109.KPIを設定する

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

(前回まで:顧客情報管理のシステムであるCRMについての話が続きました)

 暑さと湿気が身体にまとわりつく。
 
 上着を脱いで腕に掛けているのだが、腕の汗の跡が上着に染みこんでいた。
 
 外回りの営業にとって、一番きつい時期だ。

「へい、いらっしゃい。毎度」

「いらっしゃい、ジンさん。うわー、暑そう。上着はこっちに掛けておきますね」

 亜海もこの店の看板娘が板についてきたようだ。

「まずは、生ビールを大至急。亜海ちゃん」

「はーい」

 いつものように、大森さんと近藤さんがカウンターの奥に陣取っていた。

「暑い中、お疲れさん」

「かんぱーい」

 この季節は、この一杯が最高だ。

 引き戸を開けて客が入ってきた。

「あ、由美せんぱーい。いらっしゃーい」

 由美ちゃんが、やはりスーツの上着を手に持って入ってきた。

「やっぱり暑いわねえ。ジンさん、早かったんですねえ」

「こう暑くっちゃ、早めに来たくなるよ。まずは、生でいいんだろ?」

「もっちろん!」

 今日は事前に由美ちゃんからメールが入っていた。みやびに顔を出すのなら、ちょっと聞きたいことがあるという内容だった。

 乾杯をして、2杯目を注文した。

「ところで、由美ちゃん。聞きたいことって何?」

「ええ、また仕事の話しでごめんなさい。やっと見習いも終わって配属されたの。業務改革チームなんだけど、そこで、KPIを考えるっている作業をしているんだけど、良くわからなくって。みんなの言っていることがしっくり来ないの」

「KPIって、Key Performance Indicatorのことだよね。日本語にすると重要業績評価指標って言われるけど、改革の目標に対する指標を考えているのかな」

「そうなの。それぞれの組織において新たな目標を作ったんだけど、それを定期的に評価するための共通の指標を作ることが求められているの。個別目標に対して、いろいろな指標が出てくるから混乱しちゃうし、複雑になってしまったの」

「なるほど。有効なKPIが設定できると、それだけで目標達成率が高くなるとも言われるから、逆に言うと設定するのが大変なんだよね。まずは、目指す目標を明確にして、ビジョン化することが大事なんだけどその辺は大丈夫?」

「うーん。それも問題なの。目標が割と大きな経営目標になっているので、達成に向かっているかどうかを途中で評価できなければいけないと思うの。でも、出てきているのが、売上高利益率とか、利益成長率なのね。結果ははっきりするけど、じゃあ、具体的に何をすることで成果につながるのか見えないじゃない?」

「なーるほど。由美ちゃんの言うとおりだね。投資家の視点でしか評価できないってことだね。目標が大きいなら、バランススコアカードの4つの視点で具体化してみたらどうだろう。投資家や取引先などの視点、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点から目標を達成するための具体策を考えるんだったね」

「そうだったわ。お客さんに対してどうするのかがなかったのが気になっていたの。そうかあ、4つの視点で考えて、それを評価する指標にしていけば偏らないわね。やっぱり、ジンさんに相談して良かった。ありがとう」

「いやいや。切り口を言っただけだよ。それぞれについて、適切なKPIを設定するのが重要だからね。KPIを考えるとき、やっぱり、従業員みんなが意識できるようなわかりやすいものすることと、常に意識できる仕組みを作ることが注意点かな。そのためには、納得できる、ということを考えなければいけないよ」

「シンプルで納得できる指標ね。そして、それを常に意識できるような仕組みを作る、と。明日はメンバーに提案してみるわ」

「それじゃあ、改めて乾杯しようか。亜海ちゃん、生を2つよろしく」

「はあーい。今日はいいシメ鯖が入ってますけどいかがですか」

「もちろん」

 由美ちゃんも呆気にとられている。

「亜海ちゃんもしっかり定着したわねえ。私もがんばらなくっちゃ」

 暑さに負けず、がんばっていこう。

(続く)

《1Point》
・KPI(Key Performance Indicator):重要業績評価指標
 
 目標を設定したとき、そこへ向かうために自己評価するためにも、具体的な指標が必要になります。
 
 話しの中に出てきたバランス・スコア・カードが分かり易いので、敢えて出してみました。
 
 たとえば、
 
 財務の視点:売上高の前年比、利益成長率
 顧客の視点:リピート率、クレーム件数
 業務プロセスの視点:欠品率、リードタイム
 学習と成長の視点:研究開発費、改善提案数
 
 一例ですが、このようなものが考えられます。
 
 目標自体が定量的なものであれば、指標もそのまま、途中の到達目標を設定すればいいですが、定性的だった場合はどうでしょう。
 
 「顧客満足度」は、明確に数値化する訳にはいきませんね。
 
 でも、アンケートなどで、感覚的な回答である「高」「中」「低」に、数値を当てはめ(1・2・3など)、すべての項目を足した結果で評価するなどという手法があります。
 
 比較していくことからも、出来る限り数値化をしてみることが重要だと言われています。