34.キャッシュフロー計算の分析

(前回まで:ジンの部下の山野綾と共にみやびに行きました。由美ちゃんの様子が変ですが、そんな中で営業キャッシュフロー計算について説明をしてみましたが雰囲気はわかりましたか?)

貸借対照表・損益計算書のサンプル

居酒屋のカウンターでキャッシュフローの計算をしたのは初めてだったが、演習問題の損益計算書と2ヶ年の貸借対照表のどこから持ってきた数字かわかるように書いていった。

2人の女性にのぞき込まれていることに気づいて、居心地の悪さとちょっと恥ずかしさを感じたが、残っていたジョッキのビールを飲み干して誤魔化してしまった。

「大将、営業の邪魔をしているわけじゃないけどもう少しで終わるんで許してね」

「ははは。由美っペの授業料のつもりですからかまいませんよ。忙しくなったら解放願いますよ」

「もちろんです。今のうちに燗酒つけておいてもらえますか」

「わかりました。菊正の樽にしますね」

大将の許可をもらって気を落ち着けた。

「これで営業キャッシュフローの計算終了。(P/L)と書いてあるのが損益計算書から持ってきたもので、(B/S)が貸借対照表からだよ」

「演習問題なんで随分端折っているけど、営業外収益は受取利息、営業外費用は支払利息として今回のキャッシュには影響しないのと法人税等も0としているので簡単になっているんだ」

 メモをながめていた由美ちゃんが口を開いた。
 
「つまり、この会社は損益計算書では純利益が+3百万円あることになっているけど、実際には営業活動でのキャッシュは-46百万円で危険な状態ってことなのね」

「実際に危険かどうかは、全体としてみていかなければいけないんだ。他のキャッシュフローの区分もあったよね」

 今度は山野が手帳を出して確認した。
 
「設備投資によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローでしたね。それと、フリーキャッシュフローという話もありました」

「そうだね。投資キャッシュフローは通常は固定資産の部を見ることでわかるし、財務キャッシュフローは主に短期借入金と長期借入金を見ることになる。それは、後で説明するとして営業キャッシュフローの中身を見てみよう」

 2人はもう一度額をつけるようにメモをのぞき込んできた。由美ちゃんがつぶやいた。
 
「純利益や減価償却費のプラスに対して、売上債権や棚卸資産のマイナスが大きすぎるのよね」

「そうそう。項目が少ないので順番に説明するね。
最初の『税引前当期純利益』はいいよね。計算上の利益だね。次の『減価償却費』は過去に支払は完了しているため、実際には隠れたキャッシュとして会社に残っているというものだ。

これに対して、『売上債権の増減額』が大きくマイナスとなっているというのは、未回収の売掛金や受取手形が増えていることを示している。

『棚卸資産の増減額』はコストは発生しているけどまだ商品として売れていないものを言うから在庫が増えていっているようだ。

最後の『仕入債務の増減額』は、買掛金や支払手形が増えているということでキャッシュを残していることになる。でも、売上債権に較べて非常に少ないから、全体的に不利な取引条件になっているかもしれないね」

 山野が頷きながら感心しているようだ。

「へえー。こうやって計算表を作ると会社の状況までわかってくるんですね。営業キャッシュフローだけから見ると、商品在庫が経営を圧迫するかもしれないし、取引条件を見直さないと大変なことになりそうだというのが見えてくるような気がします」

「そう言うことで正解だよ。決算書だけでも、会社の状態をいろいろな角度から予測できるんだ。とりあえず、今日はこの辺にしないとお酒が熱燗になってしまう」

 講座終了宣言を一方的に出して大将に声をかけた。
 
「大将。お燗そろそろじゃないですか」

「さすがジンさん。大体54度になったところだからそろそろ上げようかと思っていたところですよ」

「北野さん、私もお燗したお酒もらっていいですか」

「もちろんだよ。由美ちゃん、山野さんにもぐい呑み出しておいてね」

「ハイハイ」

(続く)

《1Point》
・キャッシュフローの計算の裏技

 前回の説明に項目と数字を入れてみました。大幅に簡略化していますが、大体の雰囲気をつかんでみてもらえればいいと思います。
 
 今回の営業キャッシュフローに対して、投資や財務は実はチェックする項目が少ないため裏技?があります。
 
 ポイントは、3区分すべてのキャッシュフローを合計すると貸借対照表の「現金・預金」の増減額になることを利用するのです。
 
 例えば、(当年度の現金預金)-(前年度の現金預金)=4とした場合、営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー+財務キャッシュフロー=4になります。
 
 これを使って、検算するのは常套手段ですが、単純な投資や財務の増減から投資キャッシュフローと財務キャッシュフローを引いて、営業キャッシュフローを出すという技が使えます。