97.リーダーシップ論

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している

 今年の桜は長い間咲いていた。
 暖かい日が続かず、開花宣言の後に寒い日が多かったせいだろう。
 
 とはいえ、さすがに入学式も終わった今となっては、あっと言う間に葉桜になってしまった。

「葉桜を見ると桜餅が食べたくなるわよねえ」

「長命寺の桜餅屋は、桜が咲いているときに長蛇の列だが、葉っぱはその後なんだからおかしいと思わないか?」

 先日の花見の思い出話から、結局は食べ物の話となっている雄二と由美ちゃんの話に耳を傾けながら、四季桜 春のほのかな甘みを楽しんでいた。

「お、ジン。いつの間に日本酒にしてたんだ。大将、俺にもジンと同じやつよろしく」

「はいはい。四季桜の春です」

「いいねえ。桜の話を聞きながら、四季桜なんていう洒落た酒を飲むなんて、ジンのいやらしさが良く出てる」

「おい、なんでいやらしいんだ。季節を楽しんでいるだけだ」

「自分だけで楽しもうという魂胆がいやらしいんだ」

「また、2人とも意味のない言い合いして。2人とも仕事上はリーダーシップを発揮してるなんて思えないわね」

「意味の無いって・・・まあ、そうだな。でもリーダーシップは俺の方が上だから、俺がリーダーにならなきゃいかんだろうな」

「おいおい。2人の間に役割の違いなんて無いから、どっちがリーダーを取ったってあまり変わりはないぞ」

「役割の違い?それは、どっちがリーダーか?ってことだろ。リーダーシップってのは、人間的に出来てるやつにあるんだろう。とすれば、俺のリーダーシップの勝ちだ」

「ええ?鳶野さんが人間的に出来てるかどうかは知らないけど、リーダーシップに勝ち負けなんてあるの?」

「俺とジンが同じようにリーダーシップを持っているとしたら、どっちをリーダーにするか、何で決めるんだ。優秀かどうかに決まっているだろ」

「まったく。雄二は本気で言ってるのか、暇つぶしで挑発しているのかわからんから疲れるよ。リーダーシップにも理論があって、結構リーダーシップ研修がはやっているようだ」

「リーダーシップ論ってあるのね。じゃあ、その理論で解決してもらいたいわね。鳶野さんの屁理屈」

「由美、こら。屁理屈とはなんだ。れっきとした・・・」

「雄二、やかましい。リーダーシップ論には個人の資質にあるという理論もあるけど、今じゃ『役割論』として見るのが定説になっているようだ」

 ちゃかしていた雄二も真面目な顔に変わった。

「役割論?じゃあ、役割さえ与えれば、リーダーシップを発揮するということか?そりゃ乱暴だな」

「まあ、そう短絡するなよ。確かに、誰が見てもリーダー的な人間というのもいる。しかし、どんな状況でも、その人がリーダーとして適切かどうかは証明できない。よく言われる、徳川家康・豊臣秀吉・織田信長の3人のリーダーとしての資質についても、一概にどれがいいと言う話ではないだろう?」

「ホトトギスが鳴くのを、待つか、鳴かすか、殺してしまうかってやつか。確かに、いろいろなタイプがいるな」

「そんな研究から『タイプ論』というのもある。しかし、そのタイプも状況が変わるとリーダーシップの成果を上げ続けることが出来ない。織田信長のような短気なリーダーでも、即断即決を求められる場面では信頼されることになる。しかし、太平の世になるとその資質によって信頼を失うことになるわけだ」

「時代に合わないから社長を替えようというのがタイプ論だな。現実はそんなことをしていたら企業はバラバラになってしまうな」

「そうなんだ。それで、リーダーシップは状況によって変わってくるという『状況論』というのも言われたんだが、これもじゃあ、その状況の変化に対して、発揮すべきリーダーシップをどう認識してどう対応するのかよくわからない」

「確かにそうだな。状況が変化していることを認識するだけでも大変なのに、それまでのやり方をそれに合わせて変えろというのも実際にやるとすると具体化が出来ない」

「そこで、『役割論』の出番になったんだ。簡単に言うと、凡人でもリーダーになる方法とでもいうのかな。つまり、リーダーシップというのは、自分の役割に対し、強烈な責任感に基づいて行動するということになるんだ」

「なるほど。シンプル・イズ・ベスト。自分の役割に対する責任感と行動力がリーダーシップの共通の原理というわけだな。確かに、そうであれば、個人の資質も自らの自己啓発に繋がるし、状況を分析して、よりいいと思えるリーダーシップを発揮する意識に繋がるわけだ」

「そういうわけだ。リーダーシップには、目的達成への責任感がなければいけない。そのためには、問題を把握し、背景としての状況を認識し、課題解決への自分の役割を明確することで役割意識を持つんだ。その役割を行動に移すことが、リーダーシップと考えればいいと思う」

 四季桜「春」のお代わりをしながら、そう言う自分の役割意識とリーダーシップはどうなんだろうと振り返ってみたくなった。

(続く)

《1Point》
・リーダーシップ論
 リーダーシップ論には様々なものがあります。大きくは、以下の研究が有名です。
 
 ○資質特性論(人間特質論):個人の身体的・心理的な資質によって決まるとする研究
 
 ○タイプ論(機能方法論):リーダーシップを仕事中心の課題達成機能と人間中心の集団維持機能に分け、それぞれの組み合わせでタイプ分けをした研究
 
 ○状況論(関係場面論):リーダーとメンバーの関係や状況の変化によって、リーダーシップが変わるとする研究
 
 ○役割論:強烈な責任感(意志、信念)と行動力に裏付けられた役割意識にあるとする研究