(前回まで:みやびにおいて、イノベーションを考えるという試みを始めました。安定期にあると思われますが、現実には外部環境や顧客層が変化しています。もう一度、事業の目的を再確認して、次なる経営のステップアップを目指します)

 イノベーションの7つの機会の1つ目である予期せぬ成功や失敗を考えてみた。それだけで、偶然の行動から日本酒カクテルという予期せぬ成功の事例が挙がったのだ。
 
「ちょっと考えただけで出てきましたね。それだけ、意識をしていないとチャンスは逃げてしまうということですね」

 由美ちゃんが興奮気味に刺身包丁を持ったまま身を乗り出してきた。

「日本酒カクテルがうちの次のステップなのね。おじさん、すぐに試してみましょう」

「由美ちゃん、包丁が危ない。そういきなり決めつけちゃいけないよ。イノベーションの一番難しいところは、結果は未来に出るわけだから、機会を捉えたと思ってもどうなるかわからないところにあるんだ。だから、常にアンテナを張って、機会を検討するけど、他のケースも考えながら最後には経営判断をしていくことになるね」

「そりゃそうだ。由美ッペ。急いては事をし損じるということだな」

「わかりました。で、ジンさん、その他の機会はどんなのがあるの?」

「第2の機会はギャップの存在だと言っている。つまり、ギャップを探し、その課題を解決することである程度容易にイノベーションを成し遂げられるというものなんだ」

「ギャップねえ。例えば、どんなものがあるの?」

「そうだね、外食産業が伸びているときに居酒屋も外食なのにそれほど伸びていないとか、最先端のレジシステムや注文を受けるシステムを導入したのにお客さんとのやり取りがうまくいかないというようなところがギャップと言われている。また、価値観の違いを認識していないとか、サービスに欠けている部分があるという声があれば、それもギャップと言える」

「ちょっと難しいわね。店や企業が良いと思っていることが現実にはお客さんの求めるものと違っているということを探すと言うことでいいの?」

「正解だね。ギャップというものは、現実には自分たちにしかわからないものなんだ。お客さんにとっては、なぜかイライラするようなことが、店にとってはより良くしようと思ってやっていることだったりする。そうすると、お客さんがイライラしていることに素直に耳を傾けて、自分たちの考え方ややり方を思い込み無しに見直さないと機会は見つからないということだね」

 大将が手を打った。

「なーるほど。最近大手の居酒屋で、メニュー画面をタッチするだけで注文できるシステムを入れているというので組合で見学に行ったことがあるんですよ。開発したメーカーの担当者は得意満面に説明していたんですけど、導入した店長に言わすとお客さんがあまり使ってくれないので、人を減らそうと思っているけどまだ出来ないって言ってました。私だったら、そんなもの使うんだったら、店員呼んで注文した方が早いと思ったんですが、あれなんかギャップかもしれないですねえ」

「ああ、あのカラオケのメニューみたいな奴ですね。店員が少なくなって、呼ばれてもなかなか対応できないという店側の都合が本当の目的なんじゃないですかね」

「最近増えてるのかなあ。初めは物珍しくて使うみたいだけど、酔ってくると結局面倒なんじゃない?」

「こういう風にお客さんの声を集めてくると自分たちの考えていることとのギャップが見えてくるよね。こういう作業を繰り返すことが、第2の機会となるということなんだ」

 由美ちゃんがメモを取り始めたのをみて付け加えた。

「イノベーションというのは期間限定でやるものではないことが重要なんだよ。企業なんかでは、業績が悪くなると思いついたように新規事業を立ち上げようとタスクフォースを編成して報告書をあげさせたりする。それよりも毎日の業務の中で、機会に繋がるものを常に検討できるシステムを作ることが大事だと思うね。そのためには、トップが常に本気で動くことが最低の条件だ。新規事業というのは、まさしく経営トップの責任だからね」

(続く)

《1Point》
全部を取りあげるにはまだ時間がかかりそうですので、今回も同じように7つの機会を掲示しておきます。

・イノベーションの7つの機会

第一が予期せぬことの生起である
第二がギャップの存在である
第三がニーズの存在である
第四が産業構造の変化である
第五が人口構造の変化である
第六が認識の変化、すなわちものの見方、感じ方、考え方の変化である
第七が新しい知識の出現である

 今回は、第二の機会として、ギャップの存在を探すことを取りあげました。ドラッカーは、このギャップを「業績ギャップ」「認識ギャップ」「価値観ギャップ」「プロセスギャップ」と4つに分類しています。
 
 詳細は、著書「イノベーションと企業家精神」(ダイヤモンド社)を参照ください。最新のドラッカー名著集(5)では、P45からP60まで説明されています。