3.ビジネスプラン

 「みやび」の店内もにぎやかになってきた。
 
 近くの会社の若い社員達が、議論をしながら飲んでいる。
 新入社員達がそろそろ落ち着いて仕事に取り組み出す時期なのだろう。
 
 我々にも、やっと落ち着いた「酔い」が回り出した。
 
 2杯目の獺祭を嘗めながら、雄二の話に耳を傾ける気になったのがその証拠だ。
 
「雄二。今日電話をかけてきたのには何かあるんだろう?」

「おう。無駄な動きがないのが俺の強みだからな」

「・・・意味がわからん」

「まあいいさ。実はな、お前が前に言っていた独立のためのアイディアを思いついたんだ。今の仕事も落ち着いているし、この辺で一発奮起しようかと思うんだ」

「もしかすると、そのアイディアで独立するために俺に出資しろとでも言うんじゃないだろうな」

「そこまで俺も図々しくはないさ。この前言ってたろう。人は、強みを生かす仕事をしろってな。だから、しがないサラリーマンのジンに金を出せと言うのは無理なのはわかっている。お前の強みは、人にお節介を焼くことだ」

「・・・で?」

「どうやったら、このアイディアで会社を作れるかを教えてくれ」

「待て、待て。簡単に言うな。そのアイディアっていうのは、どこまでビジネスプラン化してるんだ」

「ビジネスプラン?何じゃそりゃ。俺は、新しい出版のアイディアを思いついたんだ。それで会社を作って始めようと決心した起業家だ」

「うーん。やっぱりなあ。まあいい。それじゃ、第一の質問だ。どこまで本気なんだ」

「どこまでも本気だ。もう辞表は書いてある。いつでも、社長になれる」

「無謀ではあるが、強い意志はある、というところか。この前の話を真に受けたんだろうが、雄二の強みの一つにひらめきと実行力のパワーがあると思うんだ。それが商才かもしれないと思って焚き付けたんだけどな」

「それで、どうなんだ。協力するのか」

「コンサルタント料はもらえるんだろうな」

「バカ言うな。俺とお前の関係だ。タダで応援するのが筋だろう」

「どんな筋だ。これはビジネスだ。本気なら、こういうコンサルタント料もビジネスプランに入れておくべきなんだ。とは言いながら、俺もプロコンというわけじゃあない。とりあえず、仕事の合間にアドバイスはする。ただし、これでビジネスとして成立したら、顧問契約をしてもらうからな」

「これで契約成立だな。で、俺は何をすればいい」

「たぶん、その新しい出版のアイディアっていうのは、思いついただけだろう?市場調査なんかはしてないんだろうな」

「してない」

「まず、アイディアだけじゃ進まない。まず、『誰に・何を・どのように』提供するのかを仮定しよう。いいか、1回ですべてやろうとするなよ。アイディアを必要としていると思われる人の中で、どういう人たちをターゲットにするかを考えてくれ。ターゲットを明確にすれば、次に、そのアイディアがどう生かされるのかを検証して、いけそうかどうかの判断ができるんだ」

「誰でもいいんだけどな。アイディアが受け入れられれば、一気に広がるんじゃないか。絞ったんじゃ、市場が狭くなっちまう」

「大企業ならまだしも、個人が始めるのに全世界を相手に始めるわけにはいかないだろう。簡単に言えば、広告を出すにしても、子供相手なのか、女性相手なのか、高齢者向けなのかで、全然違う内容を考えなけれりゃいけない。まずは、ターゲットを決めて、ビジネスモデルを作り上げることが第一だ」

「わかったよ。言うとおりにする。誰に売るかを決めればいいんだな」

「じゃあ、宿題にするぞ。ターゲットにした人がそのアイディアをどう利用するかを流れにしてみてくれ。たとえば、ものを売るなら、その人はどんなとき欲しくなって、どうやってそれを見つけて買おうとするのか」

 ふと視線を感じて目を上げると由美ちゃんがこちらを見ていた。
 
「なんか、難しい話をしてるのね。めずらしいんだから」

「ははは。雄二が会社を作るって言うんでね。いきなり撃沈してしまったら困る」

「鳶野さん、仕事辞めるの?」

「そのつもりなんだが、ジンがややこしいこと言ってるんですぐには無理かもな」

「それが、ビジネスプランとか言うものなの。仕事の計画?って何?」

「簡単に言うとね、アイディアだけじゃ、たとえば、どうやってモノを仕入れるのかとか、売値をどうするのかとかいうことを決めないと商売にならないだろう。そういう仕事の仕組みまで考えたのが、ビジネスモデルっていうんだ。一般に『儲ける仕組み』と言ってもいいかな」

「そのビジネスモデルを会社の経営計画にまで練ったモノがビジネスプランというんだ。初期投資が必要なら、どこから資金をいくら借りて、どうやって返していくかということまで考えたものだ。これがないと、銀行もお金を貸してくれないんだけどね」

「ジン、何となくわかったよ。漠然とアイディアは考えたけど、具体的にしろってことだな」

「そう言うこと。由美ちゃん、雄二のビジネスが成功したら、俺たちも儲かるようにプランを練っておこう」

「何々?金儲けの話なら私も乗るよ」

「大将まで・・・よっしゃ、大船に乗った気でいてもらおう。その代わり、これからは鳶野社長と呼んで貰うよ」

(続く)

《1Point》

・ビジネスモデル:ビジネスとして成立させるための方法をまとめたもの。Business Methodという英語の方がイメージしやすい。
簡単に言うと「儲かる仕組み」

・ビジネスプラン:ビジネスモデルを具体的な事業計画書にまとめたもの。
簡単に言うと「儲かると思わせる全般計画」(^_-)