121.CSRとは?

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「みやびで待ってる」

 久しぶりに雄二から誘いがあった。

「いらっしゃい。鳶野さんがお待ちですよ」

 雄二は既にカウンターでジョッキをあおっていた。

「よお。ジン、待ったぞ」

「待ったぞって、何時から待ってるんだ。これでも、定時に出てきたんだ」

「まあ、まだ一杯目だがな」

 亜海ちゃんが生ビールをもって飛んできた。お通しは、サンマの南蛮漬けだった。

「いつもながら、みやびではお通しがメインディッシュみたいだなあ」

「お二人は量的に特別ですから大きな声で言わないでくださいよ」

 大将がうれしそうに声をかけてきた。

「いらっしゃーい。あ、由美先輩。ジンさんたちも来てますよ」

 亜海ちゃんがカウンターへ誘導してくる。

「由美。遅い遅い。待ちくたびれた」

「だから、まだ一杯目だろ」

 3人揃うのも久しぶりだった。どうも、雄二が由美ちゃんにもメールを入れたらしい。

「かんぱーい」

 さて、雄二の用件はなんだろうと気になり出す。

「雄二。何の気まぐれか、それとも無料コンサルか?」

「もちろん、無料コンサルだ」

「お前の会社もそろそろ顧問契約するくらいになったかと思ったんだが」

「馬鹿言うな。俺たちの間でそんな契約しちまったら、本気で相談できない」

「どういう理屈だ?まあ、こっちも無責任でいられるってことだが」

「まあいいさ。由美も呼んだのは、最初に相談してきたのが由美だからだ。なあ」

 由美ちゃんに話を振っている。
 
「あ、この間のセミナーの話ね。鳶野さん達が主催している経営クラブのセミナーに誘われて出てみたの。そしたら、そこで、CSR報告書の話が出たの。でも出席者同士でお互いの会社の話をしたんだけど、内容がバラバラだったのね。うちでもCSR課というのができたし、報告書も出ているんだけど、内部統制とか、ISOとか、コンプライアンスなどとどう関係しているのかがわからないから、鳶野さんに質問したのよね」

「そういうわけだ。クラブの経営者や経営企画関係のメンバーと話はしたんだが、どうも曖昧なんだ。そこで、ジンの出番というわけだ」

「ちょっとやっかいだな。生ビールのおごりだけでは難しいぞ」

「じゃ、お通しお代わり付きでどうだ」

「まったく。でも、CSRは今ではどこでも聞く割に、明確じゃないっていうのが現実だと思う。由美ちゃんの会社ではどう?」

「ええ。CSRを担当する課が2年ほど前にできたらしいの。初めは内部統制課がCSRに代わっただけらしくて、やってることは内部統制の監査対応が中心らしいわ。でも、最近、あちこちでCSRって言われるので、事務所のある地元のイベントに寄付をしたり、コンプライアンスの研修を主催したりしてるらしいけど」

「なるほど。どこも似たようなものかもしれないな。CSRって文字通り考えると、Corporate Social Responsibilityで日本語では企業の社会的責任と訳すのが一般的だね。じゃあ、社会的責任って何だろう」

 雄二も悩んだ顔になる。

「法令遵守だろ。その他には、最近ではCO2の問題とか、かなあ」

「たぶん、個々には正解の一つかもしれない。ただし、その動機が企業イメージの向上のためであれば、社会的責任というよりは、宣伝活動になりそうじゃないか?」

 由美ちゃんも頷く。

「そこなの。社会的責任って何に対しての責任なの?法律を守るとか、ラベルの偽装などで消費者を欺かないとか、社会貢献としての寄付をするとか、どれも考えたら自分の会社を守ることでしかない気がするの。イメージダウンにならないようにして、できればいい会社と言われて、売上アップにつなげるということに見えるわ」

「そこが難しい問題だと思うんだ。アメリカのSOX法のように、それを法律で義務づけたりすると、法令遵守が主流に思えるし、企業の持続的な発展のための手法にも思えてくる」

 雄二が口を開いた。
 
「じゃああれか。CSRというのは、自社を社会的な批判から守るための考え方か?」

「皮肉として見るとそういえるかもしれない。ただ、日本でこの考え方がメジャーになった頃には、特に食品業界での偽装などで社会的な企業バッシングがすさまじかったこともあり、企業防衛という考えがきっかけだったことは否定できない」

「やっぱりすっきりしないなあ」

「それじゃあ、雄二。近江商人の三方よしって覚えているか?」

「え、もちろん。売り手よし、買い手よし、世間よし、だったよな」

「あれは、まさに一つのCSRの考え方じゃないかと思えるんだ。つまり、自社の持続も取引先や消費者、また、関係する世間全般にとって良い商売をするという企業の姿勢じゃないかな」

「あ、なるほど。社会的責任は何かというのは、その企業の姿勢によると言うことかもしれないわね」

「そうだね。企業が活動を行うためには、何らかの社会的なインパクト(ダメージ)を与えてしまうはずなんだ。簡単に言えば、地球資源を減らし、環境に若干でも悪影響を与える物質を発生させる。何かを購入すれば、その先にある生産者の生産活動へも影響を与える。モノを輸送すれば、トラックが走り、交通量を増加させ、道路の補修が必要になる。連想ゲームのようだけど、常に何らかの社会的なコストになることを行っているから、常にそれらを含めて自社の企業活動の社会に与えることを補う活動を行うという考え方も一つだと思う」

うーん。なるほどと思ってもらえるだろうか。

(続く)

・CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任

 企業の社会的責任とは、企業が社会に向けてどんなメッセージを送るかという姿勢にあるのではないか、とも思えます。 
 先日読んだ本に、登山用品などの「パタゴニア」創業者の書いた「社員をサーフィンに行かせよう」(イヴォン・シュイナード著、東洋経済新報社)がありますが、この企業こそ、まさに究極のCSR企業ではないかと思わせてくれました。
 
 彼は言います。
 
「ビジネスとは実のところ誰に対して責任があるのかということに悩み、それが株主でも、顧客でも、あるいは社員でもないという結論にようやく達した。ビジネスは(地球)資源に対して責任がある。~(中略)~健康な地球がなければ、株主も、顧客も、社員も存在しない」
(同書 訳者あとがき P332)

 この本を読んでいる時、企業の責任に対するすさまじい格闘を見ている思いがしました。
 
 タイトルからわかるように、社員に自由にサーフィンに行かせることができる自由な、明るい会社を経営しているのですが、同時に、徹底した責任の取り方を行ってもいます。
 
 CSRについての解説書ではありませんが、非常におもしろく、かつ考えさせられる本ですので、是非読んでみてください。
 
 ドラッカー以外では、最近の一押しです。