10.改善のプロセス(PDCA)

(前回まで:居酒屋みやびで由美ちゃんを中心に抽出したSWOTを元に、個別戦略を検討するためにクロスSWOT分析を始めました。お客さんそっちのけで、みんなが額寄せ合ってジンの説明を聞いているところです。)

他のお客さんに気を使いながらも、みんな思いつくままの改善策を出していた。

例えば、近藤さんが突然ひらめいたように言い出す。

「そうだ。やっぱり、商店街の顔役の大森さんという強みを、機会であるオフィスビル攻略に使うべきですね。ねえ、大森さん。商店街のイベントにオフィスビルに入った会社も巻き込むつもりなんでしょ。ここのお勧めのお酒の利き酒会や試飲会をやったらどうだろう。OLさんは情報通だから、本当にいい酒だったら結構集まると思うんだけど」

大森さんも乗ってきた。

「そりゃいい。商店街の各個店が自分の店の特徴を前面に出せるようなイベントを企画してるんだよ。黒沢さんがやる気なら、手伝いを出してもいいよ」

由美ちゃんが出てきた案をメモしながら、首をかしげている。

「うーん。脅威に対してはどうしたらいいんだろう。若者の飲酒離れとか、オフィスビル目当ての飲食店開業とかあるけど」

「脅威については、今のところ差し迫ったものはなさそうだね。あいまいな脅威なら、まずは気にせずに、機会に対して積極的に責める戦略を考えて、それからもう一度確認するということでいいと思うよ。機会を弱めると思われるオフィスビル自体への飲食店テナントが入るかどうかは、建築計画を確認すればある程度判るから、状況を確認するという方針でいいと思うよ」

居酒屋みやびにとっての戦略方針としては、当面、増築や多店舗展開を考えているわけではなく、繁閑対策と将来に続く常連を増やすと言うことだ。

「結構な案が出たし、割と具体的なものが多いね。今、一番大きな波となるオフィスビルのオープンをポイントに、それぞれ、誰が、何を、いつまでに、どのくらい行うか、というスケジュールを作りましょう」

近藤さんと大森さんが飲んでいた上喜元をお裾分けしてもらいながら、出てきた案を一つ一つやるべきことに分解して縦に並べてみた。

「できるだけ簡単そうなことから順に並べてみました。横軸に日付を記入して、オフィスビルの完成予定の10月をマイルストーンとしてみます。今日は、それまでにやらなければいけないことを決めておきましょう」

由美ちゃんが肩を寄せてのぞき込んできた。体温を感じて、少しドギマギするのを知らん顔をしてやり過ごす。

「建築確認は看板で判るわね。でも、実際入ってくるテナントはどうやって調べるの」

大森さんも乗り出してくる。

「それだったら、来月10日にあのビルのオーナーと商店街との協議会があるから、その時に状況を確認できるよ」

「テナントの入居状況は、8月10日に大森さんが確認、と記入しますね。看板を見てくるのは、明日、由美ちゃんでいいよね」

「もちろん。弱みの強化で、インターネット検索サイトに登録する仕方は誰か判るかしら」

「それくらいなら、俺が調べてこよう。会社宣伝の調査にもなるしな」

「雄二が、インターネット検索サイト確認、と。これも、今週中だな。大将、入り口の引き戸のガラスを替えるというのは、費用がかかるんですが、採用しますか?」

大将も腕組みをして考え出した。

「ここまでくりゃあ、店としても何もしないわけにはいかんでしょう。由美ッペ、この間、裏口の修理をしてもらった建具屋さんに見積取ってもらえるかい。どんなのが効果的なのか、相談して決めてくれれば、予算と相談するよ」

「それじゃあ、入り口の改装計画検討を2週間くらいですかね。担当は由美ちゃん、と」

こんな風にガヤガヤと具体的な改善案の『やること』と『責任者』、『期限』、『程度』を決め、チェックする日まで決めた。

「前にも言ったとおり、計画をして満足しないように。当然だけど、実行しなけりゃ、何にもならないですからね。今回は、大森さんや近藤さんまで巻き込んでますので、確認を怠りないようにお願いします。由美ちゃん、チェック日には、各項目の進み具合を確認して、遅れているようだったら厳しく指導すればいいからね」

大森さんが声を上げた。

「うひゃー、由美ちゃんに尻を叩かれるなんて、うれしいような、怖いような」

「大森さん。怖いって、何?」

「あ、由美ちゃん、うれしいに決まってるじゃないか。ちゃんと叩いてよ」

大将が合いの手を入れる。

「大森さんは、マゾだからねえ。ムチが必要かも」

カウンターでの爆笑に、テーブル客達がキョトンとしている。

雄二の教育も兼ねて、業務改善の手法をまとめることにした。

「これまでやってきたことを復習してみるね。まず、目的は繁閑の波が大きくなっている状態を改善するためと日本酒好きの常連を増やすために、SWOT分析を行ったんでしたね。次に、これらの分析結果から、クロスSWOT分析の手法で、具体的な戦略を抽出し、実行計画を立てたわけです」

みんなが頷くのを確認し、続ける。

「これから、今決めた計画を実行して、由美ちゃんがチェックすることになりますが、必ず、うまくいっているところとそうでないところや考えていなかった新しい事実なんかが出てくるはずです。そこで、もう一度、改善策修正や必要ならSWOT分析を行って、計画の修正・やり方自体の改善を行うというプロセスを繰り返すんです」

フムフムとみんなの目が集まっているのを感じながらまとめに入った。

「これらのプロセスをP-D-C-Aサイクルと言いますので覚えておいてください。
Pはプラン(Plan)、つまり計画ですね。どんな改善をするのか。
Dはドゥー(Do)で実行です。計画に基づいて実行してみる。
Cはチェック(Check)、実行の結果を検証します。
Aはアクション(Actin)、やり方の改善を行う。
という流れを表しています。こうして、継続して、計画-実行-チェック-改善を続けていくことが重要です」

由美ちゃんのメモをチラチラ覗きながら、ピィーディーシィーエー・・・とつぶやきながら洗い物をしたり、最後の酒を飲み干したりして夜が更けていった。

(続く)

《1Point》
・P-D-C-Aサイクル

一般的に改善活動の手法として使われるプロセスです。CとAを一つにして、「P-D-S(See)」として整理されることもあるようです。
どちらにしても重要なことは、これらが「サイクル」でなければいけないと言うことです。

実行して見直したら後はやるだけ、ではなく、常に計画自体を見直して、新たな仮説に基づいて戦略を練り直し、実行・検証・改善・計画・・・・と何度も何度も繰り返すことで初めて、本当の意味での業務改善につながっていくのです。