140.戦略の種類

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回まで:ミッションからビジョン・戦略との関係について説明してきました)

「いらっしゃい。毎度」

「ジンさん、遅い、遅い」

「すまない。出がけに電話がかかってしまったんだ」

 雄二と由美ちゃんがすでに到着済み。原島さんも後から来る予定になっている。
 
「とりあえず、生」

 亜海ちゃんが飛んでくる。文字通り、小さな身体でビールをこぼしそうになりながら小走りでやってくるのだ。

「亜海ちゃん、そんなに急がなくていいよ」

「はーい」

「じゃあ、かんぱーい」

 雄二は二杯目。由美ちゃんは半分ぐらい口をつけていた生ビールで再度乾杯をした。

「お通しにブリ大根を煮てみました」

「おおー。相変わらずの採算無視のお通しだ。うーまそう」

 雄二の言うとおりみやびのお通しはノンベイだったらそれだけで十分なものを出してくる。

「ジンさん。そういえば、先週の研修では戦略論まで入ったんですって?聞きたかったなあ」

「うーん、戦略論まで入ったと言えば入ったんだけど、基本的にはビジョンとの関係を説明したって言うところかな」

「そういえば、ジンのお決まりがあったな。戦略とは『いくさ』を略すという文字通りの説明だ」

「目標が決まれば、その目標への到達方法はたくさんあるだろ。例えば、ある資格という目標を達成するためには、受験指導校に入学する、通信教育を受ける、独学するなどもあるし、直接受験しなくても、何らかの実績経験から取れるならそちらを狙うという道もある。すべてが目標到達への手段だが、すべてをやっていたら目標到達どころか、そのプロセスで断念しそうだろ」

「だから、手段を減らす、いくさを略すっていうのね」

「そういうこと。戦略を立てるというのは、新しい戦い方を考えるというより、考えられる既存の手段の中から選ぶという感覚の法が近いと思うよ。もちろん、それまで無かった手段を創りあげるという方法もあるけどね」

「いらっしゃい。原島さんの到着です」

「おおー。みんな揃ってるな。早速生ビール・・・って、早いな」

「亜海ちゃんの注文前攻撃」

「みんなの嗜好を把握して、他の選択肢を略したという戦略だな」

「やったー。私も戦略に乗れたのね」

 本当に無邪気に我々の話を聞いている。
 
 三度目の乾杯の後、次の研修について打ち合わせをした。

それでは始めます。

前回は、戦略策定のフローを見せて、ビジョンから戦略へつながる関係をざっと眺めてみました。

それでは、「戦略」とは何でしょう。

簡単に言うと、戦略とは「いくさを略す」ということになります。

よくたとえられるものに、富士山の頂上に立つという目標を立てた場合、どうやって頂上に立つかという手段を考えるというものがあります。

単に富士山の頂上に立つと言っても、ひたすら歩いていくのか、五合目まで車で行くのか、もしくは、ヘリコプターを使うとか考えられます。

それらの手段の中から選ぶと言うことは、何をしないかを決定することでもあります。

例えば、ヘリコプターは調達が難しいから却下、ということですね。

つまり、一般化してい言えば、「戦略とはビジョンへ到達するために取るべき道を明確にしたものである」と考えてください。

そのために、重要なことは、

・現状の理解とビジョンとのギャップを明確にすること
・全体から見て、整合性・バランスが取れていること
・することとしないことを明確にすること。(特に、しないことをはっきりさせる)

と言えるでしょう。

では、戦略策定のフローでも出てきた戦略の種類を説明することにします。

(1)全社戦略

まずは、全社戦略です。

これは文字通り全社的な戦略となりますので、経営資源をどう使うのかを決定する戦略と考えることが出来ます。

どこで、何を、どのように行うのかという視点で見てみましょう。

「どこで」:戦う場、リングや土俵、グランドを考えてもいいでしょう。わが社はどこで事業を展開するのか?経営用語ではドメインとも言います。

「何を」:わが社が戦うための強みです。得意技と考えてください。経営用語で言えば、コアコンピタンスです。

「どのように」:それぞれの戦場で効率的に戦うための経営資源の配分を考えます。

基本的にこの3つの要素を検討することで全社戦略を検討していくことになります。

ここでの戦略にはアンゾフの成長ベクトルや事業ポートフォリオを考えるプロダクト・ポートフォリオ・マトリクス(PPM)などが重要になります。

→注1:「経営資源」・・・一般的に、人・モノ・金と言われる経営に欠かせない内部資源を言います。今後どの事業に注力するのか、投資が必要な事業や資源は何かを考えることが全社戦略の重要な目的です。

(2)事業戦略

全社戦略に基づき、個別の事業戦略を策定していきます。

個別の事業において重視されるのは競争戦略になります。

マイケル・ポーターは、基本的な戦略として、コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つがあると言っています。

(3)機能戦略

機能戦略は横断的な戦略と言えます

。一般的に言うと、人事戦略・財務戦略・販売戦略・生産戦略・開発戦略など機能別、つまり通常の企業における人事部・財務部・営業部などの機能別組織に対応する戦略となります。

事業戦略を具体的に実現させるために実施部門をどうコントロールしていくのかを考えることになります。

 
「そういえば、ジンが組織論でも言っていたチャンドラーとアンゾフの戦略との関係を思い出すな」

「うん?北野、俺にもそれを教えてくれ」

「原島さん。じゃあ、研修調でいきますよ。

アメリカの経営史学者チャンドラーは有名な言葉「組織は戦略に従う」と述べています。

当然ですが、半面現実としては、一度出来上がった組織を変えるのは、人事ポストの変更を伴うなどの制約もあり、なかなかできないようです。

そんな現状に対し、同じくアメリカの経営学者アンゾフ(成長ベクトルなどで有名)は、「戦略は組織に従う」と述べました。理想論に対する現実論かもしれません。

組織論の論調は、「戦略と組織、どちらが先ではない。相互に影響を与える」などと書かれているものを見かけます。たぶん、アンゾフが高名な経営学者だからでしょう。

しかし、戦略を遂行するために人を組織化し、効率的・効果的に実行するわけですから、「戦略は組織に従ってしまう」ということを警句として、「組織を戦略遂行」の手法としていかなければいけないのではないでしょうか。

ということなんです」

「なるほどな。ミッションでもビジョンでも、ましてや戦略でもそうだが、決定するだけではいけないし、決定したから終わりでもないということか」

「そういうことになると思いますよ。何度も何度も検討し、修正を続けるつもりでいくことが、経営の基本ですね」

(続く)

《1Point》
前回提示した戦略策定のフローを再掲しておきます。