6.SWOT分析

(前回まで:居酒屋みやびで、友人鳶野雄二にビジネスプラン策定のための指導を行っている。第1段階として、ビジネスモデル仮説を作る作業をすることとしたのだ。そんな時、みやびの看板娘由美から店の拡大戦略の依頼?があった・・・)

 確かに、この店は魅力的だ。
 だから、俺たちは定期的にやってくるし、人を誘うこともある。
 
「・・・大将、日本一、考えてみる?」

「いや、ジンさん、日本一は言い過ぎですよ。ただ、最近客足にムラが多いのは悩みの種なんでね。何か考えなけりゃあいけないかな、とは思っているんですよ。由美ッペもそれを心配してるんでしょう」

「おじさんは常連さんだけで満足しようとしてるけど、ホントはもっと若い人に日本酒を勧めたいんでしょ。もったいないわよ。ねえ、ジンさん。鳶野さんにだけじゃなく、この店についてもコンサルタントしてくれない?」

「うーん、俺なんかは客のわがままで、他の客が少ない方が落ち着けるなんて思っていたけど、日本酒話ができる常連がもっと増えると楽しいのは間違いないね」

「おお、ジン、そうだ、そうだ。俺の会社がでかくなったら、ここに交際費をバンバンつぎ込んでもいいが、そのためには、接待用に個室も作ってもらわなきゃいかんしな。みやび活性化戦略でも作って、みんなを安心させてくれ」

「鳶野さんの会社に支援してもらえるようになるまで、生き残っていればいいですがね」

「雄二のビジネスの成功まで何十年かかってもいいように、ゴーイングコンサーンを目指しましょう」

「何十年もかかってたら俺が生活できないじゃないか。ゴーイングなんとかっていうのも戦略の言葉か?」

「ゴーイングコンサーン。企業というのは永遠に続くということを前提に活動を行うということなんだ。前提であると同時に目的でもある。継続し続けることが社会的責任であるという考え方もあるな。どちらにしても、普通は、何年か後に解散することを前提に企業を経営しているなんて特殊な場合だけだ。たとえば・・・」

 何かあったろうか、と、ちょっと考えた。

「・・・そうだなあ、一時的に特別目的会社を作るとか、大型プロジェクトのための共同企業体なんかは、期限がある特殊な場合だな。でも、実際には、永続企業が一時的に出資した形にしているペーパーカンパニーみたいなものだから、永続を目指すのが基本だと思っていいだろう」

雄二が珍しく素直に頷いている。

「そりゃそうだな。ゴーイングコンサーンか。居酒屋みやびが継続し続けるためには、何が必要かを考えればいいんだな」

「今夜は遅いから、これも宿題になるかもしれないけど、みやびのSWOT分析をしてみましょうか」

「スウォット分析?しかし、カタカナばかりだなあ。日本語は無いのか?」

 雄二と同じような困った顔をして、由美ちゃんが口を挟んだ。

「ジンさん、そのSWOT分析って大変なの?いきなりは難しいかなあ」

「経営関係の用語っていうのは、頭文字を並べたものが多いんで、はじめはとっつきにくいんだけど、覚えてしまうと、後で思い出しやすいという利点もあるんだよ。やることは誰でも出来ることだから、みんなでワイワイやってみようか」

「え?すぐできる話なのか?」

「黒板にでも書き出したほうがやりやすいけど、紙とペンがあれば大丈夫だ。S・W・O・Tも頭文字を並べたもので、それぞれ、

 ・「S」は自社の強み(Strength)、
 ・「W」は自社の弱み(Weakness)、
 ・「O」は外部環境の機会(Opportunity)、
 ・「T」は外部環境の脅威(Threat)、
 
を表しているんだ。それぞれについて、思いつくことを書き出すことがこの分析の一番重要なところだ」

「???」

「強みというのは、文字通り自社が他社と戦える特長のことだね。例えば、みやびで言えば、日本酒の品揃えにこだわりがあるとかだね。逆に、弱みは、看板が目立たないとか、具体的なことでいいんだ。それに対して、外部環境の機会と脅威というは、自社ではどうしようもない外側の状況を挙げるんだ」

 雄二が身を乗り出してきた。

「強みと弱みは、なんとなくわかるけど、その外部環境の機会と脅威というのをもう一度説明してくれないか」

「細かい範囲では、顧客・競合他社・仕入先・近隣などで、広く言えば、経済状況・技術革新・政治状況・法律・流行などについて、自社の商売にプラスになる可能性のあるものを『機会』、マイナスに働くものを『脅威』として分類する。一般的に、細かい範囲を『ミクロ環境』・広い範囲を『マクロ環境』というんだけど」

