75.SWOTの使い方

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問

(前回まで:PPMの使い方についての問題点を具体的に考えてみました)

 雄二のわがままで開発された(?)じゃがバタイクラ載せを平らげると今夜もやはりちゃんこ鍋だろう。
 
「大将!鍋よろしく」

「ハイよ」

 ガス台をセットにきた由美ちゃんが何か言いたそうだ。
 
「PPMを作るのはなかなか大変だけど、SWOTも難しいわよね。試しにこの店のSWOT分析したときも苦労したわ」

「由美もますます略語屋に染まってきたな。今時の女子高生なんかが使っている言葉よりはましだが」

 雄二が茶々を入れる。

「鳶野さん。私が使っているのは、鳶野さんと一緒に教えてもらっている用語ですから、ね。勝手に略語作っているわけじゃありません」

「わかった、わかった。俺がローマ字に弱いだけだよ。そう言えば、PPMを作る前に会社のSWOTを見直したんだけど、やっぱり、これも注意点があるのか?」

「実は、SWOTの方が難しいかもしれない。簡単に割り切ってしまうと意味が無くなるということを忘れちゃいけないんだ」

 由美ちゃんが大きく頷いた。

「そうなのよね。強みと弱みを考えても、実はどちらなのか解らなくなったりするのよ。前に,、店の入り口が古くて若い女の子が入りづらいのが弱みだと考えたの。でも、最近出た女性向け情報誌で、味のある店として紹介された中にうちののれんや提灯と引き戸を誉められていたのよね」

「あ、そう言えばジンに言われて見た奴だな。レトロな雰囲気が、女心を誘うって奴だろう。おかげで女性客が並んでまで入るようになったわけだ」

「鳶野さん、いきなり常連席を予約して来たのはそれが目的?」

「まさか。この店には、由美だけで十分さ」

「まったく。話を戻すわね。弱みを改善するために入り口全体のデザインまでしたんだけど、結果的にやめたことが良かったわけなの」

「由美ちゃん。どんな分析も過去の評価しかできないし、たとえ未来の姿を細かく想定しても、すべてがそうはならないと言うことは確かだよね。SWOT分析の一番重要なことは、外部環境と内部環境について、たくさんの見方を検討すると言うところにあるんだ。人は1つの事象であっても1つの面からしか見ていないことが多いんだ。自分の思い込みや経験、問題点のとらえ方、自分の置かれた立場で違うから、全員が違う現実を見ていると考えるべきなんだよ」

「全員が違う現実を見ている?」

「たとえ、前提を確認しあっていても、その前提についてさえ、一人ひとり違ったとらえ方をしているはずなんだ。それは、悪いことではなく、だからこそ、全員の意見を吟味する必要がある」

「ジン。解る気がするな。コンサルに頼むと綺麗なマトリクスにまとめてくるから正しい姿に見えるんだよ。でも、良く考えると、少しずつ違和感があるんだ」

「SWOT分析のように機会と脅威、強みと弱みとある意味割り切って作っていくものは、その作る過程が重要なんだ。みやびの入り口の古さを弱みと見るのか強みと見るのかは、視点によってまったく変わってしまう。でも、それは現実なんだ。判断するのは結局自分たちじゃない。顧客という未来の目がどう見るかだから、雄二の感じている違和感を捨ててしまってはいけないんだ」

「あ、そうすると鳶野社長がSWOT分析をコンサルタントに作らせてしまってはいけないということじゃないの?」

「もちろんそうだね。本来なら、経営者自身が分析をしている中で、変化や違和感に気づくことの方が重要なんだ。意見の対立があって初めて多くの可能性に気づくことになるから、誰かが割り切った結果を見て経営判断をするなんて、そんな博打を打ってはいけないと思うよ」

「参ったな。やり直しだな。コンサルを雇ったのに結局自分たちでやると言うことか」

「雄二。当たり前だ。コンサルは第三者だ。判断するのも、結果責任も経営者である雄二にある。だから、コンサルをファシリテーターとして、自分たちで議論するしか方法は無いはずだ」

「了解。コンサルの成果品をたたき台に、全員で見直してみることにするよ」

 カウンターにセットされたちゃんこ鍋がグツグツ言いだした。

「いけない。ゴマをすっておくのを忘れた」

 銘銘の小さなすり鉢で煎ったごまをすり出すと、いい香りが食欲をそそるようだ。

(続く)

《1Point》
・SWOT分析
 定番中の定番ですね。

 ・「S」は自社の強み(Strength)
 ・「W」は自社の弱み(Weakness)
 ・「O」は外部環境の機会(Opportunity)
 ・「T」は外部環境の脅威(Threat)
 
 これらを4象限のマトリクスにすることで、機会に強みを集中する視点で考えることが重要だと言われます。
 
以前のメルマガでも考え方の基本を取りあげていますので、参考にどうぞ。

 分析というものは、使い方を誤ると思考停止を招くことすらありますので、やり方と共に何のために分析をするのか、分析の限界は何なのかをあらかじめ明確にしておくことが必要ですね。