居酒屋で経営知識
6.マネジメント基礎講座:人間関係論「ホーソン実験」
【主な登場人物】 ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪 雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している 大森:みやびの常連 地元商店街の役員 近藤:みやびの常連 建設会社顧問 亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
(前回:科学的管理法と人間関係論のつながりを由美ちゃんと話していました。今回は、研修本番です)
今回は、由美ちゃんに全体進行を任せることにした。
前回の科学的管理法についてのグループディスカッションにおいて、科学的管理法の限界についての意見が出ていたのでその内容からはじめることにしたのだ。
「科学的管理法では、目標と評価というものを対応させたと言う点で組織マネジメントのスタートだという説明をさせていただきました。その後のグループディスカッションで、私の入ったグループの田中部長さんから会社の歴史を教えていただいたんですが、その時の結論が、科学的管理法だけでは強みを共有したり、より強めて会社を大きくしていくということはできないのでは、と言うことでした」
由美ちゃんは、問題提起をし、つづいて人間関係論のスライドに入った。
「ホーソン実験」という実験を聞いたことがありますか。
あまりに有名な実験ですが、シカゴのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で行われたため、ホーソン実験と言います。
この実験、最初は、「科学的管理法」の実証実験だったと言われます。
結果的に4回にわたる実験を行ったのですが、これは当初からの予定ではなかったそうです。
つまり、科学的管理法として、物理的な作業環境を変化させて最適な環境(最初は照明の明るさでした)を見つけ出す目的だったと考えられます。
第一次実験:作業条件と能率との因果関係を明らかにするために行われました。
照明が明るくなればそれだけ生産があがるだろうと仮定し実験が行われました。
まず、2つの組みたてグループを編成しました。
第1グループはテストグループとして、照明度をいろいろ変化させた中で作業を行うグループ、そして第2グループは対比するために照明度を変化させない状況で作業をさせるグループでした。
当然、第1グループでは照明度が明るくなるにつれて、生産性が上昇していきました。
では、第2グループはどうなったと思いますか?
なんと一定の照明度のもとで作業をしていた第2グループにおいても生産性の向上が見られたのです。
予想外の驚くべき結果だったのでしょう。そこでさらに次の実験へとつながりました。
第二次実験:もっと詳細な作業条件のコントロールを行い、再度相関関係を解明しようとしました。(継電器組立作業において、テストルームの環境、休憩の回数・時間などを変化させて能率の変化を実験した)
ところが、作業条件の改善で生産能率の上昇はありましたが、作業条件を元に戻しても上昇したのです。
つまり、仮説は証明されなかったことになります。
そこで、さすがに作業条件と能率だけの直接の相関関係だけでは無いのではないかと気づき、新たな命題として人間の心(満足・不満足のような感情)が能率を左右するのでは、という段階に到達したのです。
第三次実験:その仮説を確認すべく大がかりな面接調査を実施しました。
そこでわかってきたことは、「人間の行動は職場の人間関係を含む社会的な脈絡で理解されるべき」などであり「人間関係論」につながる命題が導かれたと言われます。
第四次実験:バンク配線作業実験で組織が「公式組織と非公式組織」の二重構造となっていること、「非公式組織」の影響力が非常に大きいことをあきらかにしたのです。
ここで言う公式組織とは、会社の組織表にある組織と考えてみてください。それに対し「非公式組織」とは、仲良しグループのような自然発生的に生じる人間関係です。
まず、この実験の素晴らしさは、1924年から1932年まで諦めずに継続されたことにあると思います。
このしつこさが、元々は「科学的管理法」派の実験から「反」科学的管理法としての「人間関係論」生成のきっかけを作ったと言えるのです。
このホーソン実験の全体を通して理解された注目すべき結果とは以下の点だと思われます。
実験において労働条件(労働時間、休憩時間、照明の照度、室温、休憩時のおやつなど)を様々に変化させても毎週の生産性はどんどん上がっていったのです。もちろん、だんだん良くするだけではなく、一般的に悪い環境に戻したりしても一緒だったそうです。
導き出された結論(面接等で確認)は、この実験では一部の工員を選抜したチームで行ったため、「自分たちは選ばれた」という思いが影響したということです。
また、それまでの仕事は与えられた単純作業を「個」として処理していたのに、「選抜されたチームの一員」であるという状況がある意味プレッシャーとなり、いつしかチームの連帯感につながり、結果に対する達成感を共有したことにあったのです。
こうして、人間から感情を排除した「科学的管理法」から人間の心理的側面、内面的側面を重視した管理論への展開していくことになったのです。
「人間関係論」の開花ですね。
それでは、この人間関係論ですべてうまくいったのでしょうか。
ところがそうは問屋が卸しません。
結局、何をすれば生産性が上がるのかと言う点では、明らかな方法は見つかりませんでした。ただ、機械的ではないということがわかったと言うことですね。
初期の人間関係論はこうして新たな舵を切る役目を担うこととなりましたが、目標に到達したわけではなかったということです。
次への謎を残して、由美ちゃんのデビュー戦は大成功となりました。
「カンパーイ!」
「いやー、由美ちゃん、すごく良かったよ。分かりやすかったって、みんな絶賛だったね」
「ありがとうございます。結構舞い上がっていたので、心配だったんですけど」
「由美さん。自信を持っていいと思いますね。北野の言うように、話し方もゆっくりで分かりやすかったですよ」
「原島さんにまで誉められちゃあ、由美っペも鼻高々だなあ。皆さん、ありがとうございました」
大将まで頭を下げていた。
由美ちゃんが初めて人前で講師をしたお祝いに、ちゃんこ鍋を囲んでいる。
人間関係は、理論があろうがなかろうが、人の輪から広がっていくんだ。
(続く)
《1Point》
人間関係論(ホーソン実験)
ホーソン実験の流れを説明しました。
今では当然に思えるかもしれませんが、働く人の心の問題が人間関係に左右され、それが仕事の成果に影響することは、マネジメントをより複雑にしたとも言えますね。
それらを解き明かしていく実験というものも、その後の展開の基礎をしっかりさせるという点で、非常に重要だとも思います。
それでは、人の心に焦点を当て始めたマネジメントにとって、次の課題は何でしょうか。
自然発生的な仲良しグループをコントロールするなんてできないですよね。
次回は、心の問題に入っていくことになります。(説明がますます難しい・・・)でも、重要ですので、チャレンジします。
次回をお楽しみに。
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