「まあ、言うなら、みやびが儲かるようになるために、良い環境が機会で、悪い環境が脅威というところだな。後は、みやびの特殊事情としての強みと弱みを出せばいいわけだ」

「雄二、いいぞ。由美ちゃん、わかったかな」

「うん、なんとなく判ったけど、本当に思いつきで何でもいいの?」

「この分析は、余り先入観を持たないで、素直に出すことが大事なんだ。整合性とか、内容の吟味は後からやるから大丈夫だよ」

 由美ちゃんが、使わないカレンダーを持ってきた。空いているテーブルに裏側の白紙部分を広げて、サインペンも用意する。

「おじさん、今日はもう看板でしょう。みやび戦略会議でいいわよね」

「由美ッペにかかっちゃ勝てないなあ。ノレンしまってくれ」

 さっそく由美ちゃんは縄のれんを外して、看板の照明を切ってしまった。

「さあ、ジンさん、いいわよ。何から書けばいいの」

「わかった、わかった。それぞれ、一つくらいづつ例として考えよう。後は、宿題でいいね」

「仕方が無いわね。じゃあ、強みからね。これは、さっきも言ってたけど、日本酒の品揃えが強みってことでいいのね」

「そうだね。じゃあ、これからのことを考えて、そのカレンダーの裏を4枚使おう。それぞれに、(強み)(弱み)(機会)(脅威)って書いてくれるか。思いついたことをその紙に書き出せばいいよ。そう、(強み)の下に、日本酒の品揃え、って書いてみて」

「こうね。簡単な言葉で箇条書きでいいのね」

 大将も覗き込んできた。

「ジンさん、私は、広告宣伝をしていないのが弱みだと思っているんですよ。由美ッペにも時々言われるんですけど、インターネットのお店情報なんかに載せたことが無いんでね」

「そうなのよ。今の若い人は、飲みにいくたびにインターネットで検索して店を探すっていうのに、おじさんは良くわからないって、すぐ逃げちゃうんだから」

「面目ない。でも、確かに、町会の新聞に頼まれて広告を載せると、一見さんが増えるから、考えなけりゃいけないんだろうね」

「大将、そうですね。由美ちゃん、(弱み)の下に、インターネットを利用できていない、でいいかな。(グルメ検索サイト)って付け加えておいて。それと、同じようなことだけど、積極的な広告を行っていない、も並べておいて」

「じゃあ、次は、機会だな。俺は、この商店街の入り口にオフィスビルを作ってるだろう。これなんかは、客を増やす機会じゃないかと思うんだけど、どうだ」

「うん、それいいね。雄二もわかってきたな。じゃあ、脅威の例として、若者の飲酒離れっていうのはどうだろう」

「なるほどね。こうやって、それぞれに書き出していけばいいのね。思ったより簡単ね」

「じゃあ、宿題だね。俺たちもそれぞれ考えてみるから、今度、来るまでに大将と考えておいてくれれば、次のステップに進めるよ」

「そうね。大森さんや近藤さんにも協力してもらおうかな」

「そう、そう。色々な目で見てみると、分析だけじゃない発見があるかもしれないよ」

「ジンさん、鳶野さん。宿題の期限を決めなくちゃいけないわね。次はいつ来るの。明日?あさって?」

「由美ちゃん、気が早いなあ。でも、確実なのは、来週の月曜日かな」

「それじゃ、おじさん、1組予約完了ね」

「なんか、営業みたいだなあ。うまくやられた気がする」

「ジン。この店には、広告が無くても、強力な営業ウーマンがいるのが強みだな」

 みやびの将来には明るい灯があるようだ。
 雄二の起業といい、近藤さんの会社の診断といい、みやびを中心に仕事が広がっていく。

 これが、居酒屋のいいところなんだと改めて感じた夜だった。

「さあ、明日に向かって帰宅しよう」

(続く)

《1Point》

「SWOT分析」

・SWOT分析(-ぶんせき、SWOT analysis)とは、目標を達成するために意思決定を必要としている組織や個人の、プロジェクトやベンチャービジネスなどにおける、強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) を評価するのに用いられる戦略計画ツールの一つ。
(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

 作業としては、素直に、ブレーンストーミングなどでそれぞれの分類をしながら挙げていくのが一般的。

 注意点としては、それぞれ相対的なものであるため、参加者の解釈によって、まったく違った分類となることもあると思います。
 
 そのため、あらかじめ方向性を念頭に考えるやり方をしがちですが、そんな解釈の違いについて検討すると言う過程こそ、意味がある分析であることを忘れないようにしてください。

 やってみると、結構発見があるので、おもしろいと思います。
また、会社の組織などでやるんでしたら、定期的にやってみて、その後で、前回のSWOTと比べてみると変化の兆しを見つけられるかもしれません。