95.X理論・Y理論

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している

 このマンションに来るのは何回目かしら。でも、いつも鳶野さんがいるから、集まっているという感じなのよね。
 
 由美は、約束通り、週末にジンのマンションへやってきた。モチベーションの理論を勉強することになっているのだ。本当の目的は、その後の花見かもしれないが。

「由美ちゃん、さあ上がって。雄二は、少し遅れるから始めてしまってもいいって連絡があったんだ。」

「鳶野さんも聞きたいんじゃないかしら」

「うーん。たぶん、花見だけに来るつもりじゃないか。実務と離れると興味が薄くなるようだから」

「かもね。それじゃ、先生。お願いします」

「まずは、コーヒーをどうぞ」

 ちょうどドリップしたばかりのコーヒーを純白のカップに注いでくれた。
 
「いい香り。え?何」

「いや、いつも店の甚平タイプの服を見慣れているから、新鮮だなって思ってね」

「ええーっ。もっとオシャレしてくれば良かったかな。お花見だって言うからこんな格好にしてしまったの」

 やっぱり、スカートにしてくれば良かったとちょっと後悔した。
 
「いやいや、スポーティーな感じがすっごく似合うよ」

「え、ほんと。ありがとう」

 ジンさんが立ち上がった。ちょっとドキッとした。

「それじゃ、花見の前のノルマをやってしまおうか。この間は、マズローの欲求段階説だったけど、そこから派生した理論ということだったよね」

「え、ええ。そうだったわ。5段階よね。生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・自我の欲求・自己実現の欲求で良かったわよね」

「うん、そうだ。このマズローの仮説に沿って、人間観を理論化したのが、心理学者であり、経営学者でもあったダグラス・マグレガーだ」

「ダグラス・マグレガー」

 声に出してノートに書き込んだ。

「そう。彼は、X理論とY理論という二つの理論を、モチベーションをマネジメントするための人間観として提示したんだ」

「XとYなんて数学みたいね」

「ははは。どっちがXだったか、Yだったかわからなくなるという問題もあるけどね。まず、X理論というのは、人間を本来怠け者であるとする考え方なんだ。この理論からすると、人は放っておくとサボってしまい、仕事をしなくなると見るんだ」

「そんなのが理論なんて変な感じね」

「まあそうだね。この人間観に対応する段階は、生理的欲求や安全の欲求があまり満たされていない状態にあるというんだ。だから、そんな段階の労働者に対しては、アメとムチで管理するスタイルを取ることになる」

「そうか。そこがマズローなのね。ある意味、未熟な段階ということかしらね」

「次に、Y理論。こちらは、人間を本来自ら率先して働き、問題解決に向かって行動すると見るわけだ。そうすると、社会的欲求や自我の欲求、自己実現の欲求を自ら満たすために行動するから、目標を明確にして、自主性を尊重した管理スタイルがふさわしいと言うんだ」

「そうすると、管理する場合は、X理論で見るか、Y理論でみるかで手法を変えるという考え方なのね」

「マグレガーは、人を、このX理論とY理論の両極端の間のどこかの段階にあると考えたらしいね。労働者にとって貧困が普通だった時代は、低い欲求段階にいるから、ある意味性悪説のような対応をせざるを得なかったと分析したのかもしれない。それに対し、次第に裕福になってくると、Y理論に基づいて管理すべきだという主張だと考えられるよね」

「確かに、今の人たちに命令や懲罰で仕事をさせようとしたらみんな辞めてしまうわよね。低い次元から高い次元になるにつれて、管理自体を高い次元にしなければいけないということかしら」

「そう言うことだと思うね。そのための具体的な方法として、『目標による管理』を主張しているんだ。つまり、上司は、企業の目標を明確にして、部下が自ら企業の目標に沿った形で自分の目標を立てられるように助言・指導をすることを勧めている。随分とモチベーション理論的になったろう?」

「そうね。人をXかYかじゃなくて、Xレベルの人にもYへ進めるように環境とか条件を整えてあげれば、後は自分でどんどん目標に向かって進むということね」

(続く)

《1Point》
・X理論・Y理論
 ダグラス・マグレガーの提唱した人間観に基づく理論。

X理論:本来怠け者(低次の欲求段階)→アメとムチによる管理
Y理論:本来働き者(高次の欲求段階)→目標による管理

 すでにその当時から、高次の欲求段階にある労働者に対し、昔からの上意下達の命令による管理では成果が上がらないことを指摘したと言えるでしょう。
 
 同時に、貧困状況が改善していない発展途上国などでは、根源的な欲求を満たす環境にしていかなければ、Y理論に基づく高いレベルの経営が出来ないということも指摘しているようです。