99.100号記念雑談会(^_^;)

*99でありながら、100号記念となっているのは、この小説形式を連載しているメルマガが、100号となったためです。あしからず。(メルマガ第2号から連載しています)

【これまでの主な登場人物】

「ジン(北野仁)」:主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
「黒沢」:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み、由美の母親が姉(叔父)
「清田由美」:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
「鳶野雄二」:ジンの幼なじみ ジンの応援で新しい出版関係のビジネスを立ち上げる
「大森」:みやびの常連 地元商店街の役員・金物建材の卸および小売り
「近藤」:みやびの常連 建設会社大義建設工業顧問
「宮下」:大義建設工業の経営企画チームの若きエース ジンを頼っている。体育会系で元気が良い。
「有森英二」:ジンの勤める有鉄物産社長
「後藤健二」:営業部長 地方支社でのたたき上げ営業、東京は2年目
「山野綾」:ジンの営業部の部下
「木村輝明」:ジンの同期 官需営業課員
「吉田課長」:木村の上司 官需営業課長
「伊東」:山野綾の携わるプロジェクトチームリーダー
「義本社長」:大義建設工業社長
「長井誠二」:元ドラックストア経営者、現エンジェル投資家、長井沙知の育ての親
「長井英雄」:青森で居酒屋経営、黒沢の師匠
「長井みゆき」:英雄の妻
「長井沙知」:アメリカのビジネススクール留学中、長井英雄の一人娘

「へい、いらっしゃい。ジンさん、毎度」

 いつもの縄のれんをくぐった。

「いらっしゃいませー」

 いつもの・・・「え?」

 聞き慣れない高い声にキョトンとした。

「あ、ジンさん。新しいアルバイトの子です。あみちゃん、常連さんの中でも一番大事なジンさんなんで覚えておいてよ」

 150cmくらいの小柄な子だ。この年代にしては化粧っ気があまりないが、子供っぽい笑顔には合っている。
 
「あみって言います。アジアの亜に、海って書いて亜海でーす。よろしくお願いします。えーっと、ジンさんでしたよね」

 ちょこんと頭を下げた。

「ジンです。よろしく」

「昨日から入ってもらっているんです。一応、週に2回来てもらうので、よろしくお願いします」

「ところで、由美ちゃんはどうしたんですか?」

「今日は学生時代の仲間と集まっているんで休みなんですがね。実は、先日話していた昼間の就職が決まりそうなんですよ。それで、あわててアルバイトを探したんです」

 確かに、由美ちゃんが食品関係の総合卸会社に就職活動をしているとは聞いていた。ただ、中堅の企業で、新卒も絞っているこの時期には難しいんじゃないかと思っていた。
 
「そうだったんですか。とりあえずおめでたい話ですね。でも、大将は大丈夫ですか?」

「みんなにそう言われますよ。でも、ジンさん。この店は、由美が来る前には1人でやってた時期もあるんですよ。さすがに、お客さんに迷惑をかけてしまうんで、アルバイトは雇いますがね」

 小柄な亜海が、おそるおそる生ビールを運んできた。

「ありがとう」

 ぴょこんと頭を下げた。

「お、亜海ちゃん、今日も可愛いね」

 常連の大森さんと近藤さんが連れ立って入ってきた。

「いらっしゃいませ。えーっと、大森さんと近藤さんでしたね」

「さすが覚えてくれたか。合格!」

「えへっ。よかった。でも、マスターに忘れるなって釘を刺されてましたから」

「あはは。素直だねえ。気に入った。がんばってよ」

 ご機嫌でカウンターに腰を下ろした2人に頭を下げる。

「新生みやびに乾杯しようか」

 大森さんが冷酒を片手に音頭をとった。近藤さんと一緒に合わせる。
 
「かんぱーい!」

「それにしても、由美もよくあの会社に入れることになったな。黒さん、どんな手を使ったんだい」

「手なんか使いませんよ。元は、うちとも取引のある酒屋さんからの紹介ですよ。たまたま卸会社の上の方をうちに連れてきたことがあったんですが、その時、由美っペの対応が気に入ったらしいですよ。人生、何がきっかけになるかわかりませんよ」

