13.仮説調査のデータ

(前回まで:ビジネスモデル仮説を立てつつある雄二に携帯メールで指導しました。切り口として、マーケティング・ミックスの視点から、マッカーシーの4P を提示し、これを利用することで判りやすくしようと考えています。)

その後、雄二からは何度か質問のメールが入ってきた。
その中で整理されてきたものは以下の通りだ。

・セグメンテーションの基準とターゲットの具体的な姿
・ターゲットのニーズ
・ニーズを満たすための業務フローと個別戦略
→個別戦略は4Pの切り口で整理した。
・Product戦略、Price戦略、Promotion戦略、Place戦略

なんとか一週間を乗り切った。
社内の内部統制責任者は、グッタリした様子でまだまだ終わらないという顔をしていたが、営業部門の3点セットは提出完了。

会社の業務とは別に、内部統制の考え方やフレームワークは、当たり前でありながら使えるものだと感じた。問題は、求められている「財務報告に関する内部統制」が、財務諸表のもう一つの監査報告書である点だ。

内部統制については、自分なりのフレームワークとして整理し、企業のコンサルタントに使っていく気でいる。

雄二からは、金曜日には中身を見てくれと督促されていたので、社内の管理部門の人たちの視線もものともせず、早々に退社した。

商店街入り口のオフィスビルも順調に建設が進んでいるようで、遠くからでもほぼ全容が見える。

みやびへの路地に入ると、店を物色中のサラリーマングループやこの先の地下鉄入り口への通過客が目につく。

赤提灯や定食屋やラーメン屋の看板が数軒あるだけで、飲食店街と言うには若干寂しい通りだ。

飲食店は、商店街にも何軒かあるのだが、メインの通りと各路地の飲食店マップを案内板にでもしたらどうだろうか?と突然ひらめきながら、みやびの縄のれんをくぐる。

「いらっしゃい。毎度」

いつものだみ声がホッとさせてくれる。

「ジンさん。鳶野さん、もう着いてますよ」

いつものカウンターに大柄な雄二が座っていた。半分振り返って、「よっ」と片手を上げ、ついでに生ビールのジョッキを呷っている。

「ジンさんもいつもの生中ね」

頷く隙もなく、由美ちゃんはジョッキに生ビールを満たして運んできた。いつもながらの速攻だ。

いつもより早めだったせいか、常連の大森さんや近藤さんは来ていないようだ。
雄二が待ちきれないように乾杯をすると例のルーズリーフを開いて押しつけてきた。

「先生。早く見てくれよ」

「お通しくらいつまませてくれよ」

「まあ、そのくらいは許してやろう」

焼きそら豆を口に放りこむと夏の味がしみ出した。

余韻を楽しみながら、ビールを一口。やっぱり、至福の時というのはこの時を言うのだろう。

雄二の『独立への道』ルーズリーフの最新ページには、整理してきた項目が並んでいた。
個別戦略については、例えば、

(Price):販売価格は、簡易製本で500円から1000円程度とし、文庫本程度がターゲットだろう。

(Place):コンビニの流通を利用する。ネット注文、コンビニ受取を可能とする。

など、それぞれ列記されている。
しばらく、ビールをチビチビ嘗めながら、イメージをふくらませてみた。

ターゲットとニーズの整合性、ニーズを満たすための情報とモノの流れ、業務フローと各マーケティング戦略。

雄二が心配そうな目で見つめているのを感じる。由美ちゃんも後ろに立って、無言だ。

「うん、仮説としては成立してそうだ。いい感じだな」

「そうか、がんばった甲斐があった。さあ、俺の奢りだ、乾杯しよう」

雄二が満面の笑みで、生ビールの追加を注文し、立ち上がった。

「さあ、独立への船出にかんぱーい」

「まあ、ひとまず、乾杯」

「なんだ、なんだ、ジン。もっと喜べ」

「雄二、船出には早いぞ。泥船で出ることになる。まあ、奢りのビールは飲ませてもらうが」

雄二の気が変わらないうちに一気に飲み干す。

「フーッ。うまい!」

「判ってるさ。次は週末の宿題が待っているわけだな」

「これは、仮説だと言ったろう。次のステップは、このビジネスモデル仮説を検証するんだ。例えば、市場のニーズは増大していると仮説は立てられているが、それが本当なのか、反証はないかを調査するんだ」

「みんなに聞いて回るんじゃないだろうな」

「ターゲット数が小さければ、直接聞くのが手っ取り早いかもしれない。ただ、直接聞いても本音を言うかどうかは判らないから、単純にはいかないけどな」

「じゃあ、どうやって調査するんだ」

「一般的には、1次データと2次データを組み合わせていくことになる。待て待て、判ってるって。1次データというのは、人の手を経ていないデータということで、自分たちで、仮説を検証するために、アンケート調査をしたり、インタビューしたりして集めたデータを言うんだ。
それに対し、2次データというのは、政府機関が調査・発表していたり、業界団体や業界誌、マスコミから得られる情報、公式な報告書などを言うんだな」

ビールで口をしめらせて続けた。

「だから、まずは、2次データを集められるだけ集めて、裏付け作業を行うことになる。例えば、出版のニーズが高いかどうかは、業界誌の情報や出版関連の書籍や統計資料が無いかどうかを調べて見ることだ。同時に、インターネット同人誌などの情報を調べてみるのもおもしろいかもしれない。競合分析にもなるからね」

「だんだん地道な作業になってくるなあ。確か、このアイディアを考えたとき、どこかのシンクタンクの調査を見た記憶があるんだ。潜在的ニーズだったと思うが、あれなんか見つけてくれば良さそうだな。とにかく、仮説項目毎に2次データを探して検証できればいいんだな」

「それが第1段階だ。考え通り検証されそうならいいが、反証がたくさん出てきた場合は、その項目について見直す必要がある。できれば、競合となる企業にヒアリングしたり、専門家と言われる人に話を聞くことができればよりいいだろう・・・」

「・・・次に1次データに取りかかる。これは、正直言って個人には難しい。でも、この間話していて気づいたんだが、雄二が入っているSNSに参加している人が顧客になりそうだって言ってたよな」

「おう。あそこのコミュニティーは俺が作ったんだ。それこそ、文章を書くのが好きで、これまではメジャーどころの小説賞や携帯小説なんかにもチャレンジしているがもっと違った形を求めている人々が自然に集まってきた」

「そこで、まじめにアンケート調査的なものをやってみたらどうだ。ある程度、やろうとしていることを公表して意見を聞いてみるのもいいかもしれない」

「そりゃいい考えだ。アンケートの内容は考えてくれるか?」

「そうだなあ。一度、そのSNSのコミュの発言を確認してみて考えてみよう。招待しておいてくれ」

ビジネスモデル仮説検証の方向性は見えてきた。

店の中もにぎやかになってきた。

(続く)

《1Point》
・「1次データ・2次データ」
・1次データ:何らかの目的のために直接行われた調査等で入手されたデータのこと。
・2次データ:すでに何らかの目的のために収集されている既存のデータのこと。

一般的に、2次データを利用して全体的な検証を行い、より明確な検証を行うことを目的に1次データの収集を行う。
2次データには、統計データや白書のデータのような外部から得るモノとすでに企業の中にあるモノがある。

現在の状況:

『ビジネスモデル仮説の検証』:仮説の項目に基づいて調査を行います。その後、環境分析を行って検証していきます。

『環境分析』←たぶん次回のテーマ

(Next Stage)