141.ドメイン(戦略ドメイン)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回まで:戦略の種類ということで、大まかな全社戦略、事業戦略、機能戦略という言葉を学びました)

 節分を過ぎ、暦の上では間違いなく春なのだが、あちこちから雪の便りと言うには厳しいニュースが流れてくる。
 
 東京でも積もらないまでも時折横殴りの雪を見ることができた。
 
「いやー、春はまだですねえ」

「いらっしゃい。まだ降ってますか?」

「ミゾレ交じりですけどね」

「積もらないかなー」

「亜海ちゃんは雪待ち顔だね」

「だってジンさん。雪ってきれいだもん。私ね、スキーって行ったことがないの。すごーく、あこがれちゃう」

「なに?亜海。雪国に行ったことがないのか?」

 カウンターのぐい呑みから顔を上げた大森さんが珍しそうな顔で声を出す。

「うん。わたしー、ずーっと東京。テレビで札幌の雪祭りを見るたびに、雪に埋もれたいって思うわ。いいなあって」

「早く彼氏にでも連れてってもらうんだな。楽しみがあっていいさ」

「ええーっ。大森さん、連れてってくれないんですかあ。飛行機の切符だけでもいいですう」

「だから、それは彼氏に頼めって」

「いーだ。いませんから。この間のバレンタインチョコ返して!」

「食べちゃったぞ。まさか、お返しに雪国旅行なんて言うんじゃないだろうな」

「あ、それいい。雪国一丁」

「はははは」

 いつものように笑いの絶えない店だ。春はここには来ているなあ。
 
「大将。雪国って言えば、日本酒で聞いたことがないですね」

「うーん。そうですねえ。ありそうだけどなあ。今度、卸さんに聞いてみましょう」

「カクテルならありますけどねえ。日本酒のカクテルってわけじゃないからなあ」

「え、ジンさん。雪国ってカクテルあるんですかあ。すっごく、ロマンチック。飲んでみたーい」

「亜海ちゃん。結構古くからあるカクテルで日本人が作ったんだよ」

「へえー。いいなあ」

「今度、知り合いのバーで飲ませてあげるよ」

「やったー。楽しみー」

「とりあえず、川端康成の雪国を読んで雰囲気を作っておいてね。このカクテルの由来でもあるって言うらしいんでね」

 ノンビリと菊正のぬる燗を味わいながら、キリッと冷えた雪国を思い出していた。
 

雪で新幹線が遅れたという連絡があったが、原島さんからは予定通り講義は進めて欲しいとのことだった。

皆さん。今日は、原島社長が間に合わないとのことですが、進めるように言われました。

先日は、「戦略策定の構造的なフロー」という図をお見せしましたが覚えていますか。

その「戦略策定のための構造的なフロー」において、ビジョン策定の後に「ドメイン決定」がありましたね。

これでした。よく聞く言葉ではありますが、おわかりですか?

インターネットの世界での「ドメイン名」の方が馴染みのある方もあるのではないでしょうか。

たとえば、私のホームページアドレスである
「http://www.miyabimura.com」の「miyabimura.com」をドメイン名といいます。メールアドレスの@の後ろ側と言ってもいいかもしれません。

この場合(インターネット)のドメインは「住所」と置き換えてもいいでしょう。当然、現実の住所ではありませんが、インターネット上の仮想の住所ということです。

それでは、経営用語としての「ドメイン」とは何でしょうか。
ちょっと辞書等から引用してみます。

・企業や銘柄の存立基盤。特に、企業が長期的に事業を展開していく領域をいう。(日本国語大辞典)

・企業などが事業活動を行う範囲。「ドメインを設定する」とは、会社が自らの活動範囲を明示することを表す。 (デジタル大辞泉)

・経営理論において企業の「本業」を指す。 (現代用語の基礎知識)

英語のドメインは、[domain]: 範囲、領域の意 ですが、経営におけるドメインも事業を行う領域という意味でいいでしょう。

ただし、単に活動範囲と捉えていては役に立ちません。

通常、「戦略ドメイン」と言われます。

あえて、戦略をつけるのは、積極的な戦略につなげるためのドメインであると言う意味です。

前回学習した「全社戦略」においては、この「ドメイン」「コアコンピタンス」「経営資源の配分」が不可欠だと言われます。

それでは、戦略ドメインとはどんなものでしょうか。

(1)ドメインの3つの要素

ドメインには次の3つの要素があります。それは、

 1)標的顧客:誰に、
 2)顧客ニーズ:何を
 3)独自能力:どのように

です。

これは、ビジョンを達成するための指針となります。

つまり、「戦う場所」を決定すると同時に、「戦わない場所」を決定するということに大きな意味があるのです。

(2)ドメイン決定のポイント

ドメインを決定するためには、まず、自社のミッションやビジョンの追求を忘れてはいけません。

そして、次の検討が必要です。

 1)自社の内部環境の分析:いわゆる「強み」「弱み」を明確にします。特に、自社に差別化をもたらすコアコンピタンスを明確化することが重要です。
 
 2)市場や社会の外部環境の分析:いわゆる「機会」「脅威」を検討します。注意点は、自社にとって本当に機会となるのか、脅威なのかを慎重に検討することです。市場への脅威が自社の強みによっては「オンリーワン」の強みになることもありえます。

上記はSWOT分析として体系化されている有名な分析ですので、別途取りあげます。

企業のドメインの決定において有名な事例を紹介しましょう。
鉄道会社の例です。

アメリカでは西部劇に良く出てくるように、ある時期鉄道敷設は大きな事業でした。ところが、現在、あまりアメリカの鉄道会社の話は聞きませんね。

新幹線を輸入するという話があるくらいですかね。

物の本によれば、当時のアメリカの鉄道会社は、自社のドメインを「鉄道による運輸事業」として経営を行っていたため、車社会への移行に伴って急速に縮小してしまったと言います。

それに対し、日本の阪急や西武という私鉄の企業は、鉄道のターミナルにデパートを作り、また、鉄道の繋がる郊外には住宅を建設してきました。

つまり、自社のドメインを鉄道輸送に限定せず、鉄道という強みを活かし、移動する人々に利便性を提供することをドメインとして活動してきたと言われます。

このように、ドメインの決定は戦略の方向性を大きく変えることになりますので、慎重に検討し、場合によっては、再構築する必要があります。

 ドメインを明確にするには、ビジョン策定や環境分析をしっかりとしなければいけない。
 
 次の具体的な戦略へつなぐ重要な正に要となるのが、ドメインだと考えるべきだろう。
 
 雪はいつしか冷たい雨に変わっていた。

(続く)

《1Point》
 戦略策定のフローのうち、環境分析・ドメインの決定という部分が今回のテーマです。

 このドメインが明確になって、初めて全社戦略を検討できるということですね。

    ミッション
      ↓
    ビジョン
      ↓
(環境分析・ドメインの決定)
      ↓
   全社戦略(成長戦略)
      ↓
   事業戦略(競争戦略・競争地位別戦略など)
      ↓
   機能別戦略(人事・財務・マーケティングなど)