107.CRM(2)

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

(前回まで:顧客情報管理のシステムであるCRMについての話に変わってきました。手書きの大福帳を超える仕組みがあるんでしょうか)

 大森さんは日本酒を傾け、雄二は壱岐焼酎をロックにしている。由美ちゃんが、角のハイボールにしている横で、長野県上田の「五星霜」を味わった。
 
 五星霜は、実は、上田駅前の居酒屋に行ったときに、偶然飲んだ酒で、大吟醸の5年もの古酒だった。
 
 日本酒の古酒は珍しいので注文し、その口当たりに驚いたのを覚えている。
 
 何気なく飲んだんだが、なんだか涙が出そうなやさしい口溶けだった。
 
 その話を大将にしたら、時々取り寄せてくれるようになったのだ。
 
「そう言えば、囲い込みの話はどうなったんだ」

 雄二が急かしてきた。

「5年ものの古酒を味わっているんだ。そうあわてるな」

「なに!いつの間にかそんなのを飲んでるんだ。大将、俺にもその古酒をくれよ。水くさいなあ」

「大将。8年ものが入ったときには、雄二には内緒ですよ。もったいない」

「ジン。お前ってやつは、酒に関しては心が小さすぎるぞ。何でもシェアするはずじゃないか」

「限定酒は別だ。さあ、話を戻すぞ」

 五星霜を口にした雄二の驚く顔を見ながら続けた。

「大森さんの大福帳のように、日々のフェイスツーフェイスでの取引を記録するものを、システム化し、顧客情報データベースを一元化するのがCRMのスタートであり中心だ」

 大森さんが応える。

「息子は盛んにその顧客のデータベースってのを言ってるなあ。手書きの方が分かり易いと思うんだが」

「今言ったように、対面での商売だけならそれで十分でしょう。でも、大森さんのところでも、支店が出来、お客さんに対応する人が増えてきたり、FAXやインターネットでの取引が増えてくるとそうも言ってられなくなります」

「それじゃあ、うちの支店のやってるのは正しいってことかい?」

「いえいえ。情報の一元化をすることが目的ではないですから、そうとは言えませんね。何のために顧客情報を集めるかを考えてください。由美ちゃんはどう思う」

「そうねえ。大森さんの大福帳がヒントよね。お客さん、1人1人の情報が、すぐに取り出せて、喜んで貰えるような対応が出来るようなものね。データベースになっていれば、今週、重要な記念日のあるお得意さんを一覧表で抽出したり、問い合わせの電話があったら、過去の取引や修理履歴なんかをすぐ確認できるようなもの」

「そうだね。大森さんの息子さんがやろうとしている大福帳のデータベース化が出来れば、たとえば、大森さんの昔のお得意さんが、支店に問い合わせても、支店の営業は大事なお客さんであることが分かります。また、問い合わせてきた商品についても、型番などが登録してあれば、適切な対応が出来ますから、お客さんにメリットが出ますよね」

「うーん。そうかもしれないなあ。あんまり毛嫌いしていてもいかんのかなあ」

「大森さん。支店で失礼がないようにするという目的だけでも、意味がありますよね」

「確かに・・・」

「接客する人の能力や場所・時間・方法を超えて、一定レベル以上の顧客サービスをするためにも、顧客情報データベースを考える意味があります。それだけじゃないです」

「ジンさん。他にもあるの?」

「うん。前に話したPOSシステムデータと統合すると、来店履歴や購入履歴を簡単に蓄積することが出来て、購入パターンと顧客属性の分析とか、嗜好の変化を分析することも可能になるんだ」

「そうか。マーケティングのデータとして活用できる訳ね」

「その通り」

「個人情報をうまく活用すると販促のダイレクトメールを送ったり、記念日にお祝いメッセージを送るのを忘れないようにするなんてのが、マンツーマンのマーケティングに繋がるわけだ」

「雄二もその通り。ただし、最近は個人情報保護法が施行されてから、お客さん自身も個人情報には、敏感になっているので、気を付けなきゃいけないことも多いけどね」

 顧客情報というものは、お互いの信頼の元でなければ使うべきではないかもしれない。まずは、信頼して貰えること、そのためには、きっちりとした顧客対応をしなければいけないという基本にもどることだ。

(このテーマ、次回へ続く)

《1Point》
・CRM(Customer Relationship Management)
 
 顧客管理・顧客関係管理
 
 おおざっぱに考えると顧客との関係を強化する仕組みと言えるでしょう。
 
 顧客情報データベースを中心として、常に、新鮮なデータが付け加わるような仕組みを作る必要があります。
 
 どんなシステム、データベースでも同様ですが、最新の情報に更新されていないと逆効果となりますね。
 
 誰が、いつ、どのように情報を入力するのか、その情報の正確さをどこで担保するのか。組織が大きくなると、そんなルール作りが必要です。
 
 履歴などは、出来るだけ自動で入力させることが必要ですね。その道具として、POSレジや顧客カードが利用できます。
 
 そして、その情報を効果的に活用する仕組みも、常にフィードバックして、このやり方でいいのかを検討する必要があります。