126:はじめに

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。今日はお揃いで珍しいですね」

 大将がさも驚いたようにネギを切る手を止めた。

「今日は原島さんの会社で研修の挨拶をしてきたんですよ」

 原島さんと雄二が一緒にカウンターに腰を下ろした。

「原島さん、ジン。さすがに緊張して疲れたなあ。早速飲もうや」

「雄二でも緊張するのか。こりゃ驚いた」

「馬鹿言うな。お前と違って、俺は繊細な神経の持ち主なんだ。一対一の戦いでは負けないが、大勢に見つめられるというのは苦手だと言うのがよくわかったよ」

「ははは。鳶野がそんな繊細だとは夢にも思わなかったな。うちの従業員達は、鳶野を見た瞬間から無駄口を叩かなくなった。やくざなボディーガードにでも思われたかもしれないぞ。まあ、俺の方で、ちゃんと説明しておいたから大丈夫だと思うが」

 亜海ちゃんが小さな身体で3人分のビアジョッキを運んできたのを合図に乾杯をする。そのすぐ後に由美ちゃんが飛び込んできた。
 
「あ、間に合った。ねえねえ、原島社長。ジンさん達の研修どうでした?」

「由美さん。そんなに気になるんだったら、次から参加してもいいですよ。講師の補助として歓迎しますよ」

「え、本当ですか?うれしい。ぜひお願いします。ジンさん、いいでしょう?」

「そりゃ、原島さんがいいというなら。そうか。それじゃ、次回から実習指導にも参加してもらおうかな」

「何でもするわ。それで、どうだったの」

・・・・

 原島さんの会社に着くと受付の脇に目立つ大男の雄二が座っていた。早速、受付嬢と会話が弾んでいるようだ。まったく。
 
 受付嬢に案内されて会議室に通されると、既に、原島さんが来ていて、何人かの社員達が机やプロジェクターの設置をしていた。
 
 初日なので、この研修の目的と自己紹介などをして、次回からの研修へつなげることにしていた。時間になって集まった人数は24名。予定通りだ。

(講義開始)

皆さん、初めまして。

この研修は、企業に勤めて専門的な業務を経験し、成果を挙げてこられたビジネスパーソンを念頭に置いて企画しています。

貢献を評価されることで、自分の専門知識や技術を超え、企業全体やカンパニー、事業部などの組織経営に携わるようになってきた「中堅」のエグゼクティブの皆さん。日々は充実してますか?

日本の企業では、まだまだ、管理職になることが昇進・昇給にリンクすることが多いようです。

たとえば、機械の設計を自分の強みとして会社に貢献してきた人が、認められることによって設計課長・設計部長へ昇進するというのは喜ばしいことでしょう。

ただし、自分の強みである設計自体でなく、急に人の管理や経営計画、経営数値の管理などを求められ困難に直面していませんか?

経営層の集まる会議では、様々な経営用語が飛び交います。

たとえライン長とならなくても、夢を追い求めているだけの仕事を任せてくれることを望むことは難しいというのが現実でしょう。

さあ、皆さんに向かって会議の席上で否応なしに指示が飛んできます。

「SWOT分析を行え」
「事業戦略を具体的にまとめてこい」
「コアコンピタンスを明確にしろ」
「人事マネジメントが必要だ」
「PPMに事業を落とし込んで検討せよ」
「自分たちのマネジメント能力を上げよ」

すぐに席に戻って対応できますか?

経営企画部門からサンプルが送られてくるので問題ないと思っていますか?

部下に指示をしても、「事業戦略をまとめるに当たってはビジョンを明確にしてもらわなければ困ります」と言われたらどうします?

カッコだけ付けても仕方がないですが、それでも知らなければ本来の役割を果たすことも出来ないですね。

これから私は全体的な用語として「マネジメント」を使います。

「経営」と言うと経営者が行うものというイメージですので、たとえば、設計課の課長に経営知識を身につけろといっても、あくまで自己啓発の一環になってしまいます。

しかし、自分のとりまとめる組織、この場合、設計課をマネジメントすること、そのための知識と実践であれば日常的な課題として捉えられると思います。

小さな組織であれ、大きな組織であれ、マネジメントの基本は変わりません。大企業の中の一組織でも同様です。それぞれのリーダーが考えるべきことも、チームメンバーが考えるべきことも何ら変わらないのです。

変わるとすれば、責任です。自分の果たすべき責任によって、出すべき成果が変わってきますので、行動が変わるのです。

これからは、良く出てくる「マネジメント用語」を中心に勉強していきますが、うんちくとしての知識だけではなく、実際の現場で意味のある検討が出来るように活用の注意点も一緒に学んでいけるように考えています。

個々の言葉だけではなく、全体の仕事の中での関連を考えながら学習していきましょう。

その上で、自らの本来の強みを活かす仕事に集中し、夢と貢献の実現を目指しましょう。

・・・それぞれ、自己紹介や思い、研修目的への感想など様々な発言を引き出し、第1回目は次回への期待を高めながら終了した。

(講義終了)

・・・・

「じゃあ、次回はどんなことをやるの。私も予習していくわ」

 由美ちゃんが身を乗り出した。

「マネジメント概論として、マネジメントと管理とは違うんだということをまず提示したいと思っているんだ。そのために、次回からは、科学的管理法から人間関係論やモチベーション理論などをさらっと確認するつもりだよ」

「お、それなら俺でも行けるな。この間、経営クラブで発表したばかりだからな」

 雄二が鼻高々に自慢しやがる。
 
「そのパワーポイント資料を作ったのは俺だろ。まったく。あの資料を若干手直しして使うつもりなんだ。由美ちゃんには、パワーポイントの全体のデザインを直してもらいたいんで、後でメールするよ」

「了解!テイラーやホーソン実験、マズローのあたりね。復習にもちょうどよさそう。原島社長の会社のロゴやCIの決まりを教えていただければ、専用のマスタを作るわね」

 具体的な内容を詰めながら、久しぶりに長野の「麗人」を飲む。諏訪の酒で、あまり全国区では見かけないが、諏訪に行ったときには「真澄」と共に定番の酒だ。大将が特別に仕入れているようだ。
 
「ちゃんこ鍋のうまさが際だつ酒だよな。北野達と付き合うようになって、日本酒を再認識したよ」

(続く)

《1Point》
 次回から数回に分けて以下の内容を織り込みます。

1. マネジメントと管理は違うのか?
 1)テイラーの科学的管理法から始まった
 2)人間関係論
 3)モチベーション理論
 4)性善説と性悪説  ・X理論・Y理論
 5)リーダーシップ理論

 管理という言葉で進めると、する側とされる側に分かれてしまうイメージがありますね。
 
 マネジメントとは、管理的側面も確かにありますが、働く人のやる気を引き出すための目標提示や具体的な評価指標が重要なポイントです。
 
 ドラッカーは、マネジメントの役割として管理の機能と同時に企業家としての機能を果たさなければいけないと言っています。
 
 企業家的な機能とは、「マーケティング」と「イノベーション」です。これらを基盤としながら、一般的な基礎知識を学んでいきましょう。