138.ミッションとは?

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回まで:実際の組織形態を見ました)

「ジンさん。原島さんの会社のミッションはいつ作るの」

 由美ちゃんが唐突に質問してきた。

「うん。これから原島社長が自ら作り上げることになるだろうね」

 他人事に聞こえたかな、と気になりながらも、それ以上の考えは無かったのも確かだ。

 次の研修テーマについて検討しているのだが、雄二から、そろそろ大原則に立ち戻って、ミッション・ビジョン・経営戦略というテーマに入っても良いんじゃないかと提案されていた。
 
「これまでは社員全体の意識を変えるために、知識と実態を比較するような内容で進んできたんだ。雄二も言うように、問題は企業文化というか、社風にあると思う。この数ヶ月で、確かに社員の意識は変わってきたと思えるから良い感じになっている。これからが、勝負だし、トップマネジメントが出てくる場面でもある」

「ジン。俺が最初にお前から徹底的に仕込まれたのが、ミッションを明確にしろ、だった。その重要性を何度も議論したのが今につながっているんだ。それを、原島さんにしなければ、お前もインテグリティに欠けると言われるぞ」

 グッと詰まる。由美ちゃんもキョトンとしている。

「インテグリティか。ドラッカーの翻訳者として有名な上田惇生さんは、『真摯さ』と訳していたな。誠実さか、軸のぶれない生き方か、まあ、雄二がそういう言葉を使うことに驚くが」

「謙虚に言えば、ジンのおかげだ」

「わかった。次の回から、原島さんに向けて内容を作っていこう」

 今回から、若干概念的な話に入っていきます。
 
 この会社にもグループミッションという親会社制定のものがありますが、これから自らの会社を規定していく内容を学んでいきましょう。

 これから出てくるのは、大きな内容を包括しているがゆえに、いざ説明する段になったり、策定案を任されたときに大混乱に陥る可能性のある言葉です。

 ホワイトボードに書き出した。
 
 ・ミッション
 ・ビジョン
 ・経営戦略

 よく聞く言葉ではありますね。そして、わが社にも文書化されています。では、ミッションっていうのはいったい何でしょうか。

 「ミッション」とは多くの経営関係の書籍やセミナーで語られるため、非常に重要であることに疑いを持つものはいない、と言いたいところですが、本当でしょうか?

 皆さんの会社ではミッションという言葉を使っています。でも、改めてその意味するところ質問すると曖昧な回答でした。

 「ミッション」という言葉をそのまま大上段に構えている企業を見てみましょう。

 見つけた事例にマイクロソフトとファーストリテイリング(ユニクロ)のものがありましたので以下に示します。

“マイクロソフトのミッション: 世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をすること”

マイクロソフトのミッションへのリンク

【Mission】ファーストリテイリンググルーブのミッション
ファーストリテイリンググルーブは-
■本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
■独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します

 日本の企業では、元々「経営理念」「綱領」「基本理念」などが社長室の額に飾られ、新入社員への訓辞に出てきます。これが、ミッションに当たると言っていいのではないでしょうか。(ちなみに、ファーストリテイリングでは、経営理念も別に定めています)

 つまり、ミッションとは、その企業の「目的」であり、「最上位の規範(憲法)」です。

 ここ10年くらいの間に、自社の「経営理念」などを見直し、「ミッション」に変更した企業が何社かあります。

 ただ、なぜ、ミッションという言葉を使ったのかの説明はどこにも無いようです。(もしかすると流行に乗ったのでしょうか。自社の従業員にきちんと伝わっていればいいのですが)

 ちなみに広辞苑には、「使節団。また、その使命」や「伝導」などとしか書いてありません。

 三省堂のWeb辞書には「任務や使命のこと」と説明されており、こちらの方が近いかもしれません。

 語源を辿ってみると「mission」の語源はラテン語の動詞 mittere (=英send 送る)、名詞missio(n-)のようです。つまり、送るという意味をもっており、ミサイルなども同語源であるそうです。

 どうもキリスト教から来ているようで、イエスキリストは神の国から人間界に送られて来たという考え方がベースにあり、つまり、その使命は何か?なぜ、人間界へ送られたのかという考え方にあるわけです。

 幸せな神の国からなにゆえに人間界へ送られ、また処刑されなければいけなかったのか、と考えれば、そこにはイエスキリストの存在理由があると言えますね。

つまり、「ミッション」とは、存在理由である。ゆえに、なぜ、あなたの企業がこの社会に存在し、活動を行っているのかという基本が「ミッション」だと言えます。

 マネジメントを発明したと言われるP・F・ドラッカーは、ミッションを説明する言葉として「何によって憶えられたいか」という言葉を使っています。

 目的に向かって明確に事業活動を行っていれば、他人や社会から「~の会社だ」と思ってもらえるはずです。

 さて考えましょう。
 
 あなたが出席する経営的な会議では何が主題ですか。
 
 もし、利益額や利益率ばかりが飛び交うようなら、「利益率の高いだけの会社だ」などと憶えられたいのか?と問いかけてみましょう。

 先のマイクロソフトのミッションで考えれば、「マイクロソフトは、世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をしている企業だ」と社会から認められるような事業や行動を取っているかどうか、が自らの評価であり、全従業員の目指す方向性の確認となるのです。

 今あるミッションを確認します。そして、普段行っている業務が、そのミッションを目指しているのかどうか、難しい内容ですが、話し合ってみてください。
 
 原島社長には、まず、ミッションを読み上げてもらいたいと思います。

 
「北野。社員の前で、ミッションを読み上げたのは初めてだったんだ」

 鍋が出てくる前に原島さんが深刻そうな顔でつぶやいた。

「あんなに読みづらいとは思わなかった」

 しばらく黙って聞いていたが、思わず口をついて出てしまった。

「本気でミッションを目指そうと考えたことがなかったからです。あ、すいません。言い過ぎかもしれませんが」

「いや、いいんだ。その通りだ。正直言って、お飾りだと思っていた」

「原島さん。俺は、ジンに何度も言われた。トップのやるべきことの第一は、何を目指すのか、自分の言葉で、かつ、みんなのわかる言葉で語ることだってね」

 原島さんが、大きく頷いた。