154.マネジメント基礎講座:アンゾフの経営戦略論

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
「へい、いらっしゃい」

 いつもの縄のれんが、心なしか湿っているような気がする。

「やっぱり梅雨に入っているんですねえ」

「我々のような商売にとっては、一番気を遣う時期に入りました。特に、生ものが多いですからね」

「無理せず、火を通したり、干物にしたりして昔ながらのやり方を守っていけばいいんでしょうね」

「冷凍や冷蔵技術が発達したせいで、一年中同じ管理ができるようになったことが、逆に、本当の危険性を忘れてしまう原因かもしれません」

「そうかもしれませんね。リスクを把握して、どうやってそのリスクを回避しているのかを理解していないといつ無防備な状態になっているのかすらわからなくなってしまいますね。と、その上で、生ビールをよろしく」

「おっといけない。亜海。ジンさんに生ビール大急ぎ」

「はーい。もうできてまーす」

 既に十分飲んでいるような大森さんが、カウンターの端からニヤニヤしている。

「ジンさん。そろそろ、カラッと嫁さんでももらったらどうだい。お似合いの相手もいることだし。なあ、黒さん」

「まあ、そればっかりは本人次第ですからねえ。あっしには関わりのねえことでござんす」

「お、黒さん、逃げたね。ジンさん、由美もいい女だと思うがね。あっ・・・」

「え?大森さん、なんか私の悪口言ってたでしょう。由美って聞こえたわよ」

「驚いたなあ。由美はいい女だって言ってたんだよ。本と、噂をすれば何とやらだ」

「ええー。ジンさん、大森さんの言ってることって本当?悪口じゃないのお」

「まあ、ウソじゃないよ。とりあえず、座って飲みなよ」

 びっくりした。タイミングが合いすぎだ。

「かんぱーい」

「あー、やっぱりここが落ち着くわ。最近、特にバタバタだったんだあ」

「由美ちゃん、忙しそうだね」

「うん。企画が通ったのは良いけど、根回しやらが多くて、やり方を変えるのって難しいのよね」

「そうだね。これまでうまくいっていた企業は成功体験にしがみつきやすいからね」

「そうなの。変えなければいけないって、みんなが同じ言い方なんだけど、いざ自分のやってきたことを変えようとすると突然、できない理由を挙げ出すの」

 大森さんの目がピカッと光った(^_^;)

「そうそう。そうだよなあ。由美もジンさんもみんなそうだ・・・」

「え?大森さん、どういうこと?何、なに」

「ジンさんに聞いたらいいよ」

「ジンさん、どういうこと?ねえ」

それでは、進めます。

もう一度、学習内容を映し出したスクリーンに注目してもらった。

【学習内容】
(1)アンゾフの経営戦略(アンゾフマトリクス・成長ベクトル)
(2)PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
(3)ビジネススクリーン
(4)マイケル・ポーターの「競争戦略」
(5)フィリップ:コトラーの「市場地位別戦略」
(6)ブルーオーシャン戦略
アンゾフの経営戦略は、「成長マトリクス」という項目ですでに解説していますので、位置づけのみとします。

内容が浮かばない方は前に戻って確認ください。
144.成長マトリクス

何度も出してますので、もう大丈夫だと思いますが、この流れを再確認してください。

アンゾフの経営戦略として有名な「成長マトリクス」は「製品-市場マトリクス」とも言われる基本戦略で、成長戦略として全社戦略に位置づけられますね。

また、「成長ベクトル」という言葉で表されることもあります。

これは、成長マトリクスを使って企業の成長する方向を検討するという考え方から来ています。ベクトルというのは、方向と大きさを表すものですね。

念のため、そのマトリクスを再掲します。

アンゾフマトリクスの図

-それぞれの組み合わせは、

(1)既存製品×既存市場=市場浸透戦略
(2)新製品×既存市場=製品開発戦略
(3)既存製品×新市場=市場開発戦略
(4)新製品×新市場=多角化戦略

となりますね。

当然、現在のポジションは(1)の市場浸透戦略を行っているという考え方になります。

そして、今後、新製品・サービスを開発し、既存市場へ投入するのか、もしくは、既存の製品・サービスを新規市場へ投入するのかという方向性の検討を行うことになります。

ただし、あくまでも、基本は市場浸透戦略であると思います。

まずは、製品やサービスを今の市場で浸透させることが必要ですし、新市場への進出・新製品(新サービス)の投入後も、もちろん、その市場への浸透を図ることになります。

アンゾフはその時代背景を基に、事業拡大の最大のテーマ「多角化」について深めていくようですが、まずは、基盤をしっかりと定着させ、事業拡大へのアクションへ繋げましょう。

成長ベクトルとは、ひとえに事業拡大の方向をどうするのか?という検討を行うためのものです。

そのため、既存×既存のポジションから、どちらの方向に進むかというベクトル(矢印)を示す形となるわけです。

多角化戦略は、非常に難しいというのが一般的な判断となっていますので、まずは、新製品・サービスを開発するか、新規市場を開拓するか、というベクトルを合わせていくことが重要です。

「アンゾフの成長ベクトルを覚えている?」

 講座の話で誤魔化そうと考えた。

「ええ、もちろん。製品・サービスと市場のマトリクスだったわよね」

「そうそう。この前の講座で改めて説明したんだ。原島さんの会社はどっちへ進めると思うかな?」

「そうねえ。確か、この前の検討の時、現在の強みをきちんと自覚してお客さんに対していないって話だったわよね。で、あれば、まずは、市場浸透戦略で改めて自分のポジションを深めればいいんじゃないかしら」

「さすが、由美ちゃんだ。まず、今、気づかせられるとすればそこだろうね」

 大森さんが身を乗り出してきた。まずい。

「あれだろ。市場浸透って、この間説明してもらった、今、目の前にある顧客と市場を大事にしようって奴な」

「大森さんもすごいじゃない。これも、ジンさんの影響ね」

「だから俺は思うんだ。目の前に一番いいターゲットがいて、お互いに進めないのは、お互いにきちんと自分の気持ちを伝えて、浸透させないからいけないんだろ。2人もがんばれや」

「また、大森さん、何を言ってるのかわからなくなったわ?どういうこと」

 大森さんにはかなわない・・・