22.ミッションステートメントとビジョン
(前回まで:ジンの会社での公取委の立ち入りは社長自らの陣頭指揮で対応しています。そんな中、閑話休題で経営の基礎用語について、由美の質問に答えています。ミッションについての説明については納得いただけましたか)
「企業にとっての根本的な存在意義がミッションというわけね。とすると、例えばこの店のミッションは何だと考えればいいのかなあ」
生ビールを飲み干すと日本酒が飲みたくなった。
「これは経営者に聞いてみなければいけないね。ねえ、大将。この店のミッションを考えながらでいいんで、お酒をお願い」
「ちょ、ちょっと。いきなりうちのミッションって言われてもねえ。お酒は『水尾』のひやおろしが入ったのでいきますか」
大将は、ちょっと困ったような顔をして冷蔵庫から一升瓶を出してきた。
「水尾って長野県の飯山の酒ですよね。ひやおろしの時期ですから旬ですね」
「ここも小さな酒蔵ですけど地元産の水と酒米を使って、手造りにこだわってます。そう言えば、蔵の紹介が送られてきてましたよ。・・・これこれ」
大将がパンフレットのような紙を引っ張り出した。そこには、蔵の紹介が載っていた。
『良い水を使い、良い米を使い、そして基本に忠実な良い造りをする。こうしてできたあたりまえに良い酒を、お客様にあたりまえに楽しんでいただきたいと考えております。・・・』(*注)
「なるほど。由美ちゃん、これなんかもミッションと言えるかもしれないね。『あたりまえに良い酒を、お客様にあたりまえに楽しんでいただく』という部分なんか、経営者が意識しているかどうかは別にして、酒蔵としての大方針となっている」
「なるほどねえ。おじさん、うちもミッションを作りましょう。でも、ジンさん。ミッションは存在理由を明確にしたものとしても、実際にはそれだけじゃ、具体的に何をすればいいのかわからないわよね」
時々、由美ちゃんは鋭いことを言う。
「そうだね。あたりまえの良い酒というのだけだと、あたりまえというのは何?とか、良い酒とは?という疑問が出てくるよね。社員に対しても具体的なものが見えないと次にどうしたらいいかわからなくなってしまう。そこで、一般的にミッションをより具体的にしたミッションステートメントとか、達成すべきビジョンを作ることになるね」
「この水尾のパンフレットでは、方針の下に、蔵の環境とか、仕込水、杜氏・蔵人、原料米について書かれているけど、これがミッションステートメントと考えればいいのね」
「うん、そのようだね。この蔵、本当にまじめそうだね。酒造りに重要な原材料や人・設備について『良い酒』を提供するベースとして明確にしている」
「ビジョンとなるとどうなるの」
「ビジョンというのは、目に見える成果の判断基準になるから、経営目標とも言える。これも、企業の考え方になるけど、長期目標をビジョンと置いているところもある。また、目指すべき自社の姿を市場シェアや売上規模、店舗数などの数値目標とすると判りやすいよね」
大将が乗り出してきた。
「ビジョンと言えば、テレビジョンとか、ほら、駅前の電光掲示板も何とかビジョンっていうね。目に見えるという意味なんですかね」
「ピンポーン。大将、その通り。難しく考えないことですよ。具体的な理想像を描くと考えても良いと思います」
(続く)
《1Point》
・ミッションステートメント
企業の存在する意味・使命を表現したミッションをより具体的な言葉で表したもの。
・ビジョン
あるべき姿を具体的に示したものと言われる。
ミッション→ミッションステートメント→ビジョン と次第に絞られてくるイメージとなります。
(*注)水尾の酒造蔵「(株)田中屋酒造店」のホームページに蔵の紹介として書かれていました。
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