居酒屋で経営知識

98.赤札作戦

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
新田:大森さんの紹介で知的資産経営を指導している。行政書士

「いらっしゃい。毎度」

「あれ?雄二、どうした」

「あれ、はないだろう。たまには息抜きが必要だって」

「ま、そうだな。あと10日というところだな」

「とうとう目の前まできてしまった。まな板の上の鯉状態だよ」

 中小企業診断士試験の2次は、今年は10月21日に行われる。雄二もこれまでは、ほとんど飲みに出ていないはずだ。

「それじゃあ、軽く前祝いといくか」

「うっ。やっぱりプレッシャーになるようなことは言うなよ」

「雄二も本気になったってことか。本気になると時折弱気になるんだよな」

「なんとでも言ってくれ。特に、この試験は何をやっても回答にちゃんとなっているのかどうかがわからないから、辛いよな」

 弱気になっている雄二と軽く乾杯をした。

「ところで、どんな内容が一番苦手意識を持っている?」

「ああ。それは、事例3で出てくる工場の生産管理のところだな。コンビニとか、スポーツクラブなんかなら想像がつくが、工場じゃあ、全くわからないからな」

「そうだろうな。どんな業種が出てくるかわからないからな。確かに、製造工場についての問題が出ると平均点が下がるという話も聞いたことがある。俺なんかは、工場との付き合いがあるから割と取り組みやすいんだがな」

「Q・C・Dが基本だとは言われたが、具体的な品質管理とかコスト管理、工程管理の内容になってくると結構苦労するんだ。知らないことを文章で書くというのは不安で仕方が無い」

「まあ、その辺は品質管理なんかの単語で答えるしかないないだろうな。それより、知らない専門用語が出たときの方が大変だぞ」

「何かジンが苦労したような専門用語は思いつくか?」

「うーん。あれは、過去問だったのか、どこかの模擬試験だったのか忘れてしまったが、赤札作戦というのには面食らった記憶がある」

「?赤札作戦。なんじゃそりゃ。学校でも聞いたことがないぞ」

「じゃあ、過去問じゃなかったのかな。それなら、覚えておいても損はないかもしれないな」

「おお、頼む」

「工場管理の基本では、5Sと言うのが出てくるだろう。これは、覚えているよな」

「ああ。整理・整頓・清掃・清潔・しつけ、の5つだよな。それと関係あるのか?」

「そうなんだ。一番最初の整理に対応した具体的な活動を言うんだ」

「整理の活動で、赤札作戦か。そりゃ、どんな作戦だ」

「まずは、整理とはなんだった?」

「うーん。必要なものと不必要なものを明確にして、不必要なものを捨てることかな」

「よし、正解。今の定義そのままに行うのが赤札作戦だ」

「分けて捨てるということか?」

「その通り。一般的な赤札作戦のやり方はこうだ。

(1)赤札の対象を決める:例えば工場の備品棚
(2)赤札基準の決定:例えば1ヶ月使っていないもの
(3)赤札の作成:分かりやすい大きさの赤い紙など
(4)赤札の貼付:現場担当者ではなく間接部門の人が事情を聞きながら、厳しく貼っていく。疑わしきは赤札。
(5)赤札分類後の対処:明確になった不要物について、再評価し、できる限り処分するというものだ」

「なーんだ。割と簡単な作戦だな」

「でも、知らないとどうしようもないだろ」

「確かに。もし、本番で出たらジン様様だ」

「ビール1年分くらいもらってもいいな」

「お前の1年分は高すぎる。もっと安くしてくれ」

(続く)


《1Point》
・5S
(1)整理:いるものと、いらないものを明確にわけて、いらないものを捨てること。
(2)整頓:いるものを使いやすいように置き、誰にでも分かるようにすること。
(3)清掃:常に掃除をして、きれいにする。
(4)清潔:整理・整頓・清掃の3つのSが崩れないよう、予防によって維持すること。
(5)しつけ:これらの決められたことを、いつも正しく守る習慣付けをすること。

赤札作戦
5Sの(1)整理のための活動。

 まずは、赤札作戦をトップも一緒になってスタートすることが重要。プロジェクトとしてしっかりとした期間や目標、担当者を明確にして始める。

(1)赤札の対象を決める:例えば工場の備品棚
(2)赤札基準の決定:例えば1ヶ月使っていないもの
(3)赤札の作成:分かりやすい大きさの赤い紙など
(4)赤札の貼付:現場担当者ではなく間接部門の人が事情を聞きながら、厳しく貼っていく。疑わしきは赤札。
(5)赤札分類後の対処:明確になった不要物について、再評価し、できる限り処分する