104.ERPシステム

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
(前回まで:雄二への生産の管理の初歩講座を行いました。生産形態を簡単に説明しました)

 しばらくは雄二のことも忘れるほど忙しかった。忙しさもトラブル対応がほとんどだったためストレスが溜まる一方だ。
 
 そんな中、夕方、雄二から突然のメールが来た。

『ヘルプ。みやびへ来られるか?18:00』

 今日は、落ち着いていたこともあり、すぐさま出かけることにした。

「へい、いらっしゃい。毎度。ジンさん、今日も鳶野さんと待ち合わせだったんですか?」

「呼びつけられたんですよ」

「また、人聞きの悪い。なあ、亜海ちゃん」

「鳶野さんがジンさんを呼んでくれたんですよね。大歓迎ですう!」

「私もね」

「あ、由美ちゃん。久しぶりだねえ。由美ちゃんが来るなんて、雄二は言ってなかったけど」

「ばっかだなあ。由美は基本的にここの子だから、居る方が自然だ。わざわざお前に連絡することもないだろう」

 戯れ口をたたきながらカウンターに並んで座った。
 由美ちゃんは、いかにも仕事帰りというスーツ姿でヱビスの瓶ビールを飲んでいた。
 
「ジンも来たことだし、改めて乾杯」

「まあ、いつものことだが、ヘルプってのは飲みたいって言うだけだったか。俺もトラブル対応で飲む口実が欲しかったんだがな」

「え?ジンさんの会社でもトラブルが続くんですか?同僚の方を見てても、すごくうまくいっているように見えますけど」

「由美ちゃん。なぜだろうね。最近、初歩的なミスが多いんだよ。数年前だったら、大きくならないうちに手が打てたようなミスなんだよね」

「ふーん。偶然ですね。うちの会社の上司もそんなこと言ってたんですよね」

「俺が言う前に、今日のヘルプのテーマが出てきちまった」

 雄二が興味深そうにつぶやいた。

「なんだ?トラブルの話だったのか」

「いや、トラブル自体の話ではなくてな。会社のITシステムがわからないんだ。ほら、あの金属加工会社に顔を出したんだが、そこで会社全体の情報システムを構築したいって言うんだ。また、難問が出てきたって訳だ」

「生産設備の情報システムか?」

「あ、いや。社長は、単純なトラブルが頻発している現状に、業務改革用のITシステムを使って何とか出来ると思っているらしい。そこで、提案してくれって言われたんだけど、これがまたよくわからん。エンタープライズなんちゃらとか、あとは、ローマ字3文字のやつだな。CとかSとか似たようなやつ」

「エンタープライズ・リソース・プランニング。ERPね。後は、CとかSとかだけじゃわからないけど」

「由美、それだ。SF映画みたいなやつだった・・・」

「なるほど。業務改革って言うと必ず出てくるな。たぶん、CとかSってのは、CRMとか、SFA、SCMあたりだろうな」

 雄二が悔しそうな顔をしている。

「たぶん、その通りだ。まず、その用語を教えてくれ。工場の現場で言われたんで、相づちを打っただけでメモも取れなかったんだ」

「由美ちゃんの会社では、ERPを導入しているの?」

「えへへ。受け売り。研修で説明されたんだけど、実務上、あまり意識してないんで、どれがERPと言われてもよくわからないわ」

「簡単に言うと、業務ソフトを統合したパッケージを言うくらいで、ITシステムの会社によっていろいろなんだ。販売の顧客情報を扱うソフトとか、会計のソフト、人事・給与ソフト、もちろん、生産管理のソフトなんかを連係させて1つのシステムとすることで、リアルタイムで、かつ情報の整合性がはかれると言われている。経営者の観点からは、すべての業務プロセスが1箇所で把握出来るという点を売り込んでいるようだな」

「なーんだ。聞いてみりゃ、大したことはないな。それを導入すると業務改革になるという触れ込みなんだな」

「一番のメリットは、バラバラに業務ソフトを使っているのと較べて、必要な情報が統合されたり、連係したりするので、重複したり、二度手間、三度手間を省けるということだろうな」

「そう言うことなんだ。私も、研修でいくつかの部門を経験させてもらったけど、業務のデータはパソコンに全部入っているって感じで、さすが企業は違うんだなあって思ったわ」

「どちらにしても、そのエンタープライズをシステム屋に持ってこさせてプレゼンと見積を依頼すればいいわけだ」

「おいおい、雄二。ERPは当たり障りが無いように作られているが、従来の業務と大きく変わることが考えられるから、まずは、自社の業務プロセスを分析して、強みを活かしている、または、それ自体が強みとなっている業務をサポートしているかどうかをよく見ておかないと本末転倒になるぞ」

「そうよね。パソコンに使われるって言うけど、システムのために、不要な入力や業務を追加してしまったら意味がないし、重要な業務を別に手作業でやることになったら、データに抜けが出てしまうわよね」

「理想は、現在の業務プロセスを網羅して、入力やデータ利用をしている担当者にとって、大きく手間が省けるものだろうな。しかし、現実には、導入したけど、データの利用は部分的という会社も多いらしい」

「それじゃあ、何から手を付けたらいいんだ」

「まずは、現在使っているシステムやパソコンソフトを洗い出して、入力するデータと出力するデータ、他のシステムと連係しているデータの流れを見えるようにしておくべきだろうな。次に、現在の業務で他に波及するけど手作業でやっているものや不便だ、手間がかかるという業務を出してもらう。これらを出来るだけすべての関係部門に見てもらって、あるべき姿との比較をしたらいいと思う」

「あるべき姿?」

「たぶん、担当者は、システムや機能上、無いからやっていないとか、無いから手作業でやっているという不満を抱えているはずだ。また、もう少し早く上流工程の情報が流れてきていれば、こんな手間がかからないなどと言う不満を解消するプロセスをあるべき姿として作ってしまうといいだろう。もちろん、担当者だけではない。経営者や経営者層が企業の課題として重要性を認識して、トップダウンで進めることが成功の秘訣だと言われている」

「結局は、元のコンサル活動をやらなければ難しいと言うわけか。ITシステム導入しました。さあ、終わり、とはいかんな」

「当たり前だ。トラブルが起こっているなら、どこかにボトルネックとなる原因が隠れているはずだ。うちの会社でもそうだが、それを捕まえるのが難しい。個々のトラブルに振り回されていると、全体から見ることができないんだな。トラブルの発生をそのまま、ITの導入だけで解決できるとは期待しない方がいいな」

 何となく、それぞれが今の業務上のトラブルを思い出しているようで、しかめっ面になっている。
 
 
《1Point》
・ERP(Enterprise Recource Planninng)システム
 
 企業の基幹業務を統合した業務パッケージシステムのことです。 最近、あまり聞かなくなったように思うのは、それぞれの企業で根付いているのか、もしかすると、うまくいかないまま個別システムで我慢しているかなのでしょうか。
 
 とはいえ、課題解決を検討する場合、ITシステムが本来の業務とマッチしていないということが原因にあるという笑えない事象も多いのです。
 
 未だに、診断士の試験問題に出てくるところを見ると、業務拡大中の企業が、必ず直面する問題の1つになっているからかもしれません。
 
 システムに同じデータを複数の場面で入力したり、途中で手作業が入るシステムにしてしまうと、ミスを起こしたり、停滞したりする要因を作ることになります。
 
 実際の業務とシステムをいかにマッチさせ、経営者がそれをどう活用するのかが明確でなければ、中途半端なものになるでしょう。