158.マネジメント基礎講座:市場地位別戦略

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。毎度」

 暑気払いの季節になったようで、生ビール片手に盛り上がるサラリーマンの姿が増えているようだ。

「ジンさんも、もちろん生ですね」

「はーい。もうできました」

「亜海ちゃん、早。じゃあ、暑さ景気にカンパーイ」

 冷たい冷や奴にオクラたたきで一杯目を飲み干す頃、熱々の枝豆が出てきた。

「今日は、枝豆がどんどん出てしまってゆでたてで熱いですが」

「これがまた良いんですよ。色は鮮やかだし、ビールに枝豆!」

「いらっしゃい。おや、原島さん、今日は早いですね」

「大将、お久しぶりです。お、やっぱり北野も来ていたか」

「もちろん、この暑さですからね」

「さすがに元気だな。大将、自分も生と枝豆ね」

 原島社長とは、講習会の時に顔を合わせているが、なかなか飲みにでる余裕をつくるのが難しいようだ。

「最近、うちの社員たちも経営用語で話をするようになったよ。実務でも、撤退するべき事業を正面から捉える議論も出てくるようになって、これも北野のおかげだ」

「何をおっしゃいます。それもこれも、原島さんの社長としての覚悟ができていたからですよ。まあ、みんなも素直ですから、いい会社ですよね」

 最近では、講座の宿題ではなく、自らの組織について直接提案が出てくるようになりつつある。
 

今回は、フィリップ・コトラーの「市場地位別戦略」です。

これは、自らの地位に応じた戦略を取るという考え方の戦略論です。

検討する市場によって地位は変わってきますので、事業戦略レベルと言えますね。

【基礎知識】
フィリップ・コトラーは、ノースウェスタン大学ケロッグ校の教授で、マーケティングの第一人者として有名です。

激化する競争市場においては、他社と同じ戦略を取っても優位性は出すことが出来ません。

そこで、それぞれの企業が置かれた地位に応じて、戦うべき戦略は違ってくるとして整理されたのがこの「市場地位別戦略」となります。

地位とは何でしょうか。

コトラーの分類は以下の通りです。

(1)リーダー:最大の市場シェアを確保しているトップ企業

(2)チャレンジャー:一般的に、第2位のシェア企業と言われる。僅差の戦いの場合は、2位と3位が相争う場合もある

(3)フォロワー:3位もしくは4位以下の企業と言われる

(4)ニッチャー:リーダーからフォロワーまでが戦いを展開する市場から離れた特定の領域で独自の地位にある企業

それぞれ自社に当てはめてみましょう。

これらを図式的にしたものがこの図となります。

市場地位別戦略のマトリクス

量的経営資源:(例)営業・技術者の人数、資本、設備能力など
質的経営資源:(例)技術レベル、ブランド力、ネットワーク力、トップのリーダーシップなど

「質的経営資源」高×「量的経営資源」大=リーダー
「質的経営資源」低×「量的経営資源」大=チャレンジャー
「質的経営資源」低×「量的経営資源」小=フォロワー
「質的経営資源」高×「量的経営資源」小=ニッチャー

【事例】
たとえば、良く引き合いに出される事例の一つとしては、自動車業界が挙げられます。

各社戦略を変えながら戦っていますので異論もあるかと思いますが、大まかに考えると以下のように分類できると思います。

(1)リーダー:トヨタ  
(2)チャレンジャー:日産、ホンダ 
(3)フォロワー:三菱、マツダ
(4)ニッチャー:スズキ

これらの地位別に取るべき戦略も提示されています。

(1)リーダーの取るべき戦略:ナンバーワンを維持する戦略を取る

 *力にものを言わせて、全方位戦略を取る場合が多いでしょう。

チャレンジャーが仕掛けてきた差別化に対しては、同質化(同じことを徹底して行う)でたたきつぶすというのは定石の一つです。

 →トヨタ:コメントは必要ないですね。国内のみならず、海外でもリーダーと言えるでしょう。

(2)チャレンジャーの取るべき戦略:リーダーに取って代わるべく差別化戦略を取る

 *単に差別化だけでなく、コストにおいても競争力をつけ、まさにトップの座を落とすための戦略を取ることになります。

 →日産、ホンダ:それぞれ、トヨタとは違う部分を強調することで戦っていると言えるでしょう。

(3)フォロワーの取るべき戦略:リーダーに追随することでリスクを最小にする模倣戦略を取る

 *単独で新規開発を行うのではなく、リーダーや業界の流れを読んで、トップは取れなくてもそれなりのシェアを維持し、リスクを低くすることで利益の確保に専念する方向性を取ります。

 →三菱、マツダ:若干異論があるかもしれませんが、トヨタにとって大きな脅威になっていないようですので、フォロワーと分類してみました。(電気自動車に注力するなど新たなチャレンジは感じられます)

(4)ニッチャーの取るべき戦略:小さな市場への集中戦略を取る
 *大手が参入してこないような特定領域でオンリーワンとなり、参入障壁を高くして高い利益を確保することになります。専門性の高いブランドなどがこれに当たります。

 →スズキ:軽などの小型車に集中し、この領域ではダントツの勢いです。特に、新興国などで圧倒的な強みを見せているようです。

「いらっしゃい」

 由美ちゃんもやってきた。

「みんな暑くなると集まってきますね。枝豆とビールですね」

「由美ちゃんも呑兵衛になってきたね」

「ほんとね。ここで働いてたときは、よっぽどのことが無ければ飲まなかったから」

「昔は、なんでみんなこんなに飲むの?なんて質問してたよね」

「ビールを飲めるようになったのも最近ね。前は、苦いだけだったのに」

「実際、ビール業界も競争が激しくなって味も変わってきたからね」

「でも、日本のビール会社では、アサヒがリーダーなんでしょ?」

「ところが由美ちゃん。ビール業界にはもう20年くらい前になるんだろうけど、大転換があったんだよ。原島さんが飲み出した頃はリーダーっていうとキリンだったですよね」

「そうだよ。それもダントツのリーダーがキリンで、チャレンジャーがサッポロ、フォロワーがアサヒやサントリーだったろうね」

「ええー?今と随分変わったんですね」

「アサヒが、スーパードライというそれまでのビールの味を変えたところから大逆転が始まったんだ。時代がバブル真っ最中だったこともあっただろうね」

「ジンさんが嘆くサッポロの低迷もその頃から?」

「最近じゃ、サントリーもがんばっていて、相対的にサッポロの一人負け状態かもね。サッポロの人には苦言になってしまうけど」

「もう、こうなったらジンさん、サッポロビールに乗り込んで診断しちゃえば?」

「そんな簡単にはいかないよ」

(続く)