23.経営戦略へ

(前回まで:閑話休題が続きます。経営の基礎用語について、由美の質問に答えています。ミッション・ミッションステートメント・ビジョンについて話が展開してきました)

水尾のひやおろしは、蔵のミッションに違わぬ落ち着いた酒だ。
良い水、良い米を使うことをベースに基本に忠実に造っていくという方向性をきっちりと見据えているのが伝わるようだ。

「大将、良い酒ですねえ。言葉だけじゃなく、まじめさが伝わります」

大将が出してきた日本酒のパンフレットにこの蔵のミッションとミッションステートメントを見たように思い、由美ちゃんへの説明に使ってきた。

「私も最近扱いだしたんですがね。派手さはないけど、しっかりした造りだと思いますね。」

「ねえ、ジンさん。おじさんも絶賛のこのお酒はビジョンを達成できるように造られたのよね。具体的な経営目標を達成するために何をしたらいいのかしら」

経営論の授業みたいになってきたなあ、とふと思う。

「由美ちゃん、随分経営に興味を持ってきたみたいだねえ」

「うん。ほら、アメリカに留学した沙知がMBAを取るんだって言ってたでしょ。鳶野さんやジンさんのことをメールに書いたら、沙知からも経営用語を使って返信が来るようになったの。彼女も苦労しているらしいけど、鳶野さんの起業の話にものすごく興味を持ってたわ。ジンさんはその時何をしたのとか、どんな順序でやるって言ってたのとか。」

「ほー。沙知と俺がどうしたって」

「キャ!幽霊」

いつの間にか雄二が戸を開けて顔を出していた。

「お前はホントに噂をすれば影だなあ」

「最近のジンの会社がどうなるか心配してきてみたんだよ。お前は大丈夫だって言うけど、マスコミの煽り方によっては、傾くかもしれないからな。その時はうちに雇ってやっても良いが、もうしばらくは、無料でコンサルして貰わないとキャッシュが足りないしな」

巨大な身体をカウンターに沈めながら生ビールをウィンクで注文している。

「ハイハイ。鳶野さんに生ビールね。沙知はね、鳶野さんに興味があるんじゃなくて、会社を作る過程に興味があるんだって。残念でした」

「まあいいさ。沙知は元気なのか?」

「そうね。彼女はそんじょそこらの才女とは違うしね」

「ま、そりゃそうだ」

「ところで、ジンさん。さっきの話に戻っていい?」

「うん。ビジョンの達成の話だったよね」

とりあえず、話の腰を折りたい雄二とは乾杯だけして話を戻した。

「ビジョンが明確になった時というのは、前もやってみたSWOT分析なんかで、事業環境を分析しているはずなんだ。そこで、ドメインに従って絞り込んだ事業のビジョンを達成するために戦略を検討することになるね」

「それなら、俺にも話がわかるぞ。ドメインは、誰に・何を・どのように提供するかを絞り込んで作るわけだから、そこで売上や利益目標を達成するためのやり方が戦略というわけだな」

「雄二、まあまあの合格だな。この辺は、一方通行で決まるわけじゃない。実際には、行ったり来たり、ドメインと環境分析を見直しながら、戦略と言える方向性を決めるんだ」

由美ちゃんが、アジフライをカウンターに出してきた。
熱熱を一口かじってひやおろしで落ち着かせる。

「戦略といのは、簡単に言えば、やらないことを決めることだと思っていい。戦略という字を考えてみればいい。戦を略すと書くだろう。仕事のやり方にはあらゆるパターンがある。でも、すべて試すわけにはいかないから戦略によってやることを絞るともいえるね」

「戦略というと前に教えて貰ったマッカーシーの4Pで出てきたよな。商品サービス戦略・価格戦略・プロモーション戦略・チャネル戦略だった」

「驚いたな。暗記したのか。昔の雄二じゃ、考えられんな」

「バカいうな。俺は経営実務のプロになろうとしてるんだぞ」

「参った。とは言っても、今のレベルはもっと上だな。残念だが、由美ちゃんに教えたいのは経営戦略レベルの話だ」

再度、由美ちゃんがカウンターにちょこんと座った。

「それじゃあ、ジン先生、戦略講座をお願いします」

(続く)

《1Point》
・経営戦略

一般的に経営戦略を考えるときに出てくるのが、アンゾフ・コトラー・ポーターです。次回から、経営戦略の基本と言えるこれらを説明するつもりですが、今回はつなぎなので、具体的な話に入れませんでした。

予習として、以下を検索等してもらえれば効果的です。

・「PPM」:ボストンコンサルティンググループ(BCG)
・「成長ベクトル」:H・イゴール・アンゾフ または成長マトリクス等
・「ポーターの競争戦略」:マイケル・ポーター
・「市場地位別戦略」:フィリップ・コトラー

・マッカーシーの4P
以前に登場しました。以下を参照ください。
みやび経営コンサルタント:マッカーシーの4P