148.BCP再考(資金対策)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。毎度」

「疲れたー。ビールー」

「はーい。お待たせしましたあ」

「おいおい、ジンさんまでそんな間の抜けたしゃべり方すると、秋葉原の店かと思っちまうよ」

「大森さん・・・すいません。今日は1日契約交渉していたんで、頭の中がボワボワ状態なんです」

「大変ですね。それじゃ、お通しにはシャキッと酢の物いきましょう。ニンニクたっぷりの餃子に香醋をたっぷりかけてみました」

「お、香醋ですか。あ、いけますね。元気が出そう」

「それは良かった・・・ん?亜海、どうした。ふくれっ面で」

「大森さんったら、私のしゃべり方を間が抜けてるって言ってたんだからあ。ヒドーイって言おうと思ったのに」

「ははは。相手にされなかったのが気に入らないんだな」

「そんなんじゃありませーん。最近は、大人のしゃべり方になったって言われてるんですからねーだ」

「確かに、亜海ちゃん、大人になってきたね」

「あ、やっぱりジンさんだ。大人の女がわかるのね」

「え、あ、いや、まあ、そうだね。でも、大人の女ねえ」

 大森さんと大将が同時に吹き出した。

「大森さんだけじゃなく、マスターもね。ヒドーイ」

 そういえば、亜海ちゃんもこの店に来て、1年くらいになる。時の流れは速いなあ。

「ジンさん。そういえば、近藤さんとこの勉強会はまだ続いてるんかい?今日は来てないみたいだけど、近藤さんもやけに張り切ってるからね」

「ええ、昨日3回目をしてきましたので、予定ではあと一回ですね。近藤さんも役所出身ですから、今回の震災に対する対応については自分の出番だと感じているみたいですね」

「うん、うん。一時は、自分でも天下りだからやること無いんだなんて自棄になっていたから、今の近藤さんは本来の姿だよな」

 役割がないという状態に置かれた人間が、いかに辛いか、そして、その組織にとってどれだけの損失か。
 
 田酒に替え、濃熟な香りを楽しみながら、昨日の講義の後、組織の中で人が活かされていくという経営方針を語っていた大義建設の義本社長との話を思い返していた。

平常時においても資金繰りに頭を悩ませている経営者にとって、災害という忌まわしい出来事を避けて通りたいのはやまやまでしょう。

それでも、あなたの会社が災害を回避できる保証はまったくありません。

今、出来ることを出来る限り実行することが、経営者の責任であることは言うまでもありませんね。

どんなことが起こるのかということをしっかり見つめることだけでも、いざというときの行動に違いが出てくると思って検討してください。

地震等の災害で懸念されることは以下のようなことでしょう。

[想定される状況]

・事業施設の倒壊や建物が無事でも大型設備や仕掛品等が損壊する
・事務所内の什器備品が散乱したり、スプリンクラーの誤動作等でパソコン等の電子機器が使用不能となる
・損害保険会社は災害が広域である等で迅速な支払対応は望めない
・取引の契約において災害時を想定していない

[企業において懸念される事柄]

1)少なくとも被災してしまえば、人・モノ・ライフラインの被害の影響を受け、売上減につながる

2)事業停止しても、過去の支払、従業員給与、維持費は発生する

3)建物・設備・什器・資材や仕掛品に被害が及び補修や再購入・再製作等の費用が発生する

4)契約上の納期遅延等によって違約金などの請求を受ける

これらのリスクを完全に無くすことは、まず不可能でしょう。

それでも、少しでもダメージを減らすことを検討することが重要となります。

[企業での事前対策]

1)常に災害対策のキャッシュを準備しておく

「それが出来たら苦労はしない」という声が聞こえそうですが、売上の1ヶ月程度の運転資金を準備しておくという目標を立てて実行に移しましょう。(新型インフルエンザでは2ヶ月で検討しています)

また、設備型企業の場合、代替工場やOEM(他社への製造委託)によって、少しでも早期再開に繋がる災害時対策を計画しておくことも必要です。

2)災害時運転資金融資を利用する

災害時に運転資金の融資や借入保証などを行う制度を事前に整理しておきましょう。

そのためにも短期的な支払がどの程度発生することが予想されるのか、常に資金繰り表を作成するなどして想定をしておきます。

自治体や国の政策、金融公庫などの情報を検討し、災害発生後は新たな支援策が講じられることもありますので諦めず行政窓口に日参するくらいの覚悟を持ちましょう。

3)地震保険などの保険には必ず入る

一般の損害保険や火災保険では、地震時は免責になってしまいます。契約内容について良く検討し、地震等の特約追加や契約の変更、新規加入を行います。

運転資金と同様、事業用の設備改修への助成や貸付の保証制度について調べておきましょう。

製造業などでは、生産設備の復旧がすべての鍵を握ることになります。

4)取引の契約内容の見直しを行い、災害時の特例条項や緩和措置を明記する

かつての日本では契約書よりもお互いの信頼が取引のメインだったと言われます。

災害時には、日本的な互助精神に基づき納期の延長や支払いの延期を期待できました。

しかし、グローバル化した事業においては、契約書の一言一句がすべてとされます。

出来る限り、災害時の特例を盛り込むように交渉してみましょう。今後は日本企業相手であっても契約書等で明記する必要があります。

事業継続を左右する資金対策は、まず、自らの力で解決することを第一に考え、足りない分を保険や助成金、災害時の貸付などを検討することが重要です。

 講義の後、義本社長から社長室に呼ばれた。

「北野君、お世話になっているね。2年前、BCPについて思い切って対策をしたことが今日につながっている。いやー、恩人だよ」

「それは誉めすぎです。私は教科書を説明しただけですから。それより、義本社長の決断が明確だったことがカギだったと思っています」

「君はいつも冷静だな。そんな君を頼って活動してきた経営企画の連中がうらやましい。人を活かすと言うことがどれだけ難しいか、でも、同時にどれだけの力を組織に与えてくれるか、今回の震災でもよくわかったよ。地道に活動することを支えるのが私の役割だな。近藤君も先頭に立って活き活きとしているな」

「近藤さんこそ、緊急時に活躍できる経験を積んでいますから、安心ですね」

「そうだな。私も彼を引き取るときに、地元住民との交渉で住民側に立ち、監督官庁からダメ出しをされたというエピソードを聞いて決めたんだ。それが彼の強みだと気づいてね」

「近藤さんも、そんな社長の期待に応えることが使命だと思っているんでしょうね」

 余計なことを言わず、社員一人ひとりの強みを見つけ、必要と思われる位置づけを与え、任せようとしている義本社長のすごさを目の当たりにした。
 

(続く)

《1Point》
・BCP (business continuity plan)事業継続計画

「事業継続」をテーマとして私が書いたBCP講座から転載しています。
http://bit.ly/gkOim3

 今回の内容は、「第9回事業継続-地震災害等の資金対策」の内容です。

[チェックリスト]
□運転資金は何日分の余裕を持っているか把握していますか?
□災害時の支援策を整理していますか?
□地震等の天災でも補償される保険となっていますか?
□災害時を想定した契約書の内容となっていますか?