68.見える化

(前回まで:企業の内部資源に着目して、強みを分析するVRIO分析を見てみました。)

 VRIO分析は、競合との関係にばかり目を向けていたそれまでの競争戦略に一石を投じた理論とも言えるかもしれません。

「1.価値があるか(V)、2.希少性はあるか(R)、3.模倣が困難か(I)、4.組織は対応しているか(O)、と順番に見ていくということね」

「そう言うことだね。競争というと競合との関係ばかりに目を向けていた視点を、まず、自社の内部に向けた理論として意味があるだろうね」

 由美ちゃんの適確な反復で、商店街役員の大森さんも納得したようだ。

「その方が判りやすいや。この間の話しで出てきた相対的なシェアと、えっとなんだっけなあ。成長率だったかな。それで、なんか絵を描いて、良いとか悪いとかいわれてもサッパリ判らなかったなあ」

 すかさず由美ちゃんの出番だ。

「負け犬とか金のなる木でしょ?」

「そうそう。家の商売が負け犬って言われたようで頭に来たよ」

「えっと。プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)ね。ボストンのコンサルで作ったのよね」

「ボストン・コンサルティング・グループがゼネラルエレクトリック(GE)などの巨大企業のために作ったものだからね。考え方はいいんだろうけど、中堅中小企業に使ってもパッとしないのは確かだね」

「他にもいくつかあったわよね。フィリップ・コトラーが市場地位別競争戦略で、リーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャーの4つの戦略だったし、マイケル・ポーターが、コストリーダーシップと差別化と集中戦略だったわ」

 大森さんと目を見合わせてしまった。

「由美。ジンさんと随分深い仲になったんじゃないだろうなあ」

 いきなり、変な話しにしてしまうのが大森さんの得意とするところだ。

「大森さん。そっちじゃないでしょう。由美ちゃんが経営を勉強している成果ですよ。自分に教えることがなくなりつつありますから」

「ふーん。でも、由美。いきなり、マイケルジャクソンがどうのこうの言ったって判らないからな」

「ぷっ。いっけない、笑っちゃったわ。大森さん、やめてよ。判って言ってるんでしょ」

 ニヤニヤしながら大森さんが思い出したように言い出す。

「そうだそうだ。セミナーじゃなくて、取引先からの業界誌に載ったんで見てくれって言われたのが、確か、見える化とかいう話しだったんだ。その時は、ふざけた名前だと思っていたけど、あれも経営用語なのかい?」

「最近、よく見かけますね。いろいろな分野で言われるようですが、経営部門で例に挙げられるのは、トヨタのアンドンなんかでしょうかね」

「え?行灯。あの灯りをつけて持ち歩く懐中電灯の先祖かい?」

「由来はそうなんでしょうね。トヨタでは、ラインで作業をしていますから、1箇所で異常が発生するとライン全体に影響があります。ところが、ライン作業というのは、だいたい自分のテリトリーが固定されていますから、なかなか勝手な動きが取れないんでしょうね。そこで、異常があったら、アンドンといわれるランプなどをすぐ点けて、管理者やライン全体に知らせるようにしたそうなんです。それが、目でみて確認できる可視化とか、見える化の走りだという説があります」

「なーんだ。そんな話しか。うちなんて、そんなもの無くても、異常があればすぐ判るから関係ないね」

「うーん。見える化というのは、最近もっと広く考えられていて、そうでもないかもしれませんよ。たとえば、営業担当が、どんなノウハウを持って、どんな仕事をしているのか、判らないのが当たり前だったものを見える化することで生産性が上がるという話しもあります」

「そりゃそうかもしれないけど、営業行ってる人間にアンドン付ける訳にもいかんだろう?」

「営業プロセスを細かく分けて、携帯電話などで記録していく仕組みなんかがあります。たとえば、顧客データベースに携帯電話でアクセスして、誰が、いつ、どんな要件で行ったかを常に記録しておくそうです。そうすることで、今までは、担当者の感覚だった営業行動を分析したり、上司や同僚が異常を見つけることが出来るというようなものです。言葉で説明するのは難しいですが」

「営業担当者としては、あまりいい気分じゃないような気がするなあ。すべて監視されているようなもんだね」

「当初はそう考えられていました。ところが、実際に効果を出しているところなどは、個人のうっかりミスや休暇中でも営業状況を確認して対応できるなどのメリットが言われているようです。少なくとも、チームメンバーには見えるようにしておくことで、周りからのサポートがしやすくなるという意見も聞きます」

「そのうち、GPSで、どこにいるかも記録されて、管理されだしたら怖いなあ」

「難しいところですね。でも、昔、ポケベルが出た時や携帯電話の時も、会社に拘束されることを嫌って猛反対していた人たちが、今では、当然のごとく使っていますからね」

 見える化をいかに生産性向上につなげるか、は自分たちの仕事にとって重要なプロセスをきちんと把握できているかどうかによると言えるだろう。

(続く)

《1Point》

これまで学んだ競争戦略には以下のものがありました。(1年近く前になるかもしれません)

・「PPM」:ボストンコンサルティンググループ(BCG)
・「成長ベクトル」:H・イゴール・アンゾフ または成長マト
リクス等
・「ポーターの競争戦略」:マイケル・ポーター
・「市場地位別戦略」:フィリップ・コトラー

 それぞれ、このホームページにありますので、気になる方は目次から確認ください。