105.SCMとは

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト

(前回まで:IT利用の業務改革について話をしています。統合業務パッケージとして、ERPが取り上げられました。)

 今夜も大人しく菊正宗の樽酒を常温で嗜んでいる。
 雄二は生ビールを継続し、由美ちゃんは梅酒に替えたようだ。
 
「そういえば、ERPというのは自社の内部だけの話のようだな」

 雄二が自分のメモを眺めながら呟いた。鋭い。

「鋭いじゃないか。まあ、ERPは内部だけのシステムと決めつけるわけにもいかないけれど、基本的に会計情報や原価情報が入っているから外部につなぐのはリスクが大きいんだろうな」

「なるほど。でも、調達とか、入金管理などは内部だけというわけにはいかんだろ」

「入金管理は、たぶん、銀行との連係だから外部といっても業務上のセキュリティ管理はされているだろう。調達や出庫などの取引先との連係は、SCMのシステムで行っているのが多いと思うな」

「出てきたな、SCM。何の略だっけ」

 ここぞとばかり、由美ちゃんが身を乗り出す。

「サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)ね。うちのように卸売業をしているとSCMが生命線だって教えられたわ」

「そうだね。たとえば、コンビニエンスストアのチェーンは、本部と店舗のチェーンだけじゃなく、それぞれの商品の卸売業者やメーカーなどともリアルタイムに近いデータのやり取りをしているというね。前に話したように、店舗ではPOSシステムで、在庫状況や販売のペースが把握できるし、天候・季節・地域のイベントなどの情報から日々の需要予測を持ってる。これらの情報が、各商品の倉庫などに繋がって、欠品を生じない配送計画に反映されるんだ。メーカーも生産計画への修正を随時行っているはずだね。このシステムで全体の効率化を図るのがSCMの目的になっている」

「ジン。そうは言うが、現実問題として、コンビニの力は強いから、コンビニからの一方的な指示でメーカーは大混乱してるんじゃないか。自動車メーカーの部品調達も分単位で管理しているという話を聞いたことがある。つまり、分単位で自動車メーカーの計画変更に、ひたすら追随しなければいけないという下請けの悲鳴が聞こえる気がするぞ」

「なかなか想像力がたくましいな、雄二。確かに、SCMを利用した効率化の仕組みは、ますます、リアルタイムでの計画変更を要求するようになる。でも、それが、全体最適での競争力になることをすべての企業が理解して初めて機能するんだ。どんなに中心のメーカーなどが強力でも、結局、必要な取引先だけが無理をして企業体力が落ち、倒産したりすると、その厳密な管理ゆえにすべての生産が止まってしまう可能性もある。SCMは、関係する企業すべてが、Win-Winの関係にならなければ、続かないんだ」

 最近、言葉としてのWin-Winを言っている企業は多いが、本当に実現しているところはどのくらいあるんだろうという疑問がわいてくる。

「ジンさん。SCMが取引先を結んでいるというのはわかるけど、具体的にはどんなことをしてるの?やっぱりインターネットを使うの?」

「今はインターネットを使うのが主流だと思うよ。はじめの頃は、セキュリティの問題もあって、専用線を使ったから各企業の負担も高くてなかなか導入が進まなかったと言われてるんだ。データのやり取りのために使われるのが、EDIという仕組みだ。これは、各企業でのデータのやり取りを様式を決めてやり取りするをするという考え方なんだ。元は、業界や取引先が違うとそれぞれの様式でのやり取りをするため、複数の取引先があると相手毎に違った様式にデータを加工し直さなければいけなかったようだね。今は、標準様式や新しい仕組みでのオープン化が進んでいるので、やりやすくなっていると言われている」

「見積から注文書・請書を手でやり取りしている時代じゃないんだな。でも、たまには顔を合わせないと本当に信頼して取引していていいのかどうかわからなくなってくるかもな」

「もちろん、雄二の心配は正しいな。企業と企業と言っても、すべてドライな関係でやっていけるはずはない。ドライな付き合いの前提として、信頼関係は絶対に必要だ。そのために、実務者同士や経営層が直接会って交流する仕組みも重要だと思うな」

 シンプルに鯖の塩焼きを頼んだ。焼き魚に合うのは、誰が何と言っても日本酒に限る。
 
 そう、人の好みも想いも人それぞれだから、理解し合おうと思わなければ、どこかで食い違う。そんなことを考えていた。
 
《1Point》
・SCM(Supply Chain Management)
 
 簡単に言えば、取引先との繋がりですね。
 それを進めて、「小売り、物流、製造関係企業をネットワークして、生産・供給効率を向上させる経営手法」とまとめられます。
 
 現実には、取引先各社とEDIという仕組みを使って、在庫や生産状況、予想などをリアルタイムでやり取りし、全体最適な計画に修正し、実行していくことになります。
 
・EDI(Electronic Data Interchange)

 電子データ交換。企業間での商取引のためのデータを、通信回線を介してコンピュータ間で交換すること。(日本大百科全書)
 
 データの様式や業務プロセスを標準化し、在庫圧縮や欠品防止を目指します。また、ペーパーレス化を推進し、人為的なミスを減らすことも目的の1つだと言われます