101.生産の要素と条件

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト


「へい、毎度。鳶野さんが来てますよ」

雄二から誘いのメールが来ていたので、寄ったのだ。

「ジン、遅いぞ。俺は出来上がってしまうじゃないか。なあ、亜海ちゃん」

「はい、鳶野さん。お店のためにもたくさん飲んじゃってください」

「いいね、いいね。さあさあ、ジンも座れよ」

確かにいい調子になっている。

「雄二、お前が相談があると言うから無理して出てきたんだ。まあ、いいさ。じゃ、乾杯」

亜海も慣れてきたらしく、すぐさまお通しが出され、注文を受けている。

「それで、雄二。相談ってなんだ。仕事がうまくいってないのか?」

「馬鹿言え。俺の仕事は順調さ。まあ、追い追い話すけど、簡単に言うと、工場の管理を頼まれちまってな。どうしたらいいのか、ちっともわからないんだ。そこで、ジン様にお知恵拝借というところだ」

「工場の管理?お前は生産には手を出さないんじゃなかったのか?それが強みだったはずだが」

「もちろんそうだ。ただな。ほら、最近中小企業の経営者の団体を立ち上げただろう。そこで、創業の仕方なんかのセミナーをしたりしてるんだが、そこで金属加工の会社の2代目に頼まれてな。まあ、コンサルタント契約みたいなものをしたんだ。2代目はスーパーの店長補佐をしていたくらいで、親父さんが突然倒れてしまったんで、継ぐことになったというわけだ」

「わけだって言われてもな。お前は、金属加工どころか、生産現場を知らないだろ。それで、コンサルタント契約なんて無謀だし、詐欺じゃないか」

「おい、ジン。人聞きが悪いじゃないか。俺だって、生産の現場を知らないことを誤魔化したわけじゃない。あくまで、会社の経営の部分を補助してやるという話だったんだ。それも、銀行や金融機関とのやりとりとか、役所への申請なんかを助言したり、専門家を紹介するという契約だ。でもな。実際の悩みは、工場のベテラン職人との人間関係らしい。2代目は家を継ぐつもりはなかったんで、親父さんの会社の従業員とのつきあいもあまり無かったんで苦労しているらしい」

「確かに2代目の悩みだな。特に、金属加工などは、設備も大事だけど、それ以上に職人の腕やカンに頼っているところが大きいしな。それで、雄二はどうしたいんだ」

「正直言うと、工場生産の基本的な考え方を2代目に教えてやって欲しいんだ。人間関係は時間をかければいいし、今は、ベテラン職人がこれまで通りやるだろう。親父さんの人柄で取引先も気を遣ってくれているらしい。今のうちに、工場の管理を勉強したいというんだ」

「それは難しいな。生産管理の専門家を頼んだ方がいいだろう。俺も、知識レベルでは何とかなるが、実務の経験はほとんど無いんだ」

「了解、了解。それでいいんだ。まずは、本当に基本的なことだけでも教えてくれ。俺も引き受けた手前、工場に入って、職人の話を聞くつもりなんだ。それまでに、質問のポイントだけでも考えておきたい」

生ビールのお代わりをし、アスパラのベーコン巻きに箸を伸ばした。生産管理か・・・

「基本中の基本と言えば、生産要素と生産条件と言えるだろうな」

「生産要素と生産条件・・・それは、具体的に言うと何だ」

「生産というのは、何らかの材料に対して、加工をすることで、付加価値の加わった製品として産出するというのが、基本的な仕組みだ。これはわかるよな。つまり、この加工のために投入されるものが生産要素と言われる。金属加工なら、何らかの金属、たとえば、鉄板などの『材料』を仕入れて、生産主体である『人』が、生産手段である『機械設備』などを使って生産をする。これらが、基本的な生産要素と言われる」

「ヒト・材料・機械設備か。なんか、ヒト・モノ・カネの経営資源に似てるな」

「そうだな。同じとも言えるかもしれない。この生産要素の英語の頭文字を取って、3Mと言われる。『Man』『Material』『Machine』だ。これで覚えるといいだろう」

さすがに雄二も神妙な顔でメモを取っている。

「そして、もう一つ、生産条件が重要になる。生産要素を投入して製品になるが、その製品を評価する基準がこの生産条件だ。これは、有名なので聞いたことがあるかもしれないな。Q・C・Dと言うんだが」

「キュー・シー・ディーって、品質、コスト、納期か。それなら知っている。それが条件ってわけか」

「生産の3条件と言われるんだ。この条件を管理することで、顧客の信頼を得、経営を安定させることに繋がるから、要は生産管理とはこの生産要素と生産条件をしっかりすることと言えるんだ」

「なるほど。まずは、基本ポイントを押さえるべし。先が見えてきたな。じゃあ、日本酒に替えるか。なあ、ジン。選んでくれ」

「おいおい。初歩の初歩を話しただけだぞ。まあ、俺はいいが。大将。四季桜の花の宴を2つよろしく」

「はいよ。カツオ切るかい?」

「もちろん!」

桜前線も北海道に行ってしまったころだ。
しばらくは生産管理の復習をする必要がありそうだ。

(続く)

《1Point》
・生産の3要素(投入の3要素とも言う)
・Man(ヒト)
・Material(材料)
・Machine(機械設備)

・生産の3条件(産出の3条件とも言う)
・Quality(品質)
・Cost(原価)
・Delivery(納期)

つまり、生産管理とは投入から産出までをコントロールすることになります。

最近は、生産の3要素(これも3Mと言われます)に生産方法(Method)を加えた4要素(4M)や情報(Information)を付け加える「4M+I」などとも言われますが、基本は3Mと考えていいでしょう。