110.デューデリジェンス

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

(前回まで:顧客情報管理のシステムであるCRMについての話が続きました)

 夏の暑さに不満を言っても始まらない。

「あっついねえ」

「いらっしゃい。ジンさん、すぐ冷たいおしぼり出しますね」

 大将がカウンターから出て、おしぼり2本を持ってきた。

「あれ?今日は亜海ちゃん、休み?」

「元々休みの日なんですよ。確か、今日は、友達と海へ行くって言ってましたよ」

「海かあ。20代の頃までは、夏になると海!って感じだったけど、最近行かなくなったなあ。歳かなあ」

「ははは。ジンさんが歳だなんて早すぎますよ。皆さん、忙しいから、なかなか海へ行くのが大変になってるんですよ。週末じゃ、混んで大変でしょ」

「そうだよね。学生の特権だね」

 生ビールでのどを潤した。

「よ、ジンさん。暑そうだね」

「大森さん・・・涼しそうですね。かき氷持ってどうしたんですか」

「商店街の夏祭りの打合せだったんだよ。ついでに予行演習」

 飲む前にかき氷を掻き込んでいる。

「ちょうどいいや、ジンさん。今、入り口のオフィスビルに入っている連中がジューデリ?をしてるとか、されてるとか騒いでたけど、何だね、ありゃ」

「ジューデリ?デューデリですかね」

「それだ。そんなもん、発音できねえや」

「大森さんは江戸っ子ですからねえ」

「黒さんだって言えやしねえって。言ってみな」

「ジーデリですか。言えるじゃないですか」

「言えてねえって。ま、口が回らねえ自慢しても仕方ないな。ところで、そのジューデリってなんなんだい」

「デューデリジェンスっていう言葉を言いづらいのでデューデリって言ってるみたいですね。元々は、株なんかの証券を発行するときに、投資家を保護するために、発行企業の開示している情報を調査することを言ったみたいです。今は、不動産取引とか、特に、企業を買収するときに適正な市場価値やリスクを調査することを言うようです」

「するってえと、あいつらは、会社の売り買いの話をしていたのかもしれないな。あのオフィスビルの会社も結構替わっているから心配だなあ」

「ジーデリなんて難しい言葉を使わなくても企業調査とか、不動産調査でいいじゃないですかね」

「デューデリっていう言葉自体は、当然の努力というような直訳になるんで、余計よく分からないですよね。たぶん、日本ではあまり行われてこなかった表面には現れない潜在価値とか、潜在リスクを欧米では『当然の努力』で調査してきたんだと思います。だから、表面上の財務諸表とか、不動産の評価額だけではない、深いところまで調査しますということで、デューデリジェンスという用語を使っているんでしょう」

「何でもアメリカが言っていればいいと思ってやがるんだな。要は、当然の詳細調査をジューデリって言って煙に巻こうってんだな」

「当たらずとも遠からず、かもしれませんね。当然の努力ですけど、やっぱり専門家に頼まないと本来のデューデリは難しいですから、社内的にもデューデリって言った方が通りやすいのかもしれませんね」

《1Point》
・デューデリジェンス/デューディリジェンス(Due diligence)

 Due(当然の、正当な)+Diligence(勤勉、精励、努力)ですので、当然の努力などになるようです。
 
 今回、突然この言葉を出したのは、質問があったからです。
 
 個人的には、デューデリというものに携わったことはないのですが、確かに、「今、デューデリ中です」などという話をよく聞くようになりました。
 
 元々は法律用語のようで、日本では、売買契約後に瑕疵(欠点や性能未達など)が発見されれば売り主のリスク負担するのが当たり前でした。しかし、バブル崩壊後、安定していたと思われた不動産のリスクがあまりにも大きくなったため、事前の投資案件としての調査が詳細に行われるようになったと言われます。
 
 企業買収においてはなおさらです。財務諸表に現れない企業風土や知的資産などを洗い出すことが非常に重要になります。
 
 そういった専門家による詳細調査をデューデリジェンスと言うと考えていただければいいかと思います。