124:営業とは

【主な登場人物】
ジン(北野):主人公 サラリーマンの傍ら経営コンサルタントをしている
黒沢:居酒屋みやびの大将 酒と和食へのこだわりが強み
由美:居酒屋みやびの元 看板娘 黒沢の姪
雄二(鳶野):ジンの幼なじみ ジンの応援で起業を目指している
大森:みやびの常連 地元商店街の役員
近藤:みやびの常連 建設会社顧問
亜海:居酒屋みやびの新しいアルバイト
原島:ジンの高校の大先輩。新社長としてジンにアドバイスを求めている。

「いらっしゃい。ジンさん、毎度」

 大将のだみ声が迎えてくれるいつものみやびだ。

「よお、ジンさん。景気はどうだい?」

 常連の大森さんと近藤さんもいつも通り、日本酒をチビチビやっている。

「一時期のひどい時期は越えたようですね。売上も持ち直してきましたね」

「そりゃ、いい話だ。ジンさんの会社は営業力が大したもんだから、情報が信用できるんだよな。ウチも仕入れを増やせそうだ」

 生ビールを持ってきた亜海ちゃんが珍しく質問してきた。

「会社の営業って大変なんでしょ?汗だくになって、会社の偉い人に叱られたりするのよね」

「亜海ちゃん、その話はどこから仕入れたの。別のアルバイト先?」

「主にTVドラマでーす。営業マンって初めはみんな叱られている感じだし、かわいそうって感じ」

「・・・な、なるほどね。まあ、そんなイメージかもね」

 生ビールでみんなと乾杯し、一息ついた。

「ウチの営業部もいつも苦労しているから、亜海ちゃんの言うこともわかるなあ。ジンさんが、ウチの営業部に成果を出す営業活動をアドバイスするとしたらどういうのか興味あるなあ」

 建設会社の近藤さんが、質問を投げかけてきた。

「近藤さん、またきつい質問ですねえ」

「ジンさんのコンサルとしての考えもあるだろうし、実際に営業部でも活躍しているわけだから、余計聞きたいなあ。ねえ、大森さんもそう思わないかい」

「もちろんさ。この前は、支店との営業システムについてアドバイスもらって助かったところだからね」

「うへー。正直言って一番難しいですよ。理屈じゃうまくいかないことを日々実感しているんですから」

「その実感を教えてもらえればいいんだよ」

「じゃあ、持論ですよ。そうですね。まず、営業というのは、読んで字のごとく、業を営むということですから、会社の事業全体を言うということだということを再確認することですね。営業部門というのは、会社の営業にとって一番重要な顧客との接点を受け持っているということで、『営業』という名前を冠しているというのが一般的だと思います」

 近藤さんが大きく頷いた。

「ジンさんのその考えは、ウチの経営企画チームでの議論でも中心的な考え方だよ。営業部だけが営業をしているわけではないということをスタートラインにしようってチーム方針に明記しているくらいだ」

「それを経営者から担当者まで、しっかり認識できていれば、営業活動のほとんどの課題は日常的に解決できるというのも持論の一つです」

「え?それは是非聞きたい」

「全員営業ですね。例えば、ある製品を販売する事業を行っているなら、開発部門も製造部門も、品質保証や法務部門も常に、この製品の特徴を知っていて、顧客が利用するシーンを共有していれば、常に社内で様々な意見が出てくるはずです。街中で偶然自社の製品を見るかもしれないし、友人や親戚からその製品についての意見をきくかもしれません。そんな日常的な情報を社内できっちりフィードバックしているかどうかを考えてみると一つの評価基準になるかもしれません」

「なーるほど。自分の仕事をこなすだけじゃなく、自分も製品の営業担当者だと思って意見や情報の共有に積極的に取り組むことで全員営業か」

「そのためには、トップ以下で仕組みを作ることも大切かもしれませんね。例えば、自社の製品がどこで、どう売られていて、誰が買うのか。もしくは、近藤さんの会社のように、マンションを作っているなら、自社の作ったマンションが一目でわかるマップを社員で共有して、意識付けをしておくなどですね」

「そういえば、昔、某大手建設業者がCMで『地図に残る仕事』というキャッチフレーズを出したことがあったろう。実は、あれには、我々も感動したんだけど、どの部分が自社で地図に残した仕事なのか、簡単にはわからないという話題にもなった」

「今は、精密な地図が無料で操作できる時代ですから、例えば、全社員の閲覧できる地図データに自社の施工部分を重ねられるようにすればいいですよね。それだけじゃなく、例えば、道路なら連休などに家族旅行で出かけた行程を地図に記入して、一番自社施工部分を通った社員を表彰するとかいうイベントをやったら、自社の施工部分を知って利用できますよね」

「自社のやった部分に亀裂があったなんて報告があがるかもしれないね」

「そうしたら、営業部門が道路管理者に、ここの補修が必要じゃないですかという細かい提案ができるかもしれないですよね。マンション部門だったら、自社や他社の作ったマンションに住んでいる人から、住んでみてよく感じるところや直して欲しいところのアンケートを取ったら自社の設計や顧客への提案に活かせるかもしれませんよね。それも、自社内でのアンケートですから、費用もかからず、詳細な内容の再確認や実際に現地を調査することすらできるかもしれません」

「営業部門のみが営業をするんじゃない。全員で営業し、その活用を営業部門でするんだということだね」

「その通りです、近藤さん。だから、経営者が明確に経営理念や具体的な方針を通して社員全員に周知させることが重要です。そして、日常的に意識できるようなシステムを作って、全員営業が自然にできるようにすることです。たぶん、それが、営業活動の壁を突破するきっかけになりますよ。ウチの会社で最近取り組んでいるそのものなんですが」

「今度、経営企画チームに営業部門と合同で検討してみるように提案してみるよ。いい話を聞かせてもらったね、ありがとう」

 簡単な話ではないが、一つの考え方だと思っている。

(続く)

《1Point》

 また、困難な領域に足を踏み入れてしまいました。
 
 実は、今回はテーマを考えるに当たって、Googleのサービスの一つである「Google AdWords」に「質問、マネジメント、経営」というキーワードを入れて検索してみました。
 
 もちろん、「マネジメント」「経営コンサルタント」などこれらの言葉がついたものが数多くヒットしたのですが、なぜか、単なる「営業」が出てきていました。それも検索結果の1ページ目での最大の検索数だったのです。
 
 理由の正確なところはわかりませんが、その結果からリンクする「営業」についてのWEBページには、営業方法や戦略など細かな説明が多くありました。
 
 これらを眺めていて、みんな営業活動というものに悩んでいるんだなあというのを強く感じたのです。
 
 20年間営業部門に席を置き、現在も営業を管理・統括するような部門にいることもあって、持論を一つ出したくなったのが今回の内容です。
 
 もちろん回答ではありません。ただし、日常的に感じることではありますし、ある撤退してしまった事業で実際に企画していた中身から抜粋しました。
 
 営業とは、営業部門の専門職能と言うわけではないし、全部門が外部から情報を得るという組織の力を利用することが、競争力を持った会社を作り上げるためのキーポイントだと思っています。