129:テイラーの科学的管理法(2)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

(前回:テイラーの科学的管理法についての講座を行っています。作業研究の説明を行いました)
 
 受講者からは、「厳しいなあ」という声が上がった。
 
「確かに、ストップウォッチで計測した決められた動作を続けるのは人間には酷なような気がしますね。ただ、ここで、注目するのは、標準を作ることで、公正な基準を作ったと言うことです。誰でもわかる定量的な目標や個人評価が可能になったんですね」

 「作業研究」については、人間を機械的に扱っているという感想が多かった。

「ただし、この作業研究によって今日の管理だけでなく、明日の計画や長期的な目標を立てることが可能となったとも言えます。皆さん、もう一度考えてみてください。生産品目の違う2つのラインを評価するときに、そういうものだと思うのか、もしくは、標準作業時間を基礎にして、効率的な方はどちらなのかを評価できるのか。課題を検討する場合、比較ができる方が納得性のある議論ができますよね」

 雄二にバトンタッチだ。

「そりゃあ、競争させるためだけの基準にしてしまっては、逆効果だよな。そこで、課業管理という考え方が出てきたという訳なんだ」

作業研究によって決定された個々の作業の「標準作業時間」とこれらを組み合わた実際の作業の「標準作業内容」によって、公正な1日の作業量(目標)となる課業(タスク)を設定します。

そして、この課業を達成するために考えられたのが、「職能的職長制度」と「差別的出来高給制度」でした。

「職能的職長制度」というのは、専門化を最大限に活用する現場管理制度であり、それまで親方(旧来の職長)が一手に仕切っていたものを、「計画」と「執行」に分離したことが大きな転換でした。

また、「差別的出来高給制度」とは、課業を達成した者には高い報酬を、達成しえなかった者には低い報酬を与える刺激賃金制度であり、がんばり損という雰囲気を払拭しようとしたと言えるでしょう。

これらを「課業管理」と言います。

この考え方から、生産計画や生産管理の考え方に繋がったと言っていいでしょう。

確かに、人間の動作から無駄を排除し、ストップウォッチを使って管理標準を決定するという点だけを見ると、その後の批判である人間を機械と同一視しているなどに繋がります。

しかし、生産性を上げるために賃金を上げ、賃金が上がりすぎ利益が減少すると賃金を切り下げるということを単純に繰り返してきた当時の状況を考えれば、

・労働者に目標と達成という考え方を提供したという点、
・計画と執行を分離して、生産性を向上させた点など、

現在の管理手法の礎になったと考え、まずは、最初のチェックポイントとしました。

これが、近代マネジメントのスタートです。

「労働者を分析して、生産性を上げるだけの考え方じゃなかったんだな」

 終了後、みやびで反省会をしている。原島社長の感想だ。

「なぜ、マネジメントのスタートかというと、労働者にとってはインセンティブがあるだけではなく、経営者の目標を中間管理職も末端の労働者も理解できるようになるという点にあるんです」

「ひたすら馬車馬のように、監督者のムチだけに反応していたのが、自分の頭で判断して、場合によっては監督者の横暴を指摘することもできる共通の基準ができたってことよね」

 由美ちゃんが、徳利に手を伸ばした。

「お、由美がいきなり日本酒になったとはなあ。渋い姉ちゃんに変わりつつある」

「あら、鳶野さん。日本酒の効用の方が、ビールよりいいんだから。イメージだけで評価するようじゃ、経営者としては減点ね」

「ははは。雄二の負けだな。さあ、今日も、遅くなる前にちゃんこ鍋でも頼もう。大将。菊正2本とちゃんこ2人前」

「あいよ!由美っペもそっちに座るのが落ち着いてきたなあ」

「へへへ。おじさん。いつでもお手伝いしますけど、時給は上げてもらわなくっちゃね」

 師走の声が近づいている。

(続く)

《1Point》
 テイラーの科学的管理法
 この理論は、「作業研究」と「課業管理」に分けられます。
 
 前回説明したのは、「作業研究」の部分で、今回が、「課業管理」です。
 
課業管理:作業研究によって目標となる課業を設定し、達成に向け管理をするという考え方。

課業の達成のための手法が以下の2つになります。

(1)「職能的職長制度」:専門化を最大限に活用する現場管理制度であり、それまで親方(旧来の職長)が一手に仕切っていたものを、「計画」と「執行」に分離したことが大きな転換です。

(2)「差別的出来高給制度」:課業を達成した者には高い報酬を、達成しえなかった者には低い報酬を与える刺激賃金制度であり、がんばり損という雰囲気を払拭しようとしたと言えます。