応変に対応させるため、さらに、例外処理に対応するための人員が必要になります。ただし、それは肉体労働者ではないですね。個別の技術者や経営的視点でコントロールする経営管理者が必要になってきます」

「人は依然として必要というなら、オートメーションにする理由はなんなんですかね」

「それは、新たなニーズや新技術に高品質、低コスト、そして、短納期で対応するためですね。そのためのシンプルなプロセスを開発し、将来の変化にも対応でき、経営からの要求にバランス良く対応できることがますます求められています」

「雄二。近藤さんの説明は核心をついていると思うぞ。『技術の変化は、人の労働を余剰になどしない。逆に、高度の教育を受けた膨大な数の人たちを必要とする』(P28)ことも重要だ。特に、日本は今後急激な少子高齢化社会に入っていく。その最大の問題は、生産年齢と言われる世代の激減であり、つまり生産供給力の低下だ。それに対し、高齢者の増大は、需要自体は大きく落ちないか、高齢化に関係する分野では急激に需要増が予想できるだろ。そのためにも、高度なオートメーションシステムとそれをコントロールし、組織をマネジメントする高度な教育を受けた知識労働者を必要とすることになる」

「最近、人手不足から移民を受け入れるという話題が出ているがそのためかな」

「それは難しい点だ。今も言ったように、高度なオートメーションによって、生産効率化を図るのがこれからの日本の生きる道だと思う。そうなると、単に移民の受け入れで生産年齢人口を増やすということではない。それは、過渡期においては、必要となる可能性もあるが、目指すところは、高度の教育を受けた膨大な知識労働者だということだ」

「やっとわかったよ。近藤さんもありがとうございます。現代の経営を読み直して、良く考えます。ということで、亜海、お代わり!」

「ジンさん。少子高齢化と移民政策の話は初耳でした。確かにこれからの大きなテーマになるかもしれませんね。介護士などで海外から受け入れているのは、ある一定以上の知識・技能を身につけた人でしたね。これなどは、必要な対策なのかもしれません」

「そうでしたね。今後の議論には気をつける必要があるかもしれません」

 新年から大きな問題意識を得られたのは、いいことだ。

「大将。正月だし、鯛のお造りでも頼むよ。今年もみんなに教えてもらわなければいけないから、俺の奢りだ!」

「おおー。雄二がみんなに奢るなんて、今年は何が起こるかわからんな」

「ジン。そんなこと言うならお前にはやらん」

「いや、前言撤回。今年はいい年になるよ」

(もちろん次回へ続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
ンド社を読み直しながら、進めています。

 実は、私も雄二と一緒で、オートメーションについては、機械化程度の意識だった様な気がします。ドラッカーが明確にオートメーションについて、書いていることもあまり意識しませんでした。

 そこから、少子高齢化や移民政策に思いが至ったものですので、この辺は私自身の考えです。未熟練労働者や肉体労働者としての移民政策は間違いだという考えは以前より持っていました。

 人手が必要な部分をいかにロボットなどの技術によって補っていくかという視点が必要ではないでしょうか。