居酒屋で経営知識

(92):生産性と利益

【主な登場人物】 
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている 
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み 
由美:居酒屋みやびの元看板娘 黒沢の姪 
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業した 
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト 
原島:ジンの高校の大先輩。大企業の関連企業社長 

「へい、いらっしゃい。毎度」

「亜海ちゃん、ビール抜きで熱燗よろしく!」

「はーい。寒そうですねえ」

「しばらく、外で待たされたんでね」

「営業のお仕事って大変ですよね。世の中、生産性、生産性って言われているのに」

「いきなり経営用語からきたね。生産性っていうのは何だろう」

「えへへ。もちろん、労働者一人当たりの生産量とか、1時間当たりの生産額などの指標で表されるものね」

「うーん。勉強してるって言ってたね」

「ええ。私も卒業前に中小企業診断士の資格を取ろうと思っているの」

「そりゃあすごい。じゃあ、どうしようかなあ。診断士の試験には混乱するので、ドラッカーの生産性の話はやめておいたほうがいいかな」

「あ、それは聞きたいです。じゃあ、ドラッカーはそうじゃないって言ってるんですか?」

「それ自体が間違いだとは言ってないかもしれないけど、生産性というのを肉体労働者が主だった時代の指標でしかないと言っているようだね」

「肉体労働者だけ?でも、生産性指標の労働者には、管理する人や間接部門の人もいれていると思うんだけど」

「まあ、それだから、余計わからなくなっているんだろう。たとえば、こう言っている。

『生産性とは、最小の努力で最大の成果を得るための生産要素間のバランスのことである』(P53)

結果的な指標として、労働者一人当たりという尺度で見るのは構わないけど、でも、生産性を上げるためにどうするかという議論を始めると手掛かりにはならないよね。単純に生産量を維持して労働者を減らせば生産性の指標は良くなるけど、本当に最大の成果となるのか、特に、一時的に将来的にもそれによって良くなるのかがわからない」

「ええっと。そうか。例えば、肉体労働者一人について考えれば、その人がやり方を工夫して、1時間で作れる部品を増やせば、そこだけで見れば個々では生産性が上がったって言える。でも、その部品を得る営業マンを一人辞めさせても、一時的に同じ量が売れれれば、その範囲での売上高としての生産性は上がるけど、その営業マンが減ったことで将来の売り上げが減ったとしたら、結局生産性は下がるってことかしら」

「素晴らしい。本当、理解が早いねえ。うん、そういう考え方でOKだと思うね」

「おーい。亜海。熱燗いいんじゃないか」

「あ、ごめんなさい。よかった。ちょうど、53度だわ。はい、ジンさん」

「お、ありがとう。乾杯。大将。鍋の準備もお願いします」

「はいよ」

「生産性って簡単じゃないのねえ。確かに、診断士の試験中に考え出すと進めなくなるかも。でも、生産性を上げて、利益率を上げるというのは企業にとって重要なはずよね。あ、そういえば、この間、企業の目的は利益じゃないって言ってたわね。この辺も関係ありそう。えへへ。また、マスターに叱られそうだから、仕事しながらにしなきゃ」

「ははは。まあ、この辺りは、基本的な診断士の試験勉強とは別に企業診断という実務をするときに考える内容だと割り切った方がいいかもね。例えば、生産性を上げて利益を上げるというのは、それ自体は間違いとは言えないよね。でも、利益を目的にして活動をできないという話は、利益というのはリスクを前提にしているということにあると思うんだ」

「リスク?リスクって、危険なことだからリスクヘッジが重要なんじゃないの。もちろん、リスクヘッジできないと利益が減るんでしょうけど」

「いや、リスクというのは、単に悪化する危機ではなくて、不確実性をいう言葉なんだよ。もちろん、良くなることもあり得るということだね。つまり、未来については確実なことは言えないけれど、今日の糧や明日の糧を得るためには、その不確実なことにチャレンジする必要が有るということなんだ。例えば、狩猟民族が食べていくためには、リスクを取って、安全な洞窟から外へ出て獲物を探さなければいけない。その結果、運良く多くの獲物が獲れれば、その時必要な食料に加えて、保存したり、他の人に配ることができる。その余剰分を利益と呼ぶわけだから、結果指標だというんだ。そして、より多くの獲物を獲ったやり方、つまり利益が出たやり方を分析して、改善していくことで、それまでより安定して獲物を獲れるようになる。まあ、それを生産性のアップと言うことができるということだね」

「うーん。でも、リスクが危機じゃなくて不確実性っていうのは良く分かったわ。あ、そうか。リスクに対して対応するためにも利益が必要よね。利益がないと次の獲物を獲りに行く余力がないということになるわね」

「そういうこと。だから、利益は直接の目的ではないけど、企業が継続するための条件になるんだ。だから、利益の低い会社は危険だと判定されることにもなるね」

「さて、ジンさん。我が社もリスクに対応するために、そろそろ鍋を出しましょうかね」

「あ、大将。もちろん、お願いします。みやび継続への投資はしますよ」

(続く)


《1Point》

 ドラッカー名著集2「現代の経営(上)」上田惇生訳 ダイヤモ
ンド社を読み直しながら、進めています。
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 ちょっと回りくどい内容になってしまったかもしれません。

 でも、このリスクの考え方や利益というものの理解の仕方というのは、非常に重要だと思っています。

 この章で整理されていた内容を抽出しておきます。

 生産性:重大で、かつ目に見えるコストの数字では表せないもの
(1)時間:人がもつ最も消えやすい資源である
(2)製品ミックスは同じ資源でも生産性に違いが出る
(3)プロセスミックス:同様に内製と外注などプロセスミックスによっても違いが出る。
(4)企業の組織や活動のバランスによって重大な影響を受ける
(P57〜58)

 利益の機能
(1)仕事ぶりを判定するための尺度
(2)リスクに備える余剰の源泉は利益だけである
 *社会には、いくつかの企業が損失を出して消滅していくという経済的な新陳代謝が不可避である。
(P60〜61)