123.カンパニー制

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「へい、いらっしゃい。毎度」

 今日も亜海ちゃんが飛んでくる。

「ジンさん、いらっしゃいませ。生ビールどうぞ」

「亜海ちゃんもアルバイトというより、みやびの顔になってきたね」

「えへへ。うれしいでーす」

 大森さんや近藤さんも既に飲んでいた。

「ジンさんもそう思うだろ。亜海もがんばってるよな。ほとんど、毎日だからな。おじさんはうれしいが」

「大森さん、だーい好き」

 おじさんの扱いも大したもんだ・・・
 近藤さんが大森さんに声をかけながら、自分の徳利を持って立ち上がった。

「ジンさん、ちょっといいですか」

「近藤さん、どうしたんですか」

 近藤さんは、中堅の建設会社に勤めているが、元は役所に勤めていた公務員だった。
 ジョッキとぐい呑みで乾杯しながら隣に腰をかけた。

「いつもこんな話で済まない。ウチの経営企画チームと昨日飲んだんだが、組織の話で悶々としているんだよ」

「彼らも元気ですか?でも、組織を替えるというと言うような話ですか」

 近藤さんの会社の経営企画チームとは、コンサルとして付き合ったことがあったのだ。

「そうなんだよ。知っての通り、ウチは建築事業と土木事業、それと不動産事業が柱になっているけど、社長から、カンパニー制に移行できないかというテーマが与えられたらしいんだ。事業部制が今の形だけど、経営企画の連中も、事業部制からカンパニー制に移行するというメリットがよくわからないんだ」

「なるほど。うーん、まずは、社長のイメージするカンパニー制が具体的に何を目指すのかがわからないと単純にはいかないかもしれませんね。一般的に、カンパニー制というと擬似的な分社会社を内部に作ることをいいます。ただ、法律で規定されている概念ではないので、採用している企業でも中身は様々なんです」

 過去の記憶を呼び戻すために生ビールのお代わりをした。

「事業部制から移行する形で考えると、例えば、本社で一括していた調達や資金管理、固定資産管理などもカンパニーに移管して、それぞれのカンパニーで損益だけじゃなく、貸借対照表やキャッシュフロー計算書もつくるイメージですね。つまり、本社が持ち株会社で、カンパニーがそれぞれ事業会社として分社した形を内部的に作るんです」

「そうらしいね。でも、そんなことしたって、対外的には一つの会社だし、全社の財務諸表もつくらなければいけないわけだよね。今まで一つでできていたことをわざわざ分割してしまうとかえって非効率になりそうな気がするんだが」

「メリットとして考えられるのは、(1)それぞれ違った市場に対して早い意思決定ができる、(2)企業経営のほとんどの機能をカンパニートップの責任において運営することで経営者を育成できる、(3)事業毎の業績と報酬を明確にリンクすることができ、納得性のある組織運営が可能となる、などです」

「もちろんデメリットもあるんだよね」

「そうですね。日本のカンパニー制の草分けだったソニーやNEC、富士ゼロックスなどは相次いで廃止してしまいました。それぞれの事情はあるでしょうが、経営資源が分散してしまうことや全社にとって最適な行動を取るという視点が曖昧になってしまうことがデメリットでしょうね。事業部制以上に責任が重くなっているため、領域が曖昧だったり、成果が出るのに何年もかかるものには手が出せなくなります」

「うーん。それだよね。なるほどね。社長はたぶん自分の後継者を育てるためにカンパニー制を言っている気がする。そのために、全社的な視点を失ってしまったら元も子もないな。今のメリットとデメリットを並べて社長と話をしてみるよ」

 近藤さんがうれしそうにぐい呑みをあおった。

「もう一度、経営企画チームのメンバーと相談してみてください。必要だったら、私の考えをメールしますよ」

「そうしてくれると助かる。メリットとデメリットの考えは、特にお願いするよ」

「そろそろ難しい話は終わったかね。近藤さん、ジンさん、良ければ、今年初のちゃんこ鍋を注文しようと思うんだが」

「大森さん、もちろんですとも。とうとう、みやびの鍋の季節に入ったんですねえ。初鍋ですね」

 大将も、大森さんも、近藤さんも、そして、亜海ちゃんも、全員で「初鍋、初鍋!」とはしゃぎだした。

 秋深し。

(続く)

・カンパニー制
 組織形態の一つ
 
 事業部制組織の自立性を高め、機能的にも分社会社に近い形をとった組織形態です。
 
 本社部門があたかも持ち株会社のように、それぞれのカンパニーはキャッシュフローも含めた財務報告を行うのが通例となっています。
 
 メリット・デメリットは小説内で説明していますが、負担や機能の重複、全社的視点がもてないなどで廃止した企業が多いようです。