69.SECIモデル

(前回まで:一般的な競争戦略のおさらいと「見える化」について確認しました。)

 暑さ寒さが入れ替わりながらも確かに秋の風になりつつある。
 ふと、銀杏の実の臭いを感じた。街路樹がイチョウだったのだ。歩道にいくつかの落ちた銀杏の実が転がっていた。

「秋か・・・」

 久しぶりに東銀座の旧友のやっているIT関係の会社に寄った帰りだったが、銀杏につられてみやびへ向かったのだ。

 店に着いたのが早かったこともあり、由美ちゃんと雑談をしながら銀杏焼きをつついていた。
 
「ジンさんのお友達の会社が、その・・・ナレッジマネジメントのソフトを開発しているのね。聞いたことはあるけど、具体的にはどんなものなの?」

「基本的な考え方としては、ナレッジという謂わば知識とか知恵を共有して活用しましょうということになるんだ。10年くらい前には華やかに宣伝されていたね」

「知識の共有っていうのは、たとえば、データベースをつくって、共有サーバーで使えるようにするようなイメージかな」

「現実はそうだね。それを、グループウェアというスケジューラーやメールをまとめて管理するソフトと連携させて、入力や検索が簡単にできるものが流行っていた。まさに、それを開発していた会社だったんだ」

「それがうまくいっていないのはなぜ?」

 旧友の会社の実状を聞いたのは今回が初めてだった。ナレッジデータベースの開発・販売が中心だったが、最近は多機能のグループウェアに替えられてしまい業績が急降下しているという。
 
「まず、一番の問題はナレッジマネジメントを知識の共有と管理として考えてしまっていたことなんだ。元々、この言葉は日本発のものなんだ。一橋大学名誉教授の野中郁次郎さんが生みの親と言われている」

「へえー。日本の経営理論ってめずらしいわね」

「そうだね。彼の説の中心的な考えは、暗黙知・形式知にあると言われているんだ。一般的に、暗黙知は個人の中にあってノウハウなどマニュアル化しにくい知識であり、形式知はまさに言語化されマニュアル化できる知識と言われる。この暗黙知をできるだけ形式知として共有しようという点に注目してしまったのが、現在の状況かもしれないと思っている」

「暗黙知と形式知っていうのは聞いたことがあるわ。職人さんなんかの技能をマニュアル化して伝えていくというドキュメンタリー番組で見たわ」

「たぶん、そういうところに注目すると、暗黙知の中で、記録できるようなものを記録し、再現できるようにマニュアル化して、形式知になったから共有しようという流れになってしまっている。現実の知識の共有と管理の目標とされてしまっているようだね」

「それじゃダメなのね」

「野中教授は暗黙知と形式知を単純に分けているんじゃなくて、相互作用を起こさせるマネジメントによって、『知識創造』をしていかなければいけないと言っているんだ」

「知識創造ね。そのためのマネジメントがあるというわけなのね」

「SECIモデルというものを提唱しているんだけど、これが、相互作用を起こさせるモデルというわけだ。

S(Socialization):共同化
E(Externalization):表出化
C(Combination):連結化
I(Internalization):内面化

というサイクルを繰り返し、新たな知識の創造を行っていくことを提唱しているんだ」

「共同化・表出化・連結化・内面化。簡単に言うとどうなるの」

「そうだね。『共同化』は暗黙知を持っている人と一緒に実践しながら共同体験して、みんなの暗黙知にしていくということだね。一人だけでなく、組織内の複数のメンバーが獲得することを通じて、形式知に変換するのが『表出化』。表出化できた知識を組み合わせて新たな知識を創っていくのが『連結化』で、それらの形式知をそれぞれのメンバーが実践し、体得することでより高次の暗黙知を獲得できる、というサイクルになるんだけど、解った?」

「たぶん。一人で持っていたのではなかなかうまくいかないから、組織として一緒に活動することで、新たな共有できる知識を創造しようということでいいのかなあ」

「元々、1990年代に日本企業の強みを合宿研修や日常的な飲み会で暗黙知と形式知の混合を行っていることと見ていたようなんだ。それまで西欧では、知識は個人のものだという考えが強かったからね」

「居酒屋で上司と部下が絡み合っているのが良いってことなのね」

「まさしく居酒屋経営論かもしれないね」

「野中教授ってお酒好きなのかもしれないわね」

(続く)

《1Point》
・SECIモデル
S(Socialization):共同化 暗黙知→暗黙知
E(Externalization):表出化 暗黙知→形式知
C(Combination):連結化 形式知→形式知
I(Internalization):内面化 形式知→暗黙知

 暗黙知と形式知が個人と組織(集団)の中で絶え間なく変換し、これらがスパイラルして新たな知識が創造されると考えられています。
 
 ちなみに、野中教授はドラッカー学会で拝見したことはありますが、お話をしたことはありませんでした。次回の機会には、酒好きかどうかも含めてチャレンジしてみたいと思います。