「へえー。そんなこともあるんだねえ。ま、黒さんにとっては娘同様だから心配なんだろうけど、我々は、この店が心配だよ」

 心なしか、大将も寂しそうだ。

「この店は、皆さんが来ていただいていますから心配はありませんよ。これまで、由美っペの看板に頼っていたとしたら、私の経営者としての怠慢です。ね、ジンさん」

「怠慢なんて。みやびについて、もう、私がアドバイスすることはないかもしれないと思っているんです。大将は従業員のことも、店の将来のことも、それ以上に、我々顧客について考えていますから。強みも把握してますし、顧客のニーズの変化や商店街や店前を通行している人の観察も怠っていません。特許や商標権のような直接的な知的財産というものは無いかもしれませんが、大将自身や店と取引先とのネットワーク、そして、顧客のネットワークが立派な資産となっているということでしょうね・・・」

「知的資産ね!」

「由美ちゃん、びっくりするなあ。今日は同窓会じゃなかったの」

「お酒は飲まない人が多いからスイーツのお店だったの。そんなに遅くまで食べてられないわよ。でも、今日はお客さんよ」

 由美ちゃんは大将に挨拶すると隣の席に陣取った。

「ジンさん。知的資産経営って話を前にしてくれたわよね。確か、知的財産よりも大きな、その企業や組織の強みを前面に出した経営というような話だったわ」

「相変わらず、由美ちゃんはよく覚えているね。それはそうと、就職が決まったんだってね。おめでとう」

 常連達から拍手が沸いた。照れくさそうに由美ちゃんがみんなにお辞儀を返した。

「行きたいなあって思っていた会社だったんで夢みたい。これも、おじさんのおかげなの」

「由美っペ。何を言ってるんだ。きっかけは取引先だけど、気に入られたのは、由美っペ自身だ。もっと自分に自信をもたなきゃいかんよ。入るのが夢じゃないだろ。入ってからが勝負なんだから、皆さんに応援してもらってがんばればいいさ」

「おじさん・・・ありがとう」

 人間的な魅力が最大の資産だと感じた。企業や組織も、個人事業であっても、すべては人によって価値が生み出される。その価値によって評価され、貢献への対価を得て社会に存在を許されるんだ。

 意識していない強みももう少し客観的に表に出してみたら、自らの振り返りになるように思う。
 
 小さな企業や個人事業であっても「知的資産経営報告書」を作るというのも意味があるのかもしれない。

(続く)

《1Point》:裏話

 このシリーズは、居酒屋という空間で経営知識を学びあえるような場所があればいいな、という軽いのりで書いてきました。
 
 この居酒屋みやびという場所は、私の最初のホームページで書き出したもので、もう随分放ってありますが、実は、どこかに置いてあります。そのうちリンクを張りなおすかもしれません。
 
 その独り言のような居酒屋の情景は、元々、私が大学時代、2年生から4年生までバイトをしていた居酒屋でした。
 
 ホームページを公開した頃(たぶん、平成8年頃?)、その居酒屋の大将が行方不明となってしまったことから、誰か知りませんかという呼びかけをしました。
 
 その呼びかけが、フィクション化して、小説に展開した内容が、今回の居酒屋の登場人物に繋がっています。
 
 この小説は、「失踪人を探せ」というテーマで公開しながら数年に亘って書き続けました。
 
 今、古い方のHPに途中まで載せています。
 ただ、この小説を講談社の長編小説大賞に応募したことがあるのです。その応募条件に公開していないものとあるため、一度リンクを切りました。(今は、最初の書きかけのみ残してあります)
 
 当然、ボツでしたので、再度、書き直したもので公開しようと思っています。まあ、内容に期待できるかどうかは?ですが、今回の登場人物の多くが出てきますので、そういう目で見るとおもしろいかもしれません。

(注)この小説は、その後、電子化して公開しました。。今は、アマゾンで公開中です。何かの都合上、無料ではなく100円となってますが、興味がある殊勝な方がいらっしゃいましたら「苦き泡」というタイトルで出してますのでどうぞ。