147.BCP再考(早期復旧)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。ジンさん、毎度!」

「ただいま!大将、いつも以上に気合い入ってますね」

「ハハハ。自分の強みを考えたら、やっぱり元気ですからね。強みを活かすことに集中するってのは、ジンさんお得意の言葉でしょ?」

「お得意の言葉っていうわけでもないですが、でも、究極には明るく元気な場を作るのは、それぞれが強みを発揮できるってことかもしれませんね」

 亜海ちゃんが飛ぶように運んできた生ビールをグイッと呷った。

「プハー。うまい」

「ジンさん。今日もお疲れ様」

 近藤さんが暖簾をくぐってきた。

「近藤さん、こちらこそ。先に来てしまいました」

「今日の話を社長に報告していたんですよ。社長からも、今回の震災からの早期復旧対応がどうだったのかを再検討するべきとの話が来ていたんでね。ジンさんの提案は、経営企画でも議論になっていたため、すぐに社長報告をし、即実行のOKが出ました」

 今日も、近藤さんの勤める大義建設でのBCP再検討を行ってきたのだ。

自然災害においては2次災害を防止しながらも、直後から事業再開に向け活動をスタートさせることが重要だという認識でこのBCPを作りました。

今回の震災は、想定を大幅に超えるとはいえ、本社機能も他の機能も無事だったことから、皆さんも計画に従って動くことができたはずです。

改めて、事前に地震等について考えた、特に懸念される状況はなんだったでしょうか。

[想定される状況]

・自社企業地域の直下型地震で直接の影響を受ける
・広域で送電線・水道・ガス管が損壊する
・耐震対策をしていない企業が多く復旧不能状態となる

[企業において懸念される事柄]

1)建物や設備が損壊しているためすぐに使えない
2)ライフラインが止まってしまい、操業再開ができない
3)従業員の住居が崩壊し、安心して出社できない
4)取引先が被害を受け、資材等が手に入らない

地震や水害を考えると個人の生命や健康の次に被害が大きいのは「モノ」であると言えます。

今回、当社では従業員の生命や住居の被害がほとんど無かったことは幸いでしたね。

損害状況を事前に予測することは非常に困難であることは、当時から言われていました。そこで、想定に基づいて対策を練ることが必要でした。

[企業での事前対策]

では、損害を最小限にして、かつ早期に事業再開するために事前に行っておかなければいけないとした対策を見直してみましょう。

1)耐震対策、浸水対策を行う

建物の耐震構造は大前提です。

次に、工場等の設備の固定、事務所内の什器・機器の固定を行います。

大型の設備や機器などは、転倒により事業自体の再開に影響がある以上に、人命に関わる凶器となり得ます。

また、水害が予想される地域においては、浸水対策として電源関係や電子機器を2階に設置するなど状況に応じた対策が必要となります。 

2)無停電電源装置や非常用発電の準備

多くの企業で事業再開をするために重要なものとして電源供給が挙げられるでしょう。

コンピューターによって制御されたり、システムが稼働するものが多いことから、停電時の対応を検討する必要があります。

離れた場所(代替施設)での再開が不可能であれば、自家発電も検討する必要があるでしょう。

3)従業員の耐震啓蒙を行い、社宅などは耐震診断を行う

住居を失った状態で業務復帰をさせることは非常に困難です。

従業員の耐震意識を向上させ、自宅でできる耐震対策を支援します。耐震診断の補助を行うことも検討してみましょう。

また、社宅を保有している企業においては、耐震診断・耐震補強を行う事と共に、空き室があれば被災者に提供するルールの検討を行いましょう。

4)サプライチェーンとの連携を図り、かつフレキシブルにする

第一に、取引先やサプライチェーン関係企業との緊急時の対応マニュアル作成を行いましょう。いざというときに、人的・物的な支援を行う取り決めがあると、迅速な連携が可能となります。

第二に、被災地を離れれば通常業務をしている企業に期待できる点が救いとなります。

事業再開の生命線となる主要資材などについては、広域で購買が可能なリストを作成しておきましょう。

まず自社でどこまで出来るかを検討します。地域・同業者・グループでの互助体制は別途検討することとします。

以上がわが社でとりまとめたモノの面からの早期復旧対策でした。

想定外だった津波の被害を直接受けていないため、これらの対策が功を奏したと言えるでしょう。

今後は、今回の津波被害を見直した各地のハザードマップに対応した対策の再検討が必要になりますので、チームで取り組んでください。

また、社宅の空き部屋が各地にあるそうですね。

近藤顧問とも相談したのですが、わが社の従業員への提供は当面不要となりましたので、是非、現在被災して家を失った人への提供を提案してください。

場合によっては、中途採用の道も開いて、優先的に被災者の雇用を進めていただくことも提案します。

「さすが義本社長ですね。実際の実施は、地元と情報の摺り合わせが必要ですし、雇用も行うとすると希望者に対する情報提供もきっちりしなければ逆効果となってしまいますから大変でしょうね」

「ジンさん。経営企画のチームリーダーは宮下君です。すぐにタスクフォースチームを作って活動し始めましたよ」

「宮下君なら大丈夫ですね」

 経営企画の宮下君は、2年前に会ったときに較べても非常に頼りがいのあるリーダーに成長したと思っている。
 
「ジン。大義建設に負けないように俺の会社も会社施設を提供することにするぞ」

「雄二か。いつも突然現れるな。そういえば、東北で保養所施設を買ったんだっけな。それはいい考えだ」

「少しでも役に立ちたいって、会社の連中も即OKしてくれた。元々福利厚生施設だから、社員さえOKしてくれれば出費が変わる訳でもないしな。あ、当面は宿泊費も全額面倒見るからその分は増えるか」

「そんな会社や個人、特に宿泊業が手を挙げているらしい。行政もがんばってマッチングを進めるシステムを実行してもらわなければいけないな」

(続く)

《1Point》
・BCP (business continuity plan)事業継続計画

「事業継続」をテーマとして私が書いたBCP講座から転載しています。
http://bit.ly/gkOim3

 今回の内容は、「第8回事業継続-地震災害等から早期復旧する」の内容です。

[チェックリスト]
□設備・機器・什器などの耐震固定を行っていますか?
□水害が予想される場所では精密機器などの浸水対策を行っていますか?
□重要サーバーなどの無停電電源装置や非常用発電について検討していますか?
□従業員住宅や社宅の耐震診断を実施・推進していますか?
□広域のベンダーリストを作成済みですか?