49.短期と長期

(前回まで:ビジネス思考法の一つのフレームワークとして、3Sを紹介しました。漏れなく、ダブりなく検討するためにも、このような切り口を活用しましょう。)

【復習】
・合理化の3S
1)単純化(Simplification)
2)標準化(Standardization)
3)専門化(Specialization)

 近藤さんに3Sの視点を伝授し、インフルエンザパンデミックの話題で生ビールがすすんでいった。
 テーブルのお客さんと話し込んでいた由美ちゃんが戻ってきた。
 
「ジンさん。不況の影響はすごいみたいねえ。あっちのお客さんは、メーカーの技術者なんだけど、工場は毎週金曜日が休みになってるんですって」

「そうだね。うちの会社だって売上は随分落ちそうなんだよ。取引先が投資を控えている上に、値下げ圧力も強くなっているからね」

「大変ねえ。工場が休みになったら、お給料ももらえないんでしょう?休みがあっても遊びにも行けないわよね」

「まあ、会社都合での休業だから、確か最低でも平均賃金の60%は保証しなければいけないはずだよ。それでもきついよね。特に、残業が多い人にとっては、ダブルで効いてくるから、大きな減給になってしまうからね」

「うわー、きつそう。ジンさんの会社も売上減じゃあ、随分大変なの?」

「当然楽じゃないよ。でも、うちの場合、自社工場がないというのもあるけど、長期的な体質改善を現在の目標にしているから、短期的な売上減少はある程度まで覚悟しているんだ。各部門とも、10年先を見据えた活動に多くの時間を割いているから、不況にならなくても売上減少が起こってもやむを得ないというスタンスだからね」

 脇で聞いていた近藤さんも身を乗り出してきた。

「北野さんの会社の社長さんらしいね。うちなんて、成績については、シェアと売上・経常利益のことばかりだから大変ですよ。投資はストップ、旅費でも事務用品でもすべて一律にコストダウン目標が決まっているし、当然、人員削減も徹底しようとしてますからね」

「近藤さんの会社もですか。あの社長さんなら腹を括ってそうですがね」

「でもねえ。目標が達成できなければ仕方がないですよね」

 由美ちゃんも頷いている。

「やっぱり企業だから、売上や利益が上がらなければつぶれちゃう訳よね。仕方ないわ。ジンさんの会社が特殊なんじゃない?」

「由美ちゃん。前に、企業の目的の一つにゴーイング・コンサーンという考え方があるって話したよね」

 由美ちゃんが更に頷くのを確認して続けた。

「もちろん数字として実現した売上や利益というのは企業にとっては重要な指標だけど、それだけを見ていては結局企業が継続していくことが難しくなる。長期的視点で自社の戦略を考えておかないと外部環境の変化についていけなくなってしまうということだね。

だから、企業は、目標についても評価についても、短期的視点と長期的視点の両方から行って経営判断をしなければいけないんだ。そのバランスをとるのが経営者の役目だとも言えるかもしれない」

「目標も評価も?」

「そう。バランスをとるというのは、経営者だけが考えていてもダメなんだ。企業目標の短期・長期という計画に合わせて、部門目標や個人目標についても、初めから短期と長期をバランス良く立てなければいけない。そして、評価も必ず両面で評価をすることで、社内にバランスが生まれてくる。景気が悪くなったから、といきなり短期目標の達成だけ評価することは最悪の経営だよね」

「バランスね。そう言えば、バランススコアカードというのも、財務的視点に偏らないようにっていうツールだったわね」

「良く憶えていたね。あれも見方を変えれば、短期的視点と長期的視点を組み合わせたものだよね。特に、学習と成長の視点なんかは、長期的な計画を立てないと評価できないものだ」

「えへへ。ちょっと連想ゲームみたいな思い出し方だったけど」

「短期的視点と長期的視点というのは、あまりに単純すぎて正面から徹底できないかもしれないね。バランススコアカードの各視点でも、実際にはそれぞれ短期的な指標や長期的な指標があって、それぞれをどうバランスさせて評価するかが、運用のポイントなんだ」

 ふと経営者の言葉を思い出した。
 
「そう言えばこういう言葉があるんだ。
『経営者とは 一歩先を照らし 二歩先を語り 三歩先を見つめるものだ』
これは本田技研の本田宗一郎氏の参謀と言われた藤沢武夫氏の言葉なんだけど、味のある言葉だと思うな」

(続く)

《1Point》
・短期的視点と長期的視点

 説明するまでもないような視点です。
 しかし、結構日常的に両方の視点から検討するということができないのも現実ではないでしょうか。
 常に、この目標や評価は短期的なのか、長期的なのかを意識し、短期なら長期、長期なら短期で再検討してみることも必要だと思います。
 
 中小企業診断士の試験対策としても重要です。
 事例の目標や対策が短期的な視点に偏っていないかを、特に、経営者の夢や企業の強みの面と重ね合わせて検討してみてください。
 
 中で出てきたバランススコアカードについては、以前に登場していますので、ご参照ください。