78.LLPとは

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問

(前回まで:みやびのちゃんこをつつきながら、知的資産について考えてみました)

 師走の風か。
 会社のカレンダーが営業部のあちこちに重ねられ、クリスマスカードや年賀状の宛名確認の作業が始まった。

 忘年会や挨拶回りの話が駆け回るとやはり気が急いてしまう。

 「いらっしゃい。あ、ジンさん、大森さんがお待ちかねですよ」

 由美ちゃんが声を上げた。 カウンターでは、大森さんがいつもの席で盃を持ったまま、手を挙げた。

「おお、ジンさん、よかった。今、電話でもしてみようかって話してたとこなんだ」

「なぜか、みやびに寄りたい気がしてきたのはそのせいですかね」

「思いは通じるってもんだ。まあまあ、まずは一杯」

 さっとヱビスの生が置かれた。大森さんの盃と軽く合わせる。

「ところで、何か、いい話でもありましたか?」

「ははは。また、相談に乗って欲しくてね」

「了解いたしました。私で判ることなら何なりと」

 お通しで出されたブリ大根の味に唸りながら安請け合いしてしまった。

「実は知り合いの社長から新技術の製品化を一緒にやらないかと相談されてるんだけどやり方が良くわからんのだよ」

「そりゃ、難しいですよ。大森さんの仕事については私は素人ですからね」

「いや、仕事の中身じゃなくてね、組合を作るって言うんだ。それも、えっと、何だっけな。あ、これこれ。有限責任事業組合って言う奴なんだけど、聞いたことがないんだよね」

「LLPって略される17年の新会社法でできた制度ですね」

「それそれ。何でも、その社長は大学の先生と共同開発しようとしているらしくてね、主に流通をうちにやって欲しいって言うんだよ。でも、話を聞いても、出資と配分が違うとか、なんか怪しいんじゃないかって思ってね。どうなんだろうか」

「新会社法で作られた仕組みですから怪しいことはないですが、3つのポイントがあります。

まず、有限責任となっているように、組合での損失が発生しても出資額の範囲でしか責任を負わないというのはわかりますよね。

次に内部自治原則というのがポイントです。原則として組合の運営方針や決め事、特に利益の配分について出資者の総意で決めることができるという点です。

株式会社などでは、出資額に応じて配分が決められていますので、知的財産やノウハウを持った個人であっても、利益配分は出資額に応じますよね。

LLPは、たとえば、技術を持つ大学教授が、出資は5%しかしていなくても、50%の利益配分を受けられるようにすることが可能です。だから、理論上大企業と個人がLLPを作って、出資のほとんどを企業側が行い、利益配分は個人が取るというようなことも可能となります」

「なーるほど。それで、大学の先生を入れてやろうって言うんだな。でも、あれだね。もしうまくいっても、組合で税金を取られて、また、配当で取られるから利益なんてあんまりアテにできないんじゃない」

「実はそこが肝です。LLPは課税されないんです。税については、出資者に直接課税しますので、二重課税はないんです。損失分についても、自社の損失とすることができます。そのかわり、法人格を持たないので、契約などでは若干面倒かもしれません」

「そりゃいい話かもしれないね。利益配分さえ明確にしておけば、運営もそれほど面倒はないかもしれない。ちょっと検討してみる気になったよ」

「元々、産学連携などをやりやすくするために作られたようなんですが、先ほど言ったように法人格がないのと知名度がイマイチなので信用度が低いのがデメリットですね。また、事業がうまくいって業務拡大をしていっても、たとえば株式会社などへの組織変更ができないというのも足を引っ張っているところかもしれません。その辺も一応頭に入れておいた方がいいですね」

「了解。そうと決まれば、みやびにも先行して利益を配分しないとね。黒さん。マグロのいいとこジンさんに切ってやってよ」

「大森さん、遠慮無く頂きます」

(続く)

《1Point》
・有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)
 LLPと略される。

(特徴)
(1)構成員全員が有限責任:出資額以上の責任を負う必要がない。
(2)内部自治の徹底:損益や権限の分配を自由に決めることができるなど。
(3)構成員課税の適用を受ける:パススルー課税と言い、組合そのものには一切課税されない。