居酒屋で経営知識

21.ミッションとは

(前回まで:ジンの会社の有森社長は、社内への放送とメールによる状況報告のあと、記者会見を行い、現在の調査結果を発表しました。こんな状況の中ですが近藤さんの建設会社のコンプライアンス診断を行うことも決まりました。)

「毎度」

 みやびの縄のれんをくぐると居心地の良い我が家へ戻ってきたような気がする。

「ジンさん。会社の方も大変ですねえ。さっき、社長さんがテレビに出てましたよ」

 大将はテレビで会見の様子を見ていたようだ。

「そうですね。でも、今回の事件で自分の会社がどんな会社かがわかってきたような気がします。有森社長は、覚悟のある人であることがわかりましたので心配ないと思っています」

 自分にとっては、今日一日で自分の会社に対する自信が強まったと思うのだ。

「あの社長は立派だねえ。真っ直ぐ前を向いて自分の言葉で語っているのが伝わってきましたよ。さすがジンさんの会社だと由美っぺとも話していたんですよ」

「私でも感じたわ。社員のことをしっかり考えているものね」

 由美ちゃんも大きく頷いた。

「リーダーシップは重要だとつくづく思いました。会社のミッションに向かっていく舵取りですからね」

「うーん。ねえ、ジンさん。ミッションってよく聞くけど日本語で言うとなんて言うの?ゲームとか映画でも出てくるわよねえ。ミッション完了!なんて」

「そうかあ、そうだね。ゲームなんかのミッションは、何となく作戦という感じで使っているのかもね。でも違うと思うよ」
 生ビールとお通しをカウンターに置くと空いた席に腰を下ろした由美ちゃんに向かって話し出した。
 
「ミッションというのはキリスト教でよく使われる言葉なんだけど、最近はミッションスクールってあまり聞かないかなあ」

「あ、聞いたことある。教会がある学校なんかを言うような気がするわ」

「ミッションというのはいろいろな解釈があるけど、自分がしっくりくると思うのは、イエスキリストの使命のことを言ったという説だね」

「イエスキリストの使命なんて随分宗教的なのね。人を救うとか、そう言うことなの?」

「そうだね。イエスキリストは、神の子だから本来は人間界で十字架にはりつけされるなんて不思議な話だよね。イエスキリストにとっては、それがミッションであると言う考え方をするみたいなんだ。簡単に言うと『存在する意味・使命』がしっくりくるかな。キリスト教にとっては、それを世界中の人々に知らせることがミッションとなった」

「存在する意味かあ。具体的な作戦というよりもっと上の概念と考えればいいのね。それなら存在する意味が完了すると言うことは、もういらないと言うことになってしまうの?」

「観念的な話になってしまったけど、ビジネスで言うと、経営理念とか社訓がそれに当たる場合が多いと思うね。その会社が、この社会に存在する意味や使命とは?っていう質問をしてみると良いと思う。それに答えるのが、ミッションであって、最終的に向かうべき方向と一致するわけだ。そう考えれば、存在すべき使命が完了すれば、その企業は存在理由を失うということになるね」

「ふーん。それじゃあ、例えばジンさんの会社のミッションはどうなるの?」

「うちの場合、経営理念の第一に、人の生活を豊かにするための事業を行う、というのがあるんだ。つまり、どんな事業を行うかとか、どのように行うかを考えるときに、人の生活を豊かにするためか?と質問してみることになる。これがうちの会社がこの世に存在を許されている意味なんだ」

「そうすると、人の生活を豊かにしない事業ややり方をしないという宣言なのね」

「そうだね。ミッションは社会に向けたメッセージでもないといけない。だから、人の生活が十分豊になってしまえば、存在の意味はないから解散するということに、理屈上はなるんだ。でも、簡単に達成できるようなミッションはないし、価値観も変わるから、常に、ミッションに向かって具体的な行動も変えていかなければいけない。そのための羅針盤を向ける目標がミッションであると言うことだね」

(続く)

《1Point》
・ミッション

 企業の存在する意味・使命、最終的な目標・夢
 
 経営理念・社訓・社是などがこれに当たるでしょう。一般的に、観念的な言葉となっているため、より具体的にしたミッションステートメントを作成することが多いようです。
 
 ミッションのない会社はほとんどないと思いますが、作っただけという会社も多いのではないでしょうか。自分の会社のミッションを意識しながら、会議を行ったり、企画書を作っていますか?
 
 会社が危機的状況になった時ほど、ミッションがしっかりしているか、ミッション経営がなされていたかが問われます。
 
 例えば、「人々に安全・安心な食品を提供する」というミッション経営を行っていれば、賞味期限改竄や産地偽装、禁止行為が社内で見逃されるはずはありません。

(私的感想)
 最近、ビジネス用語というとカタカナやローマ字省略形を使いたがる風潮があるように思います。欧米からの輸入思想ということもありますが、簡単にカタカナやローマ字にすればいいとは思いません。
 
 経営理念という言葉からミッションへ変えた会社も結構あるように感じます。
 
 ただし、企業には、歴史や社風となった背景、人の繋がりがあるはずです。
 例えば、経営理念と言う言葉をミッションと言い換えることに意味があるのかどうか、中身だけでなく、変える意味を考えるべきではないでしょうか。

 中身より先に、「ミッションって何だろう」と社員が悩んでいる会社が多いとも聞きます。