160.地産地消の視点

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。お、ジンさん、毎度」

「ジンさん、いらっしゃいませ」

「あれ、何か今日はやけに歓迎ムード一杯ですね」

「何を言ってます。いつでも、ジンさんは大歓迎じゃないですか」

「ふーん。あれ、由美ちゃん。へえー、浴衣姿は久しぶりだね。いいねえ」

「へへへ。2年前にジンさんと鳶野さんと一緒に花火を見に行って以来ですからね。どこへ行っても節電だし、気分だけでも涼しくしようかなって思ったの」

「そうだよね。夏が暑いのは当然なんだから、楽しまなくちゃね」

 そう言えば、雄二と由美ちゃんとで勉強会をしていたとき、みんなで花火に行こうとなって、浴衣を誂えたんだった。

「まずは暑さに負けない乾杯ね」

「おう。カンパーイ」

「プハー。そう言えば、今年の隅田川の花火は1ヶ月延びたんだったね。でも、せっかくだから繰り出そうか」

「ほんと!うれしい。行こう行こう」

「あのー。由美先輩。私も行っていいですか?」

「亜海ちゃん、もちろんよ。ね、ジンさん」

「そりゃ歓迎だよ。亜海ちゃん、浴衣持ってる?」

「着たこと無いんですう。だから、一度浴衣着て花火って行ってみたかったんです」

「じゃあ、亜海ちゃん。今週末、買いに行こうか」

「うん。うれしー」

 女の子は話が早い。

「今年は、やっぱり遠出よりも地元で過ごす人が多いのかな」

「随分落ち着いてきたとはいえ、被災地の復興はまだまだだからね。ただ、それ以上に、家族とか地域に目を戻したという人も多いって言うよね」

「そうみたい。震災でやっぱり頼れるのは家族とか地域の人たちだって気づいたのね。地域に目を向ける良い機会になったのかもしれないわね」

「これからは、地域に根ざした企業が活躍してくれるといいね」

「そうよね。でも、地域でがんばってきた中小企業は、取引先が減ったり、消費が控えられたり大変なんでしょ」

「そうだね。でも、自分の会社の強みをしっかりと押さえて、その上で、その地域のニーズを見つけられれば新しい事業を創出できることも考えられるんだ」

「言葉ではわかるんだけど、何か具体的な会社で地域に根ざしてうまくいったところってあるの?」

「成功事例はたくさんあるよ。例えば、広島県の樹脂成形会社の例だとね、強みは何と言っても加熱や加圧で樹脂を加工する技術にあるよね。ただ、その会社の社長は、偶然地元の新聞で、地域の小学生の骨が弱くなって、サッカーボールを蹴って骨が折れたなどという記事を読んで考えたらしいんだ」

・・・その社長は『骨を丈夫にするには地元の瀬戸内海で取れるいりこをたくさん食べられるようにしたらいいのでは』と考えた。

 自分の会社にあるプレス加工装置を使っていりこでせんべいを作ったらどうだろうと思いつきやってみたんだね。

 これが、サクサク食べられる煎餅になったので、地元の小学校に無償で配布したんだ。もちろん、元々煎餅屋でもないので、子供たちに地元の食材で良いものをたくさん食べて貰おうという純粋な気持ちだけだったと言うんだ。

 ところが、この煎餅がおいしかった上に、地元のいりこを使っていて身体に良いという評判があがったんだろうね。小学生や保護者から反響がすごかったので、商品化してみたら大当たりというわけだったらしい。

 その後は、自社のプレス加工技術を応用して食品用の装置を開発して活躍している。

「樹脂の成形加工工場が、煎餅工場になったのね。でも、その社長さんも思いきった方ね」

「そうだね。ただ、自社の強みの源泉をよく見極めて、それを別の分野に応用することによって、それまで無かった付加価値を付け加えることができた例だね。そして、地産地消というニーズにもマッチし、何よりも顧客となる子供の親に支持される商品ができたということが成功の鍵だろうね」

「やっぱり、実際の事例で考えると分かりやすいわ」

「ジンさん。うちでも煎餅を作ってみたんですがね。食べてみますか?」

「え?大将が煎餅を焼いたんですか?」

「ハハハ。えびせんなんですよ。桜エビと鰹節のだしを使って、片栗粉を練ったものを焼いたものです。レンジでチンすると結構パリパリになるんですよ」

「へえー。新作ですね。あ、こりゃまさにえびせんですね。うまい」

「ほんと。おいしいわ。新しいメニューにするの?」

「いやいや、まあ、常連さん用のおやつですかね」

「やっぱり、ここでは常連にならないと損しますね」

(続く)

《1Point》

 マネジメント基礎講座が一応完了しましたので、事例研究をしてみようと中小企業白書の事例を取り上げました。

 白書は中小企業庁のホームページから分割したPDFでのダウンロードやHTML版で閲覧可能ですが、見に行くのが大変かもしれませんので短いものは転記します。

 公共のサイトでの公開事例ですので転載禁止ではないと思っていますが(サイトにも禁止条項は見つかりませんでした)問題あるようでしたら、途中でも転載しなくなるかもしれません。

【事例:地域資源を活用した商品開発で需要を創出する企業】
 (出典:2010年版中小企業白書 事例1-2-2)P58

広島県呉市の有限会社○○鉄工(従業員28 名、資本金1,000 万円)は、食品製造及び樹脂成形を行う企業である。

1970年の設立当初は、主として自動車メーカーや弱電メーカーの樹脂の成形加工及びプレス加工を行っていた。

同社が食品事業に参入したきっかけは、約20年前に前社長が「地元の小学生がサッカーボールを蹴って骨が折れた。」という新聞記事を目にしたことである。

記事を読んだ前社長は、骨が丈夫になるカルシウムを子どもに摂取させるために、地元の瀬戸内海のいりこを利用することを思いついた。

そこで、同社のプレス加工装置を使っていりこを加熱・加圧すると、サクサク食べられる煎餅ができあがったため、地元の小学校に無償で配布した。

当初は商品化する予定はなかったが、小学生及び保護者から大きな反響があったことから、商品化を決断した。同社は、その後技術開発に積極的に取り組み、プレス加工技術を応用した乾燥食品焼成装置を開発し、特許を取得した。

同装置で製造された煎餅は、(1)衛生面が優れている、(2)水分含有量が少なく長期保存できる、(3)簡単に食べられる、(4)加熱による栄養の損失がないという特長がある。

同社には、不景気でも、高齢化の進行や高まる健康志向を背景に、地域資源の利用方法に悩んでいたり、未利用な素材を活用して廃棄に困っているものを活かして付加価値を創出したいと考える地元商工会や各地の調味料メーカー、小売店等から提携の依頼が殺到している。

同社は、今後も地域資源を活かして販路開拓を行いたいと考えている。同社の瀬戸勝尋社長は、「付加価値を付け、差別化を図れる商品開発のアイディアを販売先にいかに分かりやすくプレゼンテーションするかが、需要創出のきっかけである。」と話す。

(*念のため、企業名と個人名は伏せました。また、改行等追加しています)