居酒屋で経営知識

(78):経営戦略の基本・多角化

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

 ふと目を覚ますとうっすらと夜が明けつつあった。

 土曜日の朝は、目覚ましをかけないことにしているのだが、夜明けを感じてしまっては身体を動かさざるをえないだろう。

 などと考えながら、布団を出て顔を洗う。水を一杯飲み干すと、次第に身体が目覚めてきた。

 軽くストレッチをし、ゆっくりとランニングウェアに着替えて外へ出ると、もうすぐ朝日が顔を出しそうな明るさになっていた。

 走り出す。

 仕事のピークを迎えている早朝のタクシー洗車場の横をすり抜け、公園にさしかかるといつものようにラジオ体操の準備をしている。

 おはよう。顔見知りの人たちから声がかかり、次第にペースが上がり出す。

 萬年橋を渡り、橋詰めから隅田川テラスに下りて、更にペースを上げていく。同じようにランニングをする人、のんびり散歩をする人、犬を連れ、犬を囲んで話し込む人たち。

 それぞれの朝とすれ違いながら、仕事の残滓を汗と共に流していることを感じる。さわやかな朝だ。

 1時間ほどで身も心もすっきりした。部屋に戻り、シャワーを浴びて、朝食をとると何でもやれる気分でスタートに立った。

 まずは、昨夜、亜海ちゃんから質問された「多角化戦略」について、簡単にまとめてメールすることから始めよう。

【多角化戦略について】

 アンゾフの成長ベクトルにおいて、新市場×新製品を多角化戦略となっており、リスクが高いと説明したが、多角化にもいくつかのポイントがあるので再確認する。

・多角化する理由

 リスクが高いとされる多角化戦略を検討する理由として、以下の説がある。

(1)主力事業の停滞

 これは不可避ですが、どんな事業でも、成熟期→衰退期というライフサイクルをとることになります。このため、多角化せざるを得ないということがあります。

(2)収益の安定化・リスクの分散

 少品種大量生産よりも多品種少量生産の方が、顧客の多様なニーズに応えられ、収益のブレを減らすことが出来る場合などに検討されます。また、リスクが高いと言いながら、他方では、一つの事業に集中することのリスクを考え、多角化によりリスク分散を図るという考え方もあります。

(3)余剰資産の有効活用

 遊休設備を使って別の事業を始めたり、現事業で利用している原料・資材などのこれまで使っていない(廃棄しているなどの)部分を活用して新たな製品を作る等です。

 たとえば、土地が余っているので、駐車場事業を始めるなどが典型的な例です。

・多角化のタイプ

 アンゾフは、多角化も4つのタイプに分類しています。

(1)水平型多角化
 現在の製品・市場と同じタイプの製品・市場分野へ多角化するという説明となっています。

 具体例として、オートバイメーカーが、自動車(四輪車)事業へ展開するケースが良く出されます。成長ベクトルで言う製品開発戦略や市場開拓戦略を更に広げる感覚で覚えておけばいいかと思います。

(2)垂直型多角化

 これは、事業の川上(上流)や川下(下流)へ手を広げる多角化です。
 川上(上流)とは、たとえば、工場での組み立てを事業としていた企業が、それまで他社から購入していた部品や材料を自社の事業として取り込む方向です。

 同様に川上(下流)とは、製品の搬送や販売にまで手を広げる方向を言います。

(3)集中型多角化

 特定のコアコンピタンスに集中的に経営資源を投資して新たな事業を作っていく多角化です。

 ビール会社が、菌の培養技術をコアコンピタンスとして、バイオや医療事業に進出するなどが典型と言われています。

(4)集成型多角化

 技術やマーケティングなどの強みに関連しないまさに純粋な多角化とも言えます。

 自社の事業とは全く異なった企業をM&Aしながら、コングロマリット化を図るアメリカ型の多角化と評する人もいるようです。

 リスクを軽減すると言う視点で考えれば、中小企業などが取り組めるのは、水平型多角化や集中型多角化と言えると思います。

以上

 久しぶりに基礎的な用語や戦略をまとめているが、実際の事業をとらえると単純に○○型と切り取るのは難しいものだと改めて感じた。

 理論は、あくまで結果を分類したものだという割り切りが必要だろう。

 ここまでの内容をメールにして、亜海ちゃんに送ったところで、10時を回っていた。

 昼には、由美ちゃんと会うことになっていたので、珈琲を淹れてから、着替えることとしよう。

(続く)


《1Point》

 多角化はリスクが高いという成長ベクトルでの説明に対し、同じアンゾフが、リスク分散のための多角化戦略を説明しているので、混乱するかもしれませんが、いわゆる割り切りですね。

 実務では、絶対的な理論はありませんので、複合した条件を考えると、取れるリスクはどこにあるかを考えるのが重要です。

 改めてリスクと言う言葉を考えると、リスクとは不確実性ですから、必ずしも危機となるとは限りません。

 逆に言うと、リスクとはチャンスともなるわけです。

 更には、想定利益とは、リスクへの対価とも言えるというのが私の考えです。