36.組織成立の3要素

(前回まで:部下の山野綾との話は組織の目標と個人の生産性へ飛躍しました。)

 菊正宗の燗酒で身体も芯から温まってきた。

「山野さんも結構飲めるんだね」

「ここはお酒もお料理もおいしいですから。普段はこんなに飲まないんですよ」

「俺のペースに合わせず、もっと肴を注文した方がいいよ。大将、焼き鳥と厚揚げをお願いします。他に何か希望ある?」

「うーん。野菜の煮物がいいかな」

「野菜の煮物追加」

 そろそろ、酒を注ぐのを控えた方がいいかもしれない。

「北野さん。ホスピタルパスの話は、個人の心構えとしてはわかったんですが、組織として仕事をするための理論ってあるんですか」

「そうだね。チェスター・バーナードという人の公式組織論というのが有名だね。もう、70年ぐらい前の理論なんだけど、未だに基本的な考え方としては現役と言えると思うね」

「へえー。難しい理論なんですか」

「いや。70年も色あせない理論というのは、やはり基本的で、わかりやすいからかもしれない。特に、組織が成立するための3要素というのが中心になっているんだ」

「組織成立の3要素ですか・・・人がいて、何か目的があって、一緒にやろうという気持ちがある、とかですかねえ」

「山野さん、これ、知ってた?」

「いいえ、思いつきですけど、いい線いってます?」

「考え方は満点だよ。バーナードは、組織はシステムであるとし、その成立のための3要素として、『共通目的』『貢献意欲』『コミュニケーション』を挙げている。つまり、目的が明確で共通の認識となっていること、組織の構成員である個々人に貢献意欲があること、それぞれの構成員間に十分なコミュニケーションがとられていることが重要なんだという考え方だね」

「へえー、結構単純なんですね。でも、もしかしたら深いかもしれませんね」

「何か、思い当たる?」

「北野さんには叱られるかもしれませんけど、うちの営業部って目的が何なのか曖昧ですよね。みんな一生懸命がんばっているけど、共通の目的と言うより自分の成績とか、実績とかにこだわっているような気がします」

「なるほど。それぞれの営業担当者は、共通の目的を見ていないと感じてるんだね」

「ええ。皆さん、自分のお得意様を作るとほかの人に手を出させないんです。それは、自分の仕事だ、とか、あのお客さんは自分の担当じゃないとか。担当者がいないから内容がわからないと返事をしてしまうこともあって、組織として機能していないような気がするんです」

「我が営業部の組織としての一つの目的が、自分の会社のファンを増やすことになっているよね。そのためには誰でも対応できるようにしなければいけないという課題が挙がっている。これは、今も、システムで顧客データベースを中心にやろうと何度も話し合っていたよね」

「でも、みんな更新しないんです。お中元とか年賀状とかの名簿を作るときにやっとチェックしているくらいじゃないでしょうか。人によりますけど」

「そうかあ。それじゃ、それぞれの貢献意欲はどうだろう。組織に貢献するとか、協働意志とも言うんだけど」

「さっき言っていたホスピタルパスをしないというような意味ではみんな気を使っているとは思います。みんな想いはあると思います。もしかしたら、コミュニケーションが足りないのかもしれませんね」

「そうだね。そこに気づくと課題は見えてくるだろう。組織として効果的に活動をするためには、3つの要素についてバランスが取れている必要がある。実は、先日の営業幹部会議で問いかけたところなんだ。特に、官需営業課がバラバラになりそうだったんで、緊急に開かれたんだ」

「じゃあ、北野さんが、3つの要素で組織をきちんと成立させられるように動いているんですね」

「最後は人だから、いかに実践できるかはこれからさ。でも、みんなが危機感を持っているからいいチャンスだとも言えるだろう」

「そうですね。北野さんも、できたらもう少し課内で、こんな話をしてもらえれば違ってくるじゃないでしょうか」

「あ。そうだね。俺も組織への貢献意欲が足りないと言うことかもしれない。反省するよ」

「えへっ。生意気なこと言ってしまってすいません」

 舌を出しておどけている。こんな子だったんだと改めて社内と離れている自分を再認識した。
 
 大振りのぐい呑みを一気に呷った。

(続く)

《1Point》
・バーナードの公式組織論

 組織とは:意識的に調整された、2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム
 
 これが、バーナードのいう組織の定義です。個人では成し遂げられない目的に向かって、複数の人々によって形成されるシステムと解されます。

 組織が成立する3要素(これは、存続するための条件であると私は考えます)
 
 ・共通目的
 ・貢献意欲(協働意志)
 ・コミュニケーション
 
 これらがバランス良く均衡し、有効に機能することが組織を成立させ、かつ存続させます。。
 逆に見れば、組織の課題を抽出するときに、問題点を整理するフレームワークと考えられるでしょう。
 
 中小企業診断士の2次試験で、組織の問題を解答するなら、まずは、この3要素という視点で見てください。単純ですが、ほとんどがこのフレームワークで解答できると思います。