63.店舗戦略「分析の注意点」

(前回まで:ジンの自宅で、由美と雄二に店舗戦略についての勉強会を行っています。店舗にとって重要な立地環境について考えてみました)

 立地環境については重要ではあるけど、一度決めてしまえば、簡単に場所を変えるわけにはいかないわよね。
 
「立地創造は店舗単位で考えるのは難しいわ。うちなんかの場合も立地適応を考えるということになるのよね」

「由美ちゃん。確かに立地創造は大資本や大規模な都市開発をイメージしてしまうだろうね。そう考えると、個々の店舗では、立地の状況以上に顧客特性が重要かもしれないね。そこで、市場機会の探索の段階になるわけだ」

 鳶野さんが怪訝そうに顔を上げたわ。

「ジン。環境分析を随分端折ったような気がするが、ここであのSWOT分析をするんじゃないのか?」

「そうだな。外部環境と内部環境を分析する手法としてSWOT分析を行うというのは正しい。俺が端折ったのは、機会を顧客特性に絞ったせいだから、実際にはSWOTで挙げられた項目を充分吟味すべきだろうな」

「ええっと。ジンさん、鳶野さん、復習ね。SWOTというのは、S:自社の強み、W:自社の弱み、O:外部環境の機会、T:外部環境の脅威、で良かったのよね」

「由美ちゃん、100点。着実に覚えているね」

 うれしい。ジンさんに誉められるとやる気になるのよね。

「私の外部環境が素晴らしいの。だって、中小企業診断士のジンさんとMBAを目指している沙知、その上、ゼロから経営者になった鳶野さんまでいるんだもの」

「加えて、居酒屋経営を直接経験しているしね。でも、今言ったのは、由美ちゃんにとっては外部環境じゃなく、内部環境だよね」

「あ、そうか。ジンさんを外部なんて言っちゃダメよね」

「うーん。由美とジンの話がどうも意味深に思えてくるなあ。俺も内部でいいのか?」

 鳶野さんがニヤニヤしながら聞いてきたので、ちょっとドギマギしてしまった。くやしい・・・

「ちょうどいい例が出てきた。このようなフレームワークを利用する時っていうのは、どうしても割り切る必要がでてくるよね。俺が、みやびにとっては、客としての外部なのか、こうして直接相談に乗る内部なのか程度でも、別の見方が出来る。特に、問題なのは、外部環境を見るときに、ある事象を見て、機会と捉えるか、脅威と捉えるかだ。この辺は応用編だけど、フレームを使った経営手法の注意点なんだ」

「実は、一度それを聞きたかったんだ。ニッチ市場で成功した話なんか聞くと、ピンチの状況を捉えてチャンスに転じたと言うだろう?一体全体、今起こっていることが脅威なのか機会なのか、どうやって判断するんだ」

「経営判断の肝だな。変化を捉えることがピンチをチャンスに変えるタイミングかもしれない。だから、安易に脅威だと切り分けてしまうと、前向きに検討する機会を失ってしまうわけだ」

 うーん、難しくなってきたわ。

「ご免なさい、ちょっと難しいわ。SWOT分析は、機会と脅威を分けることで、戦略検討につなげるのよね。その分け方に基準はないの?」

「無いと言っていいだろうね。だから、何を機会にして、何を脅威にしたか、を経営者にも判るようにしなければいけないよね。ある程度、大きな企業になると、環境分析などは経営企画部門に任せてしまって、絞り込まれた最終の形しか経営者に届かないことになってしまう。そこに上がってきた機会は誰もがそう思うことで、つまり、他社でも気づくような機会しか無いなんてことになってしまうこともある。この脅威は、本当に避けるべきものなのかを再検討する余地を常に残さなければいけないと思うよ」

「すると、簡単にはいかんなあ。機会に絞り込んで、脅威はあとで考えようと思うんだが、逆に脅威を先に検討した方がいいんじゃないか?」

「大事なことは、一度検討して満足してしまわないことだ。経営というのは、いつも分析と評価をしていなければいけない。間違いを見つけると言うより、常に変化しているのだから、見方自体変わるのが当たり前だと考えなければいけない」

「SWOT分析で捉えた機会と脅威は、いつか入れ替わるかもしれないし、新しいものが付け加わったりするということね。決めつけないということかしら」

「そうだね。やはり、柔軟な頭というのがないと、突然死が襲ってくるかもしれない。そんな目で市場機会を検討してみよう」

 ジンさんは、環境分析の下に店舗戦略の決定と見出しをつけて、(1)市場機会探索、(2)ポジショニング、(3)コンセプトの構築、(4)方向性の決定、と書き込んだ。
 

(続く)

《1Point》
・SWOT分析
 定番で、過去のメルマガでも説明していますが、念のため復習
しましょう。

 ・「S」は自社の強み(Strength)、
 ・「W」は自社の弱み(Weakness)、
 ・「O」は外部環境の機会(Opportunity)、
 ・「T」は外部環境の脅威(Threat)、

 あまりに有名なため安易に利用していないでしょうか。
 
 実は、注意点を挙げたのは私の経験からです。
 
 数年前のことですが、事業の長期計画を策定するための手法としてSWOT分析をするように指示されました。
 
 ところが、やったこととは、自分たちのこれまでの経験にとって追い風になるようなものばかりを機会として挙げたことでした。

 結果的に、戦略は現状の継続しか出てこず、市場環境の見通しを改善させることで事業継続の計画を作り上げたのでした。
 
 ちなみに、この事業からは既に撤退してしまいました。挙げた機会が脅威にしか見えなくなり、説明がつかなくなったようなものでした。
 
 分析という名前のもと、データや資料だけを集めて整理し、その結果、それまでのやり方の手続きを変えたものを戦略と名づけて満足してしまいました。
 
 この後、経営を学びだして、やっとそのことに気づいたのです。だから、どうしてもこのような書き方をしてしまいます。
 
 実際の経営に取り入れる場合は、一度や二度で満足せず、何よりも割り切ることは危険なことだと認識しましょう。