70.BCPとは

(前回まで:暗黙知と形式知の相互作用によって知識を創造していくというSECIモデルの説明をしました)

 秋らしくなってきた。
 
 定時に会社を出ても、みやびの灯りに懐かしさを覚えるほど日が暮れるのが早くなってきている。
 
 突然、背中を叩かれた。

「よっ。ジンさん、ボーッとしてどうしたんだい。早く入って黒さんを安心させなくちゃ」

 常連の大森さんだった。黒さんというのは大将のことだ。

「あっという間に日暮れが早くなったなあって考えていたんですよ」

「ジンさんも歳に似合わずだよな。さあ、さあ」

 大森さんに急かされてのれんをくぐった。

「いらっしゃい。おや、2人で来るなんてめずらしいですね」

「ジンさんが店の前でボーッとしてたんだよ。夕暮れのみやびで感傷に浸っていたみたいだけど。俺なんざ、そんなことより明るい店の中で早く一杯飲みたいんで、引っ張ってきたんだよ」

「日が暮れるのが早くなったなあって思っていたんですよ」

「ジンさんは詩人なのよね。ホームページに昔の詩が載ってるのよ」

「由美ちゃん、あれ読んだの?この間、やっぱり恥ずかしいんで、削除したんだよ」

「そんなことないわよ。最近の詩はないのかなあって期待していたのに」

 照れ隠しを考えているところへ常連の近藤さんがやってきてくれたので話しは切れてくれた。

「いらっしゃい。今日はいつものメンバー勢揃いでいい口切りですね」

「かんぱーい」

 バラバラにやってきた常連がそれぞれの席から声を合わせる。
 思い出して、近藤さんに声をかけた。

「そう言えば、近藤さん。会社のBCPはうまく作れているようですか?」

「イヤー苦労してるようですよ。今は新型インフルエンザ用に作り直しているって言ってました」

「ええー、何々。ビーシーピーって言ってたの?それってなんかの単位」

 由美ちゃんが乗り出してきた。

「BCPっていうのは、事業継続計画、Business Continuity Planの略で、簡単に言うと災害なんかの予期せぬ出来事で事業停止状態になってしまった時の対応計画ということだね」

「うちの会社では、建設業ですから、特に地震などの被害が現場で出た場合の対応というのは結構しっかりしているんです。事故に近い対応計画だし、本社が統括して行動しますから安心感があるんです。ところが、じゃあ、本社が直下型の被害にあったらという想定の方が大変のようです」

「製造業だと工場の設備の被害が重大ですから、いかに早期に設備を修理して操業再開をするかという計画がメインですね。そうですか、建設業は本社機能の方が重要になるわけですね」

「そうなんです。本社機能が停止するとカネの問題や現場間の外注業者の管理が混乱して現場が動かなくなる可能性が高いことが解ったんです」

「そうなると、中核事業を特定すると言うよりは横断的な重要業務をいかに復旧・機能させるかがキーになりますね」

「中核事業、重要業務???新型インフルエンザの話の時も出てたたような気がするわね」

「そうだね。新型インフルエンザもBCPの考え方だからね。最終目的は、通常業務に早期に復旧することだけど、現実には様々な要因があるから大混乱してしまうことが予想される。下手をすると倒産や事業縮小になったりするので、損害を最小にしながらどうやって事業を継続するかをあらかじめ決めておかなければいけないよね」

 由美ちゃんも近藤さんも聞く体勢になっている。

「そのために、まず、
(1)会社として優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する。
(2)中核事業の目標復旧時間を定める。
(3)どこまでの事業内容のレベルが可能か、場合によっては、顧客や取引先と協議しておく。
(4)事業の拠点、生産などの設備、仕入・調達の代替策を準備する。
(5)すべての従業員に事業継続の計画・手段を周知し、コミュニケーションを図る。

などのステップが必要なんだ。
中核事業を決め、優先順位を決めるのは、緊急時にはヒト・モノ・カネすべての経営資源が限られてしまうからだ。どうしても止める訳にいかない事業を優先復旧する方法や手段が明確になっていれば、従業員が混乱せずに対応できるからね。

近藤さんの会社にとっては、本社に集中している重要業務を分散したり、被害を受けていない支社で即座に代行できるシステムや決まりを決めていくことが重要になります」

「実際は、取引のある大手ゼネコンからBCPの提示を求められているという現実もあるようです」

「BCPをしっかりもっているかどうかが、その企業の価値判断の基準ともなってきているようですね。1社だけの問題ではなく、取引先にとっても重大な影響を与える訳ですから、信頼を得るためにも必要な計画だと言えるでしょう」

 BCPは来るか来ないか解らない状況で検討するため、片手間になってしまうのが通例だ。経営トップがいかに本気を見せて取り組むかが、いざという時、機能するかどうかを決めると思っている。

(続く)

《1Point》
・BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画

 一番重要なのは、自社の事業を理解することだと言われます。
 
 何を今更と言われるかと思いますが、現実には、自社の中核事業や事業の優先順位を検討すると言うことは、自社の歴史・コアコンピタンス・社会的責任・取引先への影響など様々な視点から検討しなければいけません。
 
 そのために、実際の大きなステップとしては、
(1)事業を理解する
  ・事業への影響度を評価する
  ・中核事業が受ける被害を評価する
  ・財務状況を分析する
  
(2)BCPの準備、事前対策を検討する
  ・事業継続のための代替策を検討しておく
  ・事前対策を検討・実施する
  
(3)BCPを策定する
(4)BCP文化を定着させる
(5)PCPのテスト、維持・更新を行う

というサイクルを常に継続していくことが重要となります。

 新型インフルエンザによって、にわかにBCPを策定している会社もあることと思います。
 
 新型インフルエンザ対策と地震などへのBCP策定の考え方については、富士通のホームページに載せています。興味のある方は以下のアドレスへどうぞ。(全10回シリーズとなっています)
→すでに公開は終了しています。当時、BCPの対策マニュアル策定やセミナー講師をしてましたので、診断士つながりで富士通のHPに載せてもらいました。もう、私が公開しても問題ないと思いますので、要望あれば持ってきます。(2019/1/14)