143.製品ライフサイクル

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。
 春の風物詩?通勤電車の中はマスクをかけた人たちであふれている。
 
 スギ花粉が春の便りになってしまったようで、花粉症の酷い人にとっては一番憂鬱な季節だろう。

「クシュン」

「由美ちゃんも花粉症みたいだね」

「そうなの。これまで大丈夫だったんだけど、先週くらいからクシャミが止まらないので病院行ったら『花粉症です』って。あーあ、憂鬱」

「今年は花粉が多いって言うからね。春になるのが憂鬱なんて、なんか納得いかないよね」

「ほんとよ。これから暖かくなってみんな元気になる季節なのに」

 原島さんの会社に向かう電車で由美ちゃんと一緒になったのだ。

「今日は製品ライフサイクルね。でも、サイクルがあるっていう話だけだと答えがないわよね」

「まあ、答えがあるなら経営は単純だよ。ただ、問題は、今の仕事が永遠に続くと考えて仕事をしていてはいけないと言うことだけなんだ」

「まさか、そこまで考えている人はいないんじゃない?」

「そうでも無いんだよ。特に成功して、会社を大きくしてきた事業にしがみついている会社って多いんだ。成長ステージならいいけど、その事業が縮小していても、これが柱だと言って、復活を夢見たり、一番悪いのは数字を誤魔化して、他の事業にコストを付け替えていかにもまだ利益があるように見せてしまうなんてこともあるんだ」

「ええー?そんなことしたって、全体の業績は変わらないんじゃないの?」

「そうさ。でも、現実にはそんなことができるのが、今の管理会計の問題かもしれないね」

「会計って、数字が出てしまうから、誤魔化しなんてできないのかと思ってた」

「トップの方針が定まってないと、管理畑の人たちは、よかれと思ってか、特定部門に責任が集中するのを避けるためか、少しずつでも、意図的な操作をしがちだと思うんだ。あ、着いたね」

 マスクばかりが目立つホームから原島さんの会社に向かった。
 

今日は、製品ライフサイクルというテーマとしています。

実は、先ほど、助手をしてもらっている清田由美さんと話していたんですが、既存事業、特に、成功してきた事業にしがみついている会社が多いんです。

そろそろ具体的に自社を考えていると思いますので、私の感想を言いますね。

この会社も過去の呪縛で仕事をしているところが多いんじゃないですか?

原島社長と話をしても、皆さんとのグループディスカッションに加わった中でも、昔からやっているから続けているという事業がたくさんあると感じています。

特に、親会社から移管された事業については、金科玉条のごとく守っていくのが使命だと思っている方も多いようです。

そこで、このテーマをあえて入れてみました。

「製品ライフサイクル」とは、製品にはライフサイクルがあるというごく一般的なことを理屈として言っている言葉です。

特に問題はないと思いますが、知識として確認しましょう。

製品ライフサイクルの4段階という表題の下に、時間と売上の2軸のグラフを描いた。ゼロから小高い山のような単純な曲線のグラフだ。

グラフのゼロ点から右肩上がりの半分程度までに「導入期」と記入し、以下、頂上の少し手前までを「成長期」、頂上の前後を合わせて「成熟期」、右肩下がりの途中から最後までを「衰退期」と示すラベルを追加した。

非常に単純な図を書きましたが、大雑把に言えば、どんな製品(市場)もいつかは衰退するということを表しているに過ぎないと思っていいと思います。

マーケティングとして見るなら、理屈は以下の通りとなります。

(1)導入期

新しい事業ですので、まず「売上:低い 利益率:低い」状態であることはわかりますね。

マーケティングの目標としては、「市場の拡大」であり、そのために大幅な投資が必要となります。

(2)成長期

事業が軌道に載りだした段階です。「売上:急上昇 利益率:高い」状態です。

マーケティングの目標としては、「市場の浸透」と考えていいでしょう。競争が激化しますので、価格や品質、プロモーションで差別化を図る必要が出てきます。

(3)成熟期

言葉通り成熟期ですので、「売上:減速 利益率:安定or減少」となります。

製品で言えば、多くの消費者に受け入れられ当たり前のものになっている状態と言えます。

こうなると「市場シェア」を高めで維持できるかどうかが状況を左右します。

(4)衰退期

成熟期を過ぎて、「売上:減少 利益率:減少」となった状態です。

いつか必ずやってくる時期となります。

「生産性を向上」させ延命を図るか、「新たな価値」を加えて第二の成長期を目指すか、もしくは「撤退」を検討することになります。

実際の製品やサービスはこのような単純なライフサイクルの曲線となるわけではありません。

現実には、成長期に到達せず消えていくものが一番多いでしょう。

また、急成長したと思っているといきなり急降下してしまうことや何度も復活することすらあります。

一番重要なことは、「同じ状態が続くことはない」という点にあるのではないでしょうか。

いまの状態がどの時期なのかを考えると言うことは、未来を予測することに他なりませんから、「絶対」はありえませんね。

この考え方から、異なったライフサイクルをもつ複数の製品・サービスまたは市場を組み込んで、企業の永続を図るという考え方に繋がることになります。

今、あなたに給料や満足を与えてくれている事業はすべていつかは衰退するという考え方をベースに置くことで、常に、新たな価値創造を考え続けるという経営の基本に到達できるはずですね。

「いらっしゃい。今日は、研修の日でしたか」

 みやびの縄のれんを次々に弾いて入っていったので、大将も気づいたようだ。
 
「まずは、生ビールよろしく」

「はーい。ジンさんと由美さんと原島さんに鳶野さん。4名様ですね」

 亜海ちゃんがうれしそうに行ったり来たりしている。

「それじゃ、我々の成長期にカンパーイ」

「さすがに今日は刺激的だったな。北野がうちの事業について、はっきり言ったのは初めてだったろう?」

「原島さん。これからは、前に話したようにみんなの考え方を変えるつもりなんです。本番です」

「うん。俺も本気で取り組むぞ。最近、花園を目指していた高校時代を思い出すことが多くなった。思い出じゃなくて、あの頃の盛り上がりだ」

「原島さんが伝説のキャプテンだったのは、それまで監督任せだった練習や試合での戦略を自分たちでやるんだと宣言したところから始まっています。それを監督も応援してくれた」

「北野が言うのは、組織をマネジメントするのは、スポーツチームをマネジメントするのと何ら変わらないということだったな」

「そうです。スポーツがビジネスと違うとすると、戦う相手と戦う場所が明確だと言うことですかね。ただ、組織マネジメントの考え方に違いは無いはずです」

「わかった。本気だ」

 さすがに雄二も黙っていた。原島さんが他の人と違うのは、本気であることが周りからはっきりわかるほど素直だということかもしれない。

《1Point》
・製品ライフサイクル
 もちろん、モノだけでなくサービスでも同様です。

(1)導入期
売上:低い 利益率:低い
マーケティングの目標としては、「市場の拡大」であり、そのために大幅な投資が必要となります。

(2)成長期
売上:急上昇 利益率:高い
マーケティングの目標としては、「市場の浸透」と考えていいでしょう。競争が激化しますので、価格や品質、プロモーションで差別化を図る必要が出てきます。

(3)成熟期
売上:減速 利益率:安定or減少
製品で言えば、多くの消費者に受け入れられ当たり前のものになっている状態と言えます。こうなると「市場シェア」を高めで維持できるかどうかが状況を左右します。

(4)衰退期
売上:減少 利益率:減少
いつか必ずやってくる時期となります。「生産性を向上」させ延命を図るか、「新たな価値」を加えて第二の成長期を目指すか、もしくは「撤退」を検討することになります。