60.閑話

(前回まで:知的財産権の概要を説明しましたが、いかがでしたでしょうか)

 暑い・・・ビールが待っているんだ。
 
 アスファルトから蜃気楼が立ち上るような道を上着を持って歩いていることが不思議でならない。
 
 クールビズが市民権を得てから、顧客へもノーネクタイで行けるようになったのでありがたかった。
 しかし、営業担当にとって、ある程度の顧客に対して、上着を着ずに行くことに躊躇してしまうのも事実だ。
 
 もちろん、夏用の軽い上着だが、腕にぶら下げた汗のあとが目立つので、どうしても明るい色は避けてしまう。暗い色が気分的にも暑さを増すのかもしれない。
 
 生ビールと枝豆を持った由美ちゃんの顔が蜃気楼に浮かび上がる。

「いらっしゃい。あら、ジンさん、随分早いですね。まだ、5時前よ」

「由美ちゃんのその涼しそうな顔に呼ばれちゃったんだよ」

「あら、ほめられてるのかしら?仕事はいいのね」

「ジンさん、枝豆茹でてる最中ですから、1~2分待ってくださいね」

 さすがに早い時間なので、大将は仕込の真っ最中だった。
 
「まずは、生ビールがあれば大丈夫です・・・」

「はい、どうぞ。冷たいおしぼりもどうぞ。上着はこっちに掛けておくわね」

「冷てー。生き返るー」

「シャツの背中が汗でびっしょりよ。風邪ひくから着替えた方がいいんじゃない。おじさん、この間会合用に買ったVネックのシャツが残ってたわよね。ジンさんにあげてもいいわよね」

「あ、由美ちゃん、いいよいいよ。慣れてるから大丈夫だよ」

「ジンさん、いけません。由美っペに買ってもらった若向きの予備なんです。私はもう着ませんからもらってやってください」

 由美ちゃんが新しい下着用のシャツを小上がりに出してくれた。遠慮なく、着替えさせてもらうことにした。

「やっぱり気持ちいいや。ありがとうございます」

 さすがに背中の気持ち悪さが消え、落ち着いた。ありがたい。
 
「ジンさんのうれしそうな顔を見たら、閃いちゃった」

「え?何」

「夏に汗をかいた営業マン向けに、替え下着付乾杯セットメニューなんてどうかしら」

「おもしろいね。でも、替え下着をいらない人も多いし、在庫を買っておかなければいけないから大変だよ」

「そうかあ。うまくいかないわね」

「新サービスでも考えているのかい?」

「この間のイノベーションの話を聞いてから、何でも店の仕事に結びつけるようにしているの。なかなかいいアイディアを見つけられないけどね」

「常に問題意識を持っているとそれだけで変わってくると思うよ。すごいことだよ」

「えへ。誉められついでに、うちみたいな店舗の戦略の基本を教えて欲しいんだけどな」

「おいおい、由美っペ。毎回ジンさんに先生をさせていたんじゃ、ゆっくり飲めないじゃないか。別の時にしなさい」

「大将、いいんですよ。それが自分の趣味みたいなもんですから」

「すいませんねえ。由美っペの奴、結構本気で勉強してるんで、なんだったら、休みの日に有料で教えてもらったらなんて言ってるんですよ」

「お金は取れませんよ。でも、暇な日だったら勉強会やってもいいですよ」

「ええ?ほんと?本気で教えて欲しかったの」

「じゃあ、明後日は、ここ休みだよね。良かったら昼過ぎにうちにおいでよ。夜も空いているんだったら花火を見に行こうと思っていたんで一緒にどう?」

「え、いいの・・・ほんと?」

「ああ、ただ、雄二が来てるんだけど、それで良ければ」

「あ、そうか。鳶野さんの勉強会をしてるって言ってたわね・・ええ、是非お願いします」

《1Point》
 暑さのせいで手を抜いたわけではありません(^_^;)
 
 ちょっと、流れを変えようと思って始めたら経営論に行き着きませんでした。ちょっと休憩ということでお許しください。
 
 次回より、新たな感覚で再開